第130話 正念場
両腿が終われば次は胴体だろう。
胴体を潰されたら、
これまで以上の想像を絶する
痛みと苦しみになるにちがいない。
とても耐えられそうに思えなかった。
飯山は恐怖にくじけそうになるのを
必死で堪えていた。
死ぬことが出来ればどんなに楽だろう。
しかしどんなに酷いことをされても
死ぬことが出来ないのだ。
それはすでに死んでいるのだから。
何とかしてここから脱出しなければならない。
何か方法はないだろうか。
死にもの狂いで考えていた。
痛みに体が耐え切れずにブルブル震えて、
潰された両足から背中に彫られた登り竜が
形固を睨んでいる。
取り巻いて見ている者達は
形固の狂った剣幕に恐れをなして
近寄る者は一人もいない。
「ここから何とか脱出したい。
どうしたら脱出出来るだろう。」
飯山は必死に考えた。
しかし魂が想うことはすべて相手に聞こえてしまう。
飯山が心の中で考えているものは声になって
全員に聞こえてしまっているのだ。
「なにをー。逃げるだとー。
逃がしゃしねえぞ、この野郎。
まだ序の口だー。
泣き喚いて命ごいしろー。
助けてくれって言わねえかー。さっさと言えー。」
意外にしぶとい飯山に形固は苛立ってきていた。
飯山は限界を感じていたが、まだ折れなかった。
あたり一面地獄の霊が犇めきあいながら
成り行きをおもしろがって見守っている。
一度でも恐怖にくじけて
不様な命ごいなどしたらそれでもう終わりだ。
いままで極道を貫いて生きて来た誇りも
他人を恫喝して恐れさせることも、
すべて失ってしまう。
負けて命ごいした者を誰が恐れるだろう。
ここで飯山が負ければ形固の奴隷になってしまうのだ。
奴隷などになってしまったら
それこそ情け容赦なくいじめ抜かれるだろう。
ここは正念場だ。
形固はますます怒り狂って
思い切り腰を入れたハンマーを打ち下ろした。
グシャッと鈍い音がした。
「ギャー」
飯山は顔を歪ませて歯を食いしばったが、
背中を打ち抜いた極限の苦痛に
思わず断末魔の悲鳴をあげた。
「これで終わると思うな。これからだー。
これに耐えられたやつはいねえ。
堪えられるなら堪えてみろー。」
言うが早いか形固は立て続けにハンマーを飯山の背中へ振り下ろした。
飯山はあまりの苦痛に口がパクパクし呼吸も出来ず
白目を剥いて手足を痙攣させたまま気を失った。
背中の登り竜の頭がボコボコに潰されて、
山椒魚の頭のようになっていた。
「敵襲ー。
敵だー。敵が攻めて来たぞー。」
どこから慌てふためいて騒ぐ声がした。




