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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
151/151

6-5-6 line


 「お前は狂っているな。くくく、私が言えたことではないが」


 「いや、信じているんだよ。彼女ならば、これまでの全てを終わらせてくれる、ってね」


 崩れていく世界。


 「『魔女』いや、神代鏡か。この作戦は、彼女の入れ知恵か」


 「真っ当な考えなら、お前と戦うためにどれだけ強力な仲間を連れてくるのか、という話になるだろうからな。仮想上のあらゆるものを全滅させた上で単独で乗り込めなど、狂気としか言いようがないな」


 「鼠算式に増えていくコピーデータを含めたとしても、実現したお前も大概だよ。だから最期に聞いておきたい。狂ったとしか思えないような作戦を何故お前は信じることができたんだ?」


 「完成した個というのは、衆愚を超える。それは、アティドやマクトが証明した。一瞬で消し飛ぶだけのデコイなどいくら増やしても意味はないだろう。彼らと同等以上の戦力を用意できるリソースが仮想にあるのかは疑問だった」


 「人材を資源としてカウントするか。貴重な戦力であると考えていたのなら何故、共に戦うという選択をしなかった?」


 「世界が壊されたあの日、マクトは病まで仮想に複製されてしまった。そして、自身の残された時間が少ないと考えていた。ならばこそ、鏡の作戦を取るには時間的猶予がなく協力はあのような形でしか不可能だった」


 前提条件としての世界征服。尤も既に世界そのものが滅んだ上での征服であり、現実だと思っていた場所は仮想のゼロフロアでしかない。AAでの制圧が可能である以上それそのものは容易なことだった。

 視認を阻害し、瞬間移動可能な巨大兵器の搭乗者であるアティドを補足することができない理由でもある。崩壊した世界とゼロフロアの真実は、いつ誰が発見してもおかしくはないのだが、未来の時点から戻ってきた教皇は全てが白日の下にさらされるXデーを知っている。

 だからこそ、それに合わせて行動しなければならない縛りがあった。


 「ならば、アティド・ハレ、いや、新城明と共闘もできたのではないのか? タイムパラドックスが理由などとは言うまい。本人の複製であるならば、どうとでも説明はつくのだから」


 「確かに、強力な戦力が二人でいるのはメリットだ。だが、アティドも俺自身も、自分自身にやられるような奴が貴方に勝てるとは思わなかった。勝者となるものこそが、そこに挑むのにふさわしい」


 何度も同じ結末を繰り返したアティドにも、自分自身を殺させることで復讐を果たさせてやろうという部分があったのも事実だが、自分自身に殺されてしまうような弱者ではどの道勝つことができないだろうという思いもあった。


 「それでこそ私を倒した勇者だ。まったく、因縁の対決、互いの組織の戦力の拡充という構図に見事に出し抜かれる形になってしまったな」


 復讐を果たしたかどうかに関わらず両者の戦闘が終わった瞬間に二つの人格は統合され、完成された個となり、神へと挑む。その行程ものは、無限に等しい回数を繰り返された試行だった。

 どうあっても、それだけではアハリ・カフリには勝てなかった。

 だから、最大限まで相手のリソースを奪い、黒木愛を含めた独立したAIのシステム部分以外の全てを掌握した上で最終決戦に挑んだ。


 「いや、実は作戦そのものは俺自身が指揮するか他の人間が指揮するか程度の違いで、最終決戦の状況そのものは大きく変わっていないんだ。全力対全力でアハリ・カフリが我々の全てを滅ぼし尽くして世界が終わる。終わるとまた俺は、アティド・ハレの中に転送される」


 「ほう、なら今回は何故こうなったのだ?」


 「簡単なことだったんだよ。予想され得る未来の中で戦っていたからこそ、私も貴方もどこまでも高め合い続けた。それは貴方自身が想定する思考の中で互いに全力でぶつかっていたに過ぎないんだ。だから、今回だけは絶対にあり得ない選択を選び続けたんだ」


 「世界そのものを創り出した私にその世界のルールに則った勝負をして勝つのは不可能だと判断したとでも?」


 「戦闘をいくら繰り返しても、時間が伸びるだけだった。疲労の概念がないここで何千、何万時間も戦い続けたこともある。『GENESIS』という戒律の中で、貴方を出し抜いた上で倒すには真っ当に戦闘を始めた上で、貴方が成長するよりも早く勝たないといけなかった」


 現在進行形で成長中の世界チャンピオンを相手に、その相手が最も得意なルールで勝たないといけない。最強の選手であり、審判でもあり会場の運営者でもある彼に勝つのは不可能だと判断したマクトは、『破戒』で運営としての利点を消した。

 シロエは、勝てないまでも負けないための『教皇』を創り出し対戦者を用意した。

 トライ&エラーを永遠と繰り返していくうちに、仲間は単なる駒になり、記号となった。

 感情は枯れて、自分が何のために戦っているのかもわからなくなっていった。

 あらゆる手管を出し尽くしたと思っていた。

 だが、『魔女』たる彼女が提案したのは、自分を含めたすべてのものを破壊して統合して挑めというものだった。自棄になったのかと思いもしたが、それでいいという確信もあった。


 「だが、手段はいかれていても、やり方としては考え得る最大戦力でぶつかるというシンプルなものだ。好みのタイプだよ」


 「全部壊して、全部集めて、全部直せばいい。何を言っているんだと思ったが、なるほど選別プログラムを使っても破棄不能なデータ。全ての人間の思考を司る部分。元々そこにあったものも、データとして復元されたものも同じなのさ」


 「俺を倒した後に世界を再構築すればいい、か。たいした奴だ」


 「そう、だから彼女が提案したのは。貴方に勝つ方法ではない。俺自身が死ぬ方法だったんだよ。諦めが悪すぎる俺に諦めてもいいと言ったんだ」


 (貴方は勝利を義務付けられた。勝つまで戦い続けなくてはならない。でも、もう終わりにしましょう。だって、世界なんてとっくに終わってるんだから)


 周回現象は、撃破された新城明のデータが統合される前に黒木愛が、過去の『教皇』の器に転送することで発生している。

 だから、黒木愛を殺せば発生しないのは道理だ。だが、言葉にしてみれば、助けてくれる人間に死なせてくれと逆に殺しに行くなど狂気の沙汰である。


 「どうあっても勝てない相手に戦い続けなければいけないのは、もはや呪いか」


 「だから、この戦いは勝っても負けても最終決戦になるはずだった。だが、貴方と言葉を交わすなかで小さな隙を見つけた。貴方自身は本当は負けたかったんだろう? 本心を見抜かれたその瞬間だけがこの戦いの鍵だった」


 (どれだけの道筋を辿ってみても結末は同じだった。だから、私が、私たちが勝つためにはこれしか手が残っていない)


 「負けておいていうのもなんだが、俺自身は最高のパフォーマンスだったよ。感情の昂ぶりなくしてあの激戦はなかった。最強を打ち破ったお前こそが創世の神となれ」


 データの統合が始まり、あらゆるものが虚無へと消えていく。

 単一であるがゆえに争いはなく、平等であり、理想的な世界だ。

 完璧で完全な世界平和の実現が破壊によってもたらされた瞬間だった。


 (愛してるよ、明。だから、また、会おう)


 彼女の最期の言葉が耳に残っていた。

 

 「ああそうか、最後の秘策っていうのは、」


 お前自身が俺に殺されることで、一つになる。

 その上で最期の戦いに挑むなら、それは勝っても負けてもお前の目的は果たされるということか。

 

 「だが、俺は君の予想を覆して勝った。なら、改めて全権を掌握した俺がここに君の名を呼ぼう」


 それは、完全な神を不完全な形にする愚行。

 

 「また会えたな、鏡。俺も愛してるよ」


 パーソナルデータからの完全な復元。個人のストレージ内にあった時にはブラックボックス状態だったそれさえ、今では自身の一部のようにさえ扱える。


 「どれだけその言葉を待っていたと思っているんだ、君の、明の言葉を」


 「待たせたな、だから、あの時渡せなかったものを今ここで贈ろう」


 「何もいらない。ただここに君といれば、それだけで奇跡なんだ」

 

 「なら、これはいらないかな」


 本来は存在しない水月に贈ったそれは、きっと彼女の手にあるべきものだったのだろう。


 「君は意地悪だ。よりによってあの時と同じそれを渡すなんて」


 三本の薔薇を中心に添えた花束。


 「愛してるよ、鏡」


 「私も愛してる、誰よりも、貴方のことを」


 黒と白の星の海の中、二人だけの世界。

 贈られた花束に鏡は笑顔を咲かせる。

 瞳に輝く涙が一筋の線となって零れていった。

これまで長らくお付き合いいただきましてありがとうございました。

暫定ではありますが、完結となります。

予約投稿で入れた後に完結にしてしまったことが原因なのか、更新がされていなかったので同じ内容で二度目になりますが更新でございます。まあ、本日の23時に再設定すれば嘘ではなくなりますが、これはこれで作者らしい落ちともいえますのであえて今更新することにしました。

今後は実験的なことができれば面白いなとは、思ってます。

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