第131話 院殿大居士
プシューッ、プシューッ、
風切り音がしたかと思うと、
いままで飯山の虐待をはやしたてていた者達に
次々矢が突き立ってバタバタその場に崩れ落ちた。
「畜生、敵はどこだー。」
大混乱のなか全員が身構えた。
つねに臨戦体制におかれているため、
混乱してもすぐさま戦闘隊形を作ることが出来るが、
敵方の斬り込み隊は素早かった。
あっという間に
飯山が杭に縛り付けられている近くまで攻め込んで来た。
敵は大ナギナタを振るって
目の前にいる者を手当たり次第バタバタ斬り倒した。
ダーンダンダン、ダーンダンダン、
ダーンダンダン、ダーンダンダン、
ミョウレンゲンサンガンジュ、ミョウレンゲンサンガンジュ、
ミョウレンゲンサンガンジュ、
うしろのほうから大勢の太鼓の音と読経が
ピッタリそろって聞こえて来る。
それが大合唱になっていて、
大波が押し寄せるように、
大きくなったり小さくなったりして、
うねりながら全体に渦を巻いて
鳴り響いている。
それを聞いているうちに意識がグルグル回って、
頭の芯が痺れ、
その渦の中に意識が吸い込まれそうになってしまう。
見るとたくさんの僧侶だ。
しかし中には修験道の行者のような者も混ざっている。
数十人の僧侶達が巨大な団扇太鼓を
長いバチでいっせいに叩いている。
地響きがして恐怖心を起こさせる。
「飯山を隠せ。はやくしろ。」
まだまだ怨みは晴らせていない。
どれだけ待ちつづけたかわからない獲物だ。
簡単には失いたくなかった。
しかし隠しても相手にわかってしまうのだが、
形固はいそいで手下に命令して自分は刀を抜くと
打ち込んでくる僧侶達を迎え撃とうと飛び出して行った。
「院殿大居士を探し出せ。
ここにいるはずだ。隈なく探せ。
幻格大僧正が目印をつけておられる。」
「おー。」
僧侶と行者の集団が一斉に吠えた。
形固は驚いた。
院殿大居士といえば
飯山の背中に彫られた昇り竜の胴体に赤く刻印されていたが、
あのことだろうか。
変なものを彫ってやがると思ってはいたが。
まさか、こいつら飯山を奪い取りに来たのか。
しかし何のためにだ。
飯山とこいつらはどんな関係があるんだ。
形固は疑問に思ったが、理解出来なかった。
奪われてたまるか、意識はサッと硬直した。
「クッソー、そうはさせるかー。」
カーッと逆上すると、
またもやゴーッと体から大きな炎が噴き出した。
こいつらひとり残らずぶっ殺してやる。
「かかれー。絶対にこれ以上、中へ入らせるなー。」
形固の軍勢は真横に展開し、
最前列が短時間でつねに入れ代わる戦術をとった。
兵士の列と列のすき間が開けてあって
そこから矢が次々に飛んで行く。
そしてうしろにいる集団が側面に回り込んだ。
地獄の実戦で鍛えられたつわもの揃いだ。
お互いが死力を尽くしている。
またたくまに双方甚大な被害が広がって
至るところに屍が転がった。
一進一退を繰り返してなかなか決着がつかない。
しかし、僧侶集団の念力は強烈だ。