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八男って、それはないでしょう!   作者: Y.A
みそっかす編

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第81話 寒がりな魔法使い(後編)

「ううっ……。いつもと同じく寒いな、レリザー山は」


「リンガイア大陸最北端の山だから仕方がないさ。それよりも、『火炎狼』が出たって本当か?」


「麓の村に住んでいる連中が十数頭の目撃している。で、そのあと森と家屋が焼かれて、家畜が襲われた」


「あいつら、気性が荒いからなぁ。魔物のくせに、魔物の領域以外でも活動できるから厄介だし」





 火炎狼という、変わった魔物がいる。

 外見は……実際に見ればわかる。

 真っ赤な毛皮の大型の狼で、常に全身が炎に包まれているからだ。

 アーカート神聖帝国北方、フィリップ公爵領内にある魔物の領域に生息しており、数頭から数十頭で群れを作って生活しているのだが、こいつらはたまに魔物の領域の外に出て家畜を襲い、家畜小屋、家屋、樹木、畑に被害をもたらす。

 火炎狼たちは食べるための家畜だけが目当てなんだが、常に全身が炎に包まれているから、あちこち延焼して被害を増やすのが問題だった。


「それで、火炎狼を倒せる冒険者の目星はついたのか?」


「それが、みんな忙しいそうです。特に魔法使いは」


「魔族たちは?」


「忙しくて無理だそうです」


「やっぱり……」


 このところ、帝国では魔法使い不足が深刻だった。

 その原因の発端は、先年の内乱で帝国の魔法使い同士が殺し合ったからだ。

 内乱勝利の貢献者であったバウマイスター伯爵……今は辺境伯か……とその仲間たちが、特に魔力量の多い優れた魔法使いを何人も殺してしまったというのもある。

 それは内乱に勝利するためには仕方がなかったのだが、だからバウマイスター辺境伯は帝国内で敬意を払われているのと同時に、『魔法使い殺し』としても恐れられていた。

 そんな帝国では現在、皇帝陛下の肝入りで大規模な開発が進んでおり、魔法使いが不足している。

 このところ帝国内で働く魔族の魔法使いが増えていたが、それでも魔法使いは不足していた。

 

「火炎狼の毛皮は少し高く売れますけど、普通に開発工事をした方が金になりますから」


「魔法使いはな。魔法使いでない冒険者に、火炎狼は荷が重たいし……」


 火炎狼はもの凄く強い魔物というわけではないが、弱くもない。

 魔法使いでない冒険者だとよく火達磨にされてしまうので、討伐を引き受ける人は少なかった。

 火炎狼の毛皮は耐火性に優れている……いつも燃えているから当然か……から少し高く売れるけど、耐火性に優れた魔物の素材は他にも沢山ある。

 そんなわけで、火炎狼の討伐を引き受ける冒険者も魔族がなかなか見つからない状況が続いていた。


「お館様も苦慮しておられる。他国の知り合いにも頼んでいるそうだ」


「お館様の他国の知り合いって、バウマイスター辺境伯様か?」


「火炎狼の討伐で他国の魔法使いを使うなんて、これまでは非効率の極みだったが、そうも言っていられないからな」


 魔物が領内で暴れて被害を出しているのに、対処しない領主は評判が落ちる。

 特にお館様は、一時は反乱鎮圧軍のトップまで務めた先代テレーゼ様に比べると人気が……。

 内乱鎮圧時に突然当主の交代劇があり、さらにアルフォンス様は陛下と懇意だ。

 テレーゼ様の兄二人もその時に病死……本当に病死のわけがないことは一目瞭然だけど。

 とにかく色々とあったいせいで、フィリップ公爵家当主として難しい舵取りを迫られていた。

 だから余計に早く動かないといけないのだろう。

 たかが田舎の村に出た魔物の件が、蟻の一穴になりかねない。

 なにしろ、いまだにテレーゼ様に当主に復帰してもらいたいと願っている家臣、領民は無視できない数いたのだから。

 そんなわけで、短期的なコストなんて気にしていられないのだ。


「魔法使いだが、見つかったそうだが」


「それはよかった」


「バウマイスター辺境伯様の紹介で、氷魔法の名手らしい。魔族だそうだ」


「魔族なのはいいな」


 魔族は全員が魔法使いで、優れた魔法使いも多い。

 それでいて、問題を起こすような野蛮な奴も少なかったのだから。


「バウマイスター辺境伯様の奥様に氷魔法の名手がいたが、その方ではないのだな」


「ブリザードのリサか? さすがに彼女をここに呼ぶのは無理だろう」


 バウマイスター辺境伯領内の、他の大切な仕事が優先だろうし。


「とにかく、火炎狼の討伐にメドがついたんだ。その魔族が来たら、我々で道案内をする予定だ。ちゃんと準備をしておかないとな」


 これで周辺の領民たちから、家畜小屋が燃えた、家が燃えた、牧場の柵が燃えた、畑の作物が燃えたと、多くの苦情を受けずに済む。

 一日も早く、魔族の氷魔法使い殿に来てほしいものだ。







「はじめまして、クラウザーと言います。今日はよろしくお願いします」


「「……」」


「あの……。どうかしましたか?」


「クラウザー殿、彼らはクラウザー殿が装備している『コタツスーツ』が羨ましいと思っているのだよ。なにしろここは、リンガイア大陸北端だからな」


「確かにここは寒いですからね」


「ところで、クラウザー殿。コタツスーツの具合はどうかな?」


「快適ですよ。実に温かい」


「それはよかった」




 バウマイスター辺境伯様の紹介で、この地域に様々な被害をもたらしてきた火炎狼の群れを退治してくれる魔法使いがやって来た。

 魔族の氷魔法使いだとは聞いていたけど、なかなかに礼儀正しい青年だな。

 このところ帝国内で魔族の評判がよかったのは、力ある魔法使いなのに礼儀正しかったからだ。

 内乱のせいで優れた魔法使いに犠牲が多く出た影響で、このところ質の悪い人間の魔法使いが問題になっていたからだ。

 魔法使い不足だからか、大した魔法使いでもないのに威張っており、足元を見てあり得ないほど高額の依頼料を請求したりと、各地で問題になっていた。

 そんな人間の魔法使いに比べたら問題ないんだけど……。


「あの……。そのコタツスーツですが、手足が出てなくて宙に浮いてますけど、火炎狼と戦えるのですか?」


「僕は魔法使いなので問題ないです。このコタツスーツですが、今最終チェック中でして、開発者のベッケンバウアーさんも同行してくれていて、故障してもすぐに対応してくれますから」


「すでにコタツスーツは完成しておるが、実戦はまだだったのでデータ採集のために同行している。ベッケンバウアーだ」


 確かベッケンバウアーって、ヘルムート王国魔導ギルドのお偉いさんで、バウマイスター辺境伯と組んで様々な発明をしている人のはずだ。

 彼の発明品は、帝国でも売られている。

 そんな凄い人が、どうして魔族の氷魔法使いに同行しているんだ?

 彼が着けているというか、頭だけ出して宙に浮いている『コタツスーツ』の最終チェックのためか。

 確かコタツは、ミズホの民たちが家の中で寒さを凌ぐための暖房器具だったはず。

 基本的に床に置く物だが、野外で地面に置くと汚いから、分厚い板の上にコタツが置かれていて、しかも常に宙に浮いていた。

 そしてクラウザー殿は、頭だけ出して私たちと話をしている。

 

「(まるで空に浮いている亀だ)」


 同僚の例えが一番わかりやすいと思う。

 彼は宙に浮きながら、コタツから頭だけを出して私たちに話しかけていた。


「私は極度の寒がりでして、このコタツスーツがないと寒い場所で活動できないのです。魔法を使うので、魔物退治に手足は必要ありませんからね」


「そうですか……」


「道案内を頼みます」


「はい」


 私たちはフィリップ公爵家の家臣なので、この辺の地理に明るい。

 クラウザー殿を火炎狼がいる場所まで案内し、彼が火炎狼を倒せるようにフォローするのが仕事だ。

 彼の見た目なんて関係なく、火炎狼が退治されれば問題ない。

 私たちは急ぎ、クラウザー殿とベッケンバウアー殿を、現在火炎狼が出現した場所へと案内するのであった。






「「「「「「「「「「ウーーーー!」」」」」」」」」」 


「「「「「ガルルゥーーー!」」」」」


「ううむ、常に宙に浮いているせいか、コタツスーツの装備者は、見つかりやすいのが欠点だな」


「そんなことを言っている場合ではないと思いますけど……」


 宙に浮くコタツに入り頭だけ出しているクラウザー殿とベッケンバウアー殿を連れて火炎狼のいる場所へと向かったのはいいが、やはり宙に浮くコタツスーツは目立ってしまうようで、私たちは狡猾な火炎狼の群れに包囲されてしまった。

 当然だが案内役の私たちも包囲されてしまい、今ピンチに陥っていた。


「(ああ……。私はこれで終わりか……)」


 脳裏に妻と子供たちの顔が浮かぶ。

 もし私が死んでも、我がセーナル家が絶える心配がないのだけは救いか。


「心配するな。クラウザーとコタツスーツに任せればいい」


「はあ……」


 クラウザー殿が優れた魔法使いなのは知っているから、彼に任せればいいというのはわかる。

 だが、コタツスーツに任せるってどういうことだ?

 コタツスーツは、ただの防寒能力が高い防具なのでは?


「クラウザー殿、訓練の成果を見せてやるのだ!」


「わかりました」


 そう言うとクラウザー殿は、火炎狼たちを見下ろす位置にまでコタツスーツごと上昇する。

 火炎狼たちはそんな彼に危機感を抱いたのか、一斉に飛び上がって襲いかかろうとした。


「火炎狼に触れると、コタツアーマーが燃えてしまう!」


「その心配は無用だ。見てみるがいい」


 クラウザー殿目指して飛びあがった火炎狼が、コタツアーマーに触れる寸前だった。

 クラウザー殿の頭上に数十本の鋭く長いツララが出現し、そのまま火炎狼めがけて落下。

 火炎狼の体に突き刺さり、地面へと落下した。

 全頭急所をツララに貫かれていた火炎狼は即死し、ピクリとも動かない。


「一度に十数頭の火炎狼をツララでで貫く、すべて即死させるとは……」


 有名な魔法使いによる広域上級魔法の派手さには勝てないが、相当な魔力量と技量がなければできない技だ。

 私がそんなことを考えている間に、クラウザー殿が降りて来て、火炎狼の死体を魔法の袋に収納し始めた。

 コタツスーツに入ったまま、『念力』で火炎狼の死体を動かして持参した魔法の袋に収納する。

 意地でもコタツスーツから顔以外は出さないという、強い意志を私は感じた。


「コタツスーツに仕込んだ、遠隔魔法戦闘システムは上手く動いたな」


「遠隔戦闘補助システム?」


「クラウザー殿は、魔法の鍛錬を始めてから日が浅いのでな。一度に十数頭の火炎狼を魔法のツララで攻撃してすべて即死させる技量はまだない。それを補う複数の補助装置と、魔石によってコタツ内部を適温に保ちつつ、宙に浮かせ続ける装置が内蔵されているのだ」


 凄い武器というか、内乱で用いられた古代魔法文明の遺産を思い出させるものだが、見た目はコタツだし、クラウザー殿が顔だけ出しているものを見ると、そんなに心配する必要はないのかな?


「クラウザー殿が寒い場所で活動する時には、この装置が必要なのですね」


「いえ、このコタツスーツは大変暖かくて心地いいので、外に出る時はずっとこれを装備しています」


「えっ? ずっとですか? 熱帯でも?」


「はい」


「暑くないですか?」


「いえ、ちょうどいいですよ」


「そうなんですか……」


 無事に火炎狼の群れが駆除されてよかったが、外に出る時は常にコタツスーツから首だけを出して仕事するクラウザー殿に驚く人は多そうだ。

 それでも、ろくな腕前もないのに調子に乗っている人間の魔法使いよりは全然マシというか、別に彼がずっとコタツから顔だけ出して宙に浮いていたところで私たちに不利益があるわけではない。

 むしろ、寒い地域の人たちも仕事を頼みやすくなったので、かえってよかったと思う。


「頑張って働きますよ。このコタツスーツ、四十八カ月ローンを組んで買ったので」


「そうですか……」


 それが高いのか安いのか。

 私には判別がつかなかったけど、以後も『コタツのクラウザー』は、優れた氷魔法使いとして活躍していくことになる。

 いつ仕事を頼んでも、ずっとコタツスーツから頭だけ出して宙に浮いていたけど。

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― 新着の感想 ―
トイレどうするのだろう?まさかオムツなのか。
なんだ宇宙服みたいなもん作るんじゃないのか
良しまだ書かれてない! グレンダイザー!
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