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八男って、それはないでしょう!   作者: Y.A
みそっかす編

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第68話 屋台

「揚げパン一つください」


「はい、どうぞ」


「俺は、そのキナコのやつで!」


「俺は抹茶ね!」


「ココアのに、クリームを挟んでください」


「はいはい。ああ、忙しい、忙しい」



 みんなは、給食の時に揚げパンが出ると知ったらワクワクしなかったか?

 俺はそうだったし、その日欠席したクラスメイトがいたら、残った揚げパンの争奪戦には必ず参加していたほどだ。

 そんな俺が異世界に行ったところで、揚げパンを諦めるわけがない。

 この世界はパンをよく食べる。

 だがその質は、前世で商社員として現代日本の有名パン屋に食材を卸していた身からすると、イマイチな気がしていたが。研究の末、かなり現代に寄せたパンの製造に成功していた。

 その中にはコッペパンもあり、俺はこれを新たな商売に活用していた。

 魔導コンロの上に、贅沢にも油をなみなみと入れた大鍋を火にかけ……気候が温かいバウマイスター辺境伯領南方では椰子の木が多く、ココナッツオイルが安く手に入るのでこれを用いている……油の温度が上がったらコッペパンをカラリと揚げる。

 揚がったコッペパンに砂糖をまぶすと、給食のアイドル『揚げパン』の完成だ。

 砂糖をまぶした一種類だけだと寂しいので、黒糖、抹茶、ココナッツ、きな粉、ココア、シナモン、黒ゴマなど。

 様々なフレーバーも開発し、揚げパンの種類を増やした。

 オプションで、バウマイスター辺境伯領産の生クリームも挟めるようにしてある。

 魔導コンロを積んだ屋台の周囲には、コッペパンを揚げる香ばしい香りが広がり、その匂いに釣られて大勢の人たちが集まってきた。

 注文を聞いてから、各種フレーバをまぶしてお客さんに渡すと、みんな美味しそうに食べていた。


「うめえ!」


「今日は仕事がハードだから、こういう甘い物を休憩中に食べると疲れが取れていい」


「油で揚げてあるから、お菓子なのにお腹もかなり満たされていいな」


 ゾヌターク共和国製のみならず、最近ではバウマイスター辺境伯領産の魔導コンロが安く手に入るにようになったので、屋台で商売を始める人が増えていた。

 前世の経験を生かして使いやすい屋台の簡単な設計図を渡して職人たちに量産させ、安価に屋台ができるようにしたので、大勢の人たちが屋台を引いて飲食物を販売するようになった。

 あまり無秩序に屋台を出されると困るので、領内で出店できる場所を決め、そこに行くと多くの屋台があって好きな食べ物や飲み物を購入できる。

 その分競争率は激しいが、それが店主たちの切磋琢磨を促し、バウルブルクの屋台の質向上に貢献していた。

 そんな中俺は、前世の知識を生かし、まだこの世界にはなく、あまり調理の手間がかからず、美味しい揚げパン屋台を試しに開いたのだ。


「なかなかに商売繁盛だな。売り上げも想像以上だ」


 美味しそうに揚げパンを食べるお客さんたちを見ていると、業突く張りで、自分勝手で、プライドばかり高い貴族との付き合いなんてやめて、このまま揚げパン屋台を続ける人生も悪くない……。

 そんな気がしてくるのだ。

 

「美味しい揚げパンはいかがですかぁーーー!」


「お館様! いい加減に仕事をサボって、屋台を引くのをやめてください!」


「もう見つかったか……」


 ローデリヒが俺をずっと扱き使うものだがら、こっそりと抜け出してバウルブルクの端っこで密かに揚げパン屋台をやっていたのに、本当に目敏い家宰殿だ。


「ローデリヒ、そんなに早く俺を見つけるな」


「お館様が屋台をやると、客が沢山いるからわかりやすいんです」


「なるほど。やはり俺は貴族よりも屋台の店主の方が適職なんだな。貴族は性に合わない」


 元々前世は、由緒正しき平民の俺だ。

 貴族なんて長く続けていると、違和感を覚えるんだろうな。

 その点、屋台の店主はいい。

 頑張って稼ぐも、ほどほどに売ってノンビリ暮らすも、屋台さえ手に入れてしまえば自由……商売は大変だけど、俺の場合、魔法があるからノンビリやれた。


「俺はこのまま、揚げパンを売って暮らしたいよ」


 揚げパンを真似する人が増えて売り上げが落ちたら、別の屋台を始めればいい。


「俺の頭の中にはネタが詰まっている。これで死ぬまで、屋台を続けられる」


 前世で、半世紀人気の屋台をやっている老人を紹介する動画を見たことがあるけど、ああいうのに憧れるよなぁ。

 貴族の仕事なんかよりも、よっぽど尊いと思うんだ。


「俺が貴族だろうが、そうでなかろうが、あまり変わらないって。俺の穴は、自称高貴な血筋と能力を持つ貴族たちがすぐに埋めてくれるだろうさ」


 この前も所用で王城に顔を出したら、人の陰口ばかり叩きやがって。

 『そんなに俺に文句があるのなら、お前が代わりにバウマイスター辺境伯領を経営してみろよ!』って本人たちに言ってやろうと思ったくらいだ。 


「お館様がいなければ、バウマイスター辺境伯領が回りません! 屋台の店主は誰でもできますが、初代バウマイスター辺境伯はお館様にしかできないのです! さあ、戻りますよ! 助手の君、その屋台はもう君のものだ。これからは頑張ってくれたまえ」


「はあ……」


「こら! 勝手にそんなことを決めるな!」


 確かに、この屋台は手伝ってくれた屋台の店主志望の少年に、揚げパンの市場調査のお礼として譲渡する予定だったけど……。


「行きますよ! お館様! 少年、頑張って屋台を繁盛させてくれ」


「……はい……」


「やめてくれーーー! 俺は揚げパンを売って暮らしたいんだよぉーーー!」


 哀れ、俺はローデリヒによって強引に引っ張られ、屋敷へと連行されていくのであった。

 大量の書類と向き合うのは面倒だし、土木工事にも飽きてきたんだけど、この生活はいつ終わる?

 多分、俺が年寄りになるまでなんだろうな。





「ようし! 屋台の配置は、バッチリだな。わた菓子!」


「はいっ!」 


「リンゴ飴他、魔の森のフルーツを使ったフルーツ飴」


「へいっ!」


「ベビーカステラ!」


「準備オーケーです!」


「君たちの役割は大きい! お好み焼き、タコ焼き」


「「任せてください!」」


「暑い時には焼きそばだ!」


「じゃんじゃん焼きますよぉーーー!」




 今日は、バウルブルクの中心部にある領主館近くの地区のお祭りだ。

 この世界にもお祭りでは屋台が出るが、その内容がイマイチで、全然ワクワクしないのだ。

 そこで俺が、職人に試作させた屋台……魔導コンロ、魔導ホットプレート、魔導タコ焼き器、魔導わた菓子製造機などを、地区の自治会に補助金を出して購入させた。

 以前は高級品だったが、今ではゾヌターク共和国からの輸入や、バウマイスター辺境伯領での量産効果でかなりお安くなっているので、早速導入してお祭りを開かせている。

 えっ?

 なんのお祭りかって?

 みんなはお祭りに行った時、そのお祭りの由来なんて知っていたか?

 もしくは、それに強く興味を持って調べたかな?

 お祭りだから屋台が出るという理由だけで、出かけていたじゃないか。 

 つまり、そういうことである。

 結論、お祭りにおいて、屋台ほど重要なものはないのだ。


「他にも、串焼き、唐揚げ、冷やしたフルーツ、マロイモの焼きイモ、マロイモとジャガイモフライ、お酒やジュース、お茶も売れば、来客も喜ぶレパートリーの多い屋台となる」


 他にも、輪投げ、射的、クジ引きなんかもやらせて、子供たちが喜ぶようにもしている。

 勿論、バウマイスター辺境伯家から布告を出して、当たりのないクジを売ることは禁止している。

 クジはたとえ確率が低くても、必ず当たりがなければ詐欺になってしまうからだ。


「こんなものかな。お祭り屋台セットは」


 まずは、領主館近くの地区の祭りを屋台で大きく盛り上げ、他の地区にも補助金を出して同じ屋台セットを購入、経営させる予定だ。

 

「一年中、どこかの地区でお祭りと屋台が出ていれば、バウルブルクの他の地区の住民たちも利用するようになる」


 これも、お祭りを利用した経済対策……そのうち落ち着いたら、フリードリヒたちにもお祭りの屋台を経験させたい……俺もたまにはお好み焼きとか、リンゴ飴を食べたいからやったまでだ!

 文句あるか?


「昔はよく魔法で作った水飴に。定番のカキ氷に、クレープ屋台もあるのはいいな」


 俺は自分が企画、製造を指示した屋台に不備がなく、大勢の客が楽しそうに遊んでいるのを確認してから、一つの屋台に入った。


「さあさあ、上手く膨らんだら買ってちょうだい!」


 お玉に砂糖と水を入れて魔導コンロの上で温め、グツグツして少しキツネ色になったら、お玉を魔導コンロから外し、そこに苦労して量産化に成功した重曹を入れて急ぎスリコギて混ぜていく。

 コツは、次々と出てくる大きな泡を潰す感じで、泡立てるようによく混ぜるのだ。

 百回ほどが目安だ。

 スリコギをそっと抜くと、一気にキツネ色になった砂糖水と重曹が膨らんでいく。

 前世ではあまり見なくなったカルメ焼きを、俺は作っていた。


「成功だ!」


「「「「「「「「「「おおっーーー!」」」」」」」」」」


「一つくれ!」


「僕も一つ欲しい!」


「私も!」


「魔法の食べ物だ!」


 カルメ焼きが膨らむのを固唾をのんで見守っていた客たちが、競うように出来上がったカルメ焼きを購入していく。

 カルメ焼きが膨らむ原理がわからない人たちからすると、魔法の食べ物というのもあながち間違いではないのかな。


「どんどん焼くぞ!」


 材料は砂糖と水と重曹だけというお手軽さなので、コツさえ掴めば失敗することなくカルメ焼きを量産できる。


「(つまり、とても儲かるってことさ!)」


 このままカルメ焼きの屋台を引いて、世界を回るというのも悪くないかもしれない。

 勿論家族も全員引き連れて、みんなには他の屋台をやってもらって。

 バウマイスター一家でお祭りやイベントで様々な屋台を出しますって商売は、この世界でも成り立ちそうだ。


「そんな気ままな生活に憧れるよなぁ……」


 そんなことを考えながら、カルメ焼きを焼いて売っていると、またもそこにあの男の姿が……。


「お館様、まだ仕事は沢山残っているのですぞ。こんなところで油を売っていないで、お屋敷に戻りますよ」


「ローデリヒは、大きな勘違いをしている!」


「ほほう、どのような勘違いでしょうか?」


「貴族としての仕事も、カルメ焼き売りも、職業に貴賤などないのだ!」


 むしろ、大勢の人たちを幸せにするカルメ焼き売りの方が、貴族よりも尊いかもしれないのだから。


「わかったか? ローデリヒ」


 だから俺は、貴族としての仕事よりも、カルメ焼き売りを優先……。


「わかりません! バウマイスター辺境伯であるお館様の代わりをできる人間などそうはおりませんから! さあ、まだまだ書類が残っています! お屋敷に戻りますよ!」


「ローデリヒの鬼ぃーーー!」


 たまには息抜きで、屋台をやってもいいじゃないか! 

 というか、このところ土木工事以上に書類が増えているんだが、これはいったいどういうことなんだ?

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― 新着の感想 ―
ヴェンデリンにしか出来ない仕事とはいえ休みも無くこき使うのはどうなのかな 個人の労働力に依存するのは仕事として正しくないと思う その人が居なくなったら事業が頓挫するような配置は無理が在る この状態を良…
子供の頃は純粋に屋台を楽しめたのに、大人になると裏事情(衛生状態やら材料の鮮度など)がわかってしまって(あとそれ以上に高すぎてw)手を出さなくなったんだよねぇ…
そもそも辺境伯って社交とかの移動時間で年間100日とか飛ぶ職業だよね。 ローデリヒが安請け合いし過ぎ。
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