第六話
お久しぶりです^^;
夢を見た。
私は魔法が使えていて。
誰かにとても大切に思われてて。
私もその人が大切だった。
懐かしい感じのする夢。
これは過去のことなのだろうか。
これが過去なら、幸せな時も夢から覚めるように消えていくのだろうか。
ノックの音と、ノアの声。
「殿下、起きていらっしゃいますか」
現実に引き戻される。
「はい」
「急いで支度をよろしくお願い致します」
寝起きでぼんやりする頭でノアの言っていることを反芻する。人目があるから敬語なの?
「こんな、早くに何かあったのですか?」
「陛下がお呼びです」
眠気なんて吹っ飛んだ。お父様が?こんな朝からの招集ってことは急ぎの案件か。
「隊服も持ってきました。入っても?」
「どうぞ」
隊服で行かなければいけない。
ということは、月光隊に関わること?ますます心当たりがない……。
「すみませんが、少し外で待って下さい」
「わかりました」
寝間着姿を見られた恥ずかしさを意識している場合ではない。早着替えして、すぐ外に出る。
「待たせてすみません」
「いえ」
「隊服ですし、走れますよ?」
「では、少し走りましょう」
最近、自然に喋っていたから、変な感じだ。でも周りには人目があるので、仕方ない。
とりあえず、宮殿の廊下を走る王女は初めてではないだろうか。
人目を集めてしまうのはもう仕方がない。
☆
「陛下、ただいま参りました」
そう言って膝をつく。いつもの王女の礼ではなく、臣下としての礼をとる。
床に膝をつくのは初めてだった。
「フィオネ?」
お父様は驚いていた。
「私は隊服を着ています。すなわち月光隊の隊員です。当然の行為と御受け取り下さい」
「わかった」
そんなことより朝から呼び出されたことが気になる。
「何の御用でしたか?」
「そうだったな」
ノアの声にお父様は少し苦笑する。
でも、それは一瞬だった。
「氷の神殿の氷が溶けている」
前とは違って断言だった。
☆
すぐに月光隊の隊舎へ急いだ。
先程の言葉を思い出す。
『フィオネ、課題を急がなくてはならなくなった。今日明日中に出立することを命ずる』
『わかりました』
『セルジオン、フィオネを頼む』
『御意』
急ぐことを余儀なくしなければならないほどの異変ということ?
「皆起きているか!!!!」
「まだ、眠ってる奴もいます!」
「起こすぞ!!」
「ただいま起きました!!!」
皆ドタバタと支度する。
「お嬢、隊長なんかあったのか?」
少し迷った。
「それを今から隊長が話すわ」
ここで一番偉いのはノア....ううん、隊長だ。
暫くして皆集まった。
「氷の神殿に今日明日中に行かないといけなくなった」
皆がどんな反応をするのか心配だった。
私の所為で、こんな得体の知れない任務を果たさなければならないから。私を疎ましがったりしないだろうか。
皆が笑ってくれなくなったら...。
怖い。
でも、そんな気持ちはすぐに打ち消された。
「本当ですかーー!!!!!!!」
はい?嬉しそう?でも、涙してる人もいるね?
「よっしゃ〜!」
嬉し涙を滝のように流していた。
嬉し涙なんだ。というか、嬉しいんだ。
「隊長っ!ありがとうございますっ!」
「原因はフィオネだから、フィオネに言っておけ」
「姐さん!うちの隊に来てくれてありがとうございます!!!」
私を姐さんって呼ぶのはサージュだ。
凄く驚いた。
私を疎ましがらないんだ。
私はここにいていいんだ。
少し涙が出そうだったけど、目元を拭った。
「姐さん?」
心配気にこっちを見てる。
嬉しいことを伝えたくて、笑って言った。
「私こそ、ありがとう」
....??
何故皆顔を赤くする?
「そこらへんにしとけ」
「ノア...隊長」
「フィオネ、出立は明日にするか?」
「今日行きます」
お父様が呼び出すほど緊急時。
一日でも、早く終わらせなければならない。
「今日行くべきです」
繰り返した。
「いいが、フィオネは大丈夫か?」
「大丈夫でしょう」
私が言う前に言ってくれた人がいた。
「副隊長⁉︎」
「キース⁉︎」
「昨日、木刀振ってましたしね」
見てたんですか!!!!!!!
「結構目立ってました」
「ええ⁉︎」
振り方分からずに振ってたのに!
恥ずかしい。
穴があったら入りたいと思う人の気持ちがよく分かる。でもここに穴あいてるわけないし。自分で穴掘りたい。
「じゃあ、出立の準備するぞ」
穴に埋まってる時間はない。急がなくてはならないのだから。
いざ氷の神殿!!............何か一気に緊張感が霧散した気がする。
☆
氷の神殿に着くのに時間はあまりかからなかった。
普通なら、氷の神殿は入口にも氷がある。氷の神殿の氷は簡単に溶けるものじゃない。
真夏でも、炎魔法でも溶けない。
「入口の氷が...!」
私だけでなく皆も驚いている。
入口の氷が溶けていた。中に入っても、寒いという程度ではなかった。涼しいという程度。中も少し、氷が溶けている。
「最下層まで降りるか」
氷の神殿は地下に祭壇がある。
祭壇で異変がある確率が高い。
でも、氷の神殿は危険だ。
普通、神殿はその属性を持つ神官が治めていれば危険はない。他の神殿はそれぞれ神官達が治めてくれている。
だけど、氷魔法を使える人間は珍しい。今の神官には氷魔法を使える人間がいない。だから、ほとんど管理されていないのもあって幻獣も発生しやすい。
「ウチには幻影騎士がいますから大丈夫ですよ」
不安そうな顔してたのかな。
「幻影騎士ってたしか、」
「俺のことだな」
「ノア!」
「とりあえず降りるか」
「...そうだね」
コツコツコツ
階段になっている地下へと向かう道。
音が響く。
ある時気付いた。
霊が見えない。
ジークに呼びかけても答えは無かった。
☆
氷の神殿は入った瞬間から寒い。体は炎魔法で温める。下の方に降りていくともっと寒くなっていくので強めるしかない。
かなり氷がとけてしまっている。
それにフィオネの様子もおかしい。
最初は少し話していたり、目を擦ったりしていたが、今は声も出さない。
「フィオネ、大丈夫か?」
返事はない。
そのままどこかへ行ってしまいそうで、フィオネの腕を掴んだ。
瞬間、
周りの人間は消え、
二人だけになった。
フィオネは意にも介さない様に進む。焦りに駆られ、強引に振り向かせる。
いつもは綺麗で澄んだ青紫色の目が、美しくも妖しいすみれ色になっていた。
「フィオネ!!」
声が反響する。
フィオネが目を丸くした。
瞬く間に青紫色の目に戻る。
ほっとした。抱き寄せて、細い首筋に顔をうずめる。胸焼けしそうに甘いのに心地よく感じるフィオネの香り。少し早まったフィオネの鼓動も感じる。とりあえず、フィオネは無事だ。
そのことにほっとした。
☆
「フィオネ!!」
びっくりした。
急に抱き寄せられて、驚きは大きくなった。ノアの髪が頰に当たってくすぐったい。
.........ノアの髪⁉︎
ノアが首筋に顔をうずめている。
暫く硬直していた。でも状況が状況。ドキドキしている場合ではない。平常心!頑張るんだ私!
「あのー、ノア?」
「なんだ」
ノアが顔を上げる。
近いって!!
私の平常心を試してるんですか。赤くなっている顔を自覚しながらも、ノアが目を覗き込んでくるので目を逸らすのが憚られる。
「ここ、どこ?」
「さあな」
「えぇ!!!!」
「フィオネの腕を掴んだ瞬間いきなりだからな」
私、何してたんだ。
記憶が曖昧だ。
「どこらへんでしょう」
「大分神殿に近いな」
「それは分かるんですね」
「寒さが強まっているからな」
「入口からずっと涼しいですよ??」
「は⁈」
「涼しいですけど...」
「普通は魔法で温める」
「私使えないよ⁈」
「他に異変は?」
「いえ…」
心配させない様に何も言わない。
「目は?」
「え?何で知ってる、」
「やっぱりか」
私の馬鹿ーー!!!!結局バレてるんじゃん。心配させたかなぁ。
「目、擦ってたし..」
「たし?」
「腕掴んだ時目がすみれ色だった」
「え」
「大丈夫か?」
え?それは不思議。でも周囲よ溶けかけの氷に映る私の目はどう見てもいつも青紫色。それに目を擦っていた原因はそれじゃない。
「霊が見えなくて……」
「いないじゃなくて?」
「うん。ジークも出てこない……あと、ノアに呼ばれるまでの記憶が思い出せない」
「操られてたのか?」
覚えてない。不快感はなかった。
私はここに初めて来た。
でも、これは夢で見る景色と同じ。
私はここに初めて来たのではないとしたら?
本当に大切な人をなくした?
私が、あの子を消してしまったなら。
「進もう」
「本当に大丈夫か」
「うん」
コツコツコツ
足音が響く。
「ねぇノア」
私は立ち止まって声をかけると、ノアも歩くのを止める。普通なら、私の考えはありえないことだ。だけど、これが何かに関係あるのではないかという予感がある。
「私、ここに来たことあるのかも」