第117話 強行突破
その頃イタチは阿鼻叫喚真っただ中を利用して、
ひそかにサホミをこの場から連れ出そうとしていた。
しかし怒りが怒りを呼び、
怒りと怨みで戦っている者達の体から火炎が噴き出して、
まるで燃え盛る熔鉱炉の中のようになっていた。
角と牙が生えた赤鬼達が業火と狂気の中、
死に物狂いで相手を手当たり次第
抹殺しようとしている。
出口は乱闘真っただ中の庭を突っ切った向こう側にあった。
「強行突破しかないな。」
イタチは突破しやすい、人の数の少ないところを
しばらく確かめていた。
戦いの中で弱い者達は
無惨な屍となって多数転がっている。
人数は最初の頃より少なくなっているが、
残っているのは腕のたつ奴らばかりだ。
簡単に突破するのはむずかしいだろう。
しかし、だからといって
手をこまねいているわけにはいかない。
「よし、行くか。」
イタチは意を決すると
サホミに目配せして促した。
サホミは恐怖と戦いながらも
目にキッと力を込めて頷いた。
イタチはサホミの手を握ると
「よし、行くぞ。」
甲高い素っ頓狂な声で叫んだ後、
全速力で走り出した。
しかし熱い。焼けている。
殺気立った連中の憎しみは収まる気配がなく
夢中で相手を抹殺することに熱中している。
どんなことをしようが誰も止める者はいない。
どのような残虐行為であっても
行くところまで行くしか他に方法がないのだ。
法も秩序もない無法地帯。
自分の身は自分で守らなければ誰も守ってはくれない。
人間が安心して暮らすためには
法と秩序という型が必要なのであろう。
二人は熱く焦げて刃の飛び交う隙間を縫って進んで行く。
戦うことに夢中でまだ誰も気付かない。
気が付かないというより、
気付いてそちらに気が取られた途端に
倒されてしまうため結果として見つからなかったのだ。
出口が近づいてきた。
うまく行くかも知れない。
得体の知れない憎しみが全体に連鎖して、
門を見張っているはずの男達も乱闘になっていた。
イタチは動きを緩めると
門を抜けるのに邪魔になっている男を退けるために、
いつのまにか手に握っていた剣をソロソロッと抜いた。
「女が逃げたぞー。」
「逃げた。逃げーた。」
「逃げた女は八つ裂きにしてもかまわねえ掟だー。」
「逃がすなー。」
「やっちまえー。」
目敏く見つけた数人が口々に叫んで
ワラワラとイタチとサホミに向かって走り寄って来る。
女が逃げたと聞いて、一瞬全体が止まった。
いままで相手を抹殺することに意識を向けていた者達も
一斉にサホミに意識を向けた。




