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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
150/151

6-5-5 line

 光爆が連なり、一筋の線となる。

 全てのアビリティとAAそのものを鎧として纏い状況に応じて武器として使い分ける多重AAを双方が全力で駆使した戦いとはこうまでも派手なのかと、改めて思う。

 なるほど、これは神の領域だ。

 それを人の認識し得るものに落とし込むための虚無だ。


「消えろ」


 アビリティによって発生した光や炎、雷が消えていく。

 開戦から一瞬で砕け散った、フィールドは、黒い黒い闇で埋め尽くされている。

 周囲に見えるのは、星の光。

 一瞬で砕け散った王の間は姿を変え、創世からなおも広がり続ける宇宙へと変容した。

 上もなく下もない、始まりも見えず終わりを知ることもないだろう。

 玉座から見下ろしていた王は、この広大な世界においては塵の一つに過ぎない。

 ひらひらと舞う蝶の妖精もまた、これが夢なのか現実なのかおぼろげだ。


 「お前が世界を打ち消すのならば、私は世界を創り出そう」


 赤熱する竜へと姿を変えたニクムは、統合した意識を七つの首へと分け、思考を並列させる。集中した権力が己が欲望を満たすために、その姿を変えていく。 

 虚空は天となり大地が産み落とされた。

 それらは土であり、水であり、果てがない。

 闇の中にあったそれらを光が照らしていく。


 「私、か。主人格がアハリなのかニクムなのかもはやわからんな。いや、互いに自分こそが神であると言うだろうな」


 「光たる白の教団、闇を統べる黒の旅団。元々世界を管理するために作られた組織だったが結局は、それらを統合したお前が俺の前に立つのか」


 天から水が大地に染みわたり、大河が生まれ湖となる。


 「いっそのこと世界の管理者を気取ったままで過ごせたのなら、その方が楽だったんだがな」


 水に満たされた大地が隆起して、陸と海が生まれていく。

 蝶が羽ばたき、大地には青々とした木々が茂る。


 「彼女が天を司った存在だとは、最後まで気が付かなかったよ。てっきり、私は天宮水月こそが彼女を統合する本体だと思っていた。太陽とは神であり、神を形どったものこそが鏡。黒依などとは、鏡写しの皮肉のつもりか」


 「貴方を出し抜くためのシロエなりの罠だったのだろう。もっとも、それらが教団と旅団の太陽と月の位置を成すことはなかったわけだが」


 「しかし、それもまた鏡写し。光を司る教団の方が粛清の組織であり、闇を受け持つ旅団の方があらゆる自由を受け持っていた」


 認識が壊れて、再構築されていく。

 世界の在り方が、星の光に照らされて形を持ち始める。


 「相互に管理し合い、不穏分子を正当な理由をつけて排除する装置だろう。異なる正義はむしろ都合よく作用する歯車だ」


 ゼロから生み出された無数の生物を模したオブジェクトが、大地に、空に、海に、世界に満ちていく。

 

 「マクトもシロエも互いの利益を最大限に活かすために、この形を作り上げたのさ。見抜かれないように対立という形を取っているように見せかけ、その実体は相互補完的な貴方を殺すための装置だ」


 憎しみの連鎖は、欺瞞。

 実際には体の良いガス抜きだ。

 この二つの組織の在り方は、二つで一つなのだ。単独であれば単なる烏合の衆に過ぎないギルドが対になる存在を得て初めて機能する。そして、それは仮想に逃げ込んだ、アハリ・カフリを葬り去るための、アティド・ハレとマクト・ロートシルトの策略。

 力を増やす装置としての黒の旅団、それ律するための白の教団。

 

 「せっかく世界を終わらせてやったのに律儀な奴らだよ。死後の世界まで追いかけてきてそのうえで私を殺そうなどとは」


 生み出されたフィールドにAAが生み出されていく。

 蘇った幾千、幾万の戦士が、神の御言葉を待つ。


 「悪いが最後まで付き合ってもらうぞ。そのための白の教団、黒の旅団だ」


 ここまでに死んでいった全ての戦士たちのコピーデータ。

 否、初めから全ての人間は死んでいた。

 だから、これはその残滓を復元したに過ぎない。

 虚空から形を持ったそれらが生み出されていく。

 それらは剣であり、槍であり、盾であり、鎧だった。


 「創造の後には安息があるものだと思っていたがね」


 「破壊の後にあるのは永遠の安息さ。望むのならば与えてやる」


 最高位の司祭となった彼は代行者として言葉を紡ぐ。

 生命の息吹を、深淵なる死を、与えると嘯く。


 「どの道、今の仮想には私とお前しかいないのだ。全てを手に入れるか失うか二つに一つだ。望むのならば神たる俺を超えて見せろ」


 「この世界では創造主たる貴方さえ単なる偶像に過ぎない。だからこれは、人と人が勝手に争っているだけだ。真の神たるAIはただ見ているだけさ」


 己が欲望のためだけに世界を滅ぼし、唯一残された箱舟が地球の外にあった衛星サーバー内の電脳空間だった。救いなど初めからどこにもないのだ。

 

 「そうだったな、この世界では俺自身すら駒の一つでしかない。全く、敵に回すとこれほど厄介な組織だったとはね。我が研究所のメンバーは大したものだよ」

 

 世界を壊す、荒唐無稽な響きだがそれを何百となく繰り返しても有り余るほどの兵器は世界中にあったのだ。ただ、その愚かな行為を実際にするものがいなかっただけで。その力はずっとそこに在ったのだ。


 「認められない天才など、愚か者と何ら変わらない。誰よりも優秀だったあなたは、富と権力を手に入れたが真の理解者を手に入れることができなかった。その答えが、自分自身の現身であるAI、そして最後に、自分が信じていた仲間だったんだろ」


 天才であるが故の孤独、自分を超える人間がいつか現れると信じて研究所を作り、その上で全てを見捨て投げ出して世界を終わらせた。だが、見捨てたはずの彼らは愚かな企みを見抜き、対抗策までした上で向かってきた。


 「終わってしまえばあっけないものだと思っていた。だが、彼らはそれすら見抜き、私は仮想に逃げ込む際に分割された。結局俺は、人間の可能性をまだ信じているのだろう」


 「だからこそ、成就させてやりたいのさ。彼らの願いもあんたの望みも」


 この魂が奮えている、幾千の英霊の御霊がこの身には宿っている。

 その魂が叫んでいる。

 憎しみを生み出した根源を殺せと叫んでる。

 一方で全てを愛し全てを赦せという。

 『教皇』という殻は、結局その身に刃を受けて新城明と統合された。

 その瞬間に、愛しい人を奪ったのは自分自身だと知った。何て意味のない戦いだったのだろうか。

 愛を知り、憎しみを知り。

 復讐を遂げ歓喜に満ちて、その力は今この瞬間を作るために憎んでいた相手から与えられたものだと理解した。

 全てが仮初めのものだった、世界も感情も与えられたものだった。


 「さあ、我を殺せ。全身全霊を以て、この滾りを昂ぶりを燃やし尽くして見せろおおおおおおおおぉぉぉっ」


 そう、これは残されたわずかな領土を奪い合う戦争。

 その管理権限を完全に掌握するための戦い。こうして争っている間にも、システムたるAIは演算を続ける。

 互いに神の力の一部を借り、奇跡を現世に再現している。

 腕を一振りするだけで、雷が生まれ星が砕ける。

 穿つ矢は、流星となり降りそそぐ。

 炎は海を飲み込み、雲は滝となって降りそそぐ。

 光と闇が明滅を繰り返す中では時間の感覚もない、人間の感覚であれば年単位での戦闘を続けていたのかもしれない。


 「俺はずっと与えられるものだった、だから、最後に一つ貴方に愛を与えようと思う」


 破壊の先に再生などないのかもしれない、託された無数の願いさえもがどうでもいい。

 だが、抱きしめたあの温もりは嘘ではなかった。

 神代鏡が最後に俺に与えてくれた最後の秘策。

 

 「薙ぎ払え、我が剣よ」

 

 ――《Ten Commandments》―― ――《Reverse cross》―― マクトの技とアティドの技を両手で十字に放つ。

 アビリティとシステムにより極限まで強化された斬撃があらゆるものを薙ぎ払う。


 ――《Water Sprite》――

 

 雲に飲み込まれたサタンに一瞬で周囲を凝結させた雫をぶつけ、さらに技を重ねる。 


 ――《Flash Freeze》――


 凍結させ一瞬の隙を作る。砕くにしても、虚無で無効化するにしても、視界を一瞬塞げればそれでいい。その隙に倉庫から展開した全武装を開放。

 

 ――《Magic Circle》――

 

 突き出された手の先で展開された、多重の魔方陣の中央には、雷光を纏い静止した幾千もの剣が見える。

 

 ――《Excalibur》――

 

 祈りの言葉と共に放たれた剣は、音を置き去りにして闇を引き裂いていく。

 

 「こんな程度では、終わらないのだろう?」

 

 「があああああああああああぁぁぁっ」

 

 咆哮、変動していたパラメータが、虚無によってゼロへと強制的に修正されていく。

 別の時間の中で生きているような出鱈目な反応速度と合理を追求した動きで包囲網を突破していく怪物。いくつもの首が、剣を食い破り刃を折っていく。

 なるほど、これは神ではなかったとしても、道を極めた何かではあるのだろう。

  対処に回らざるを得ない飽和攻撃、次なんてない。

  だから、これで決める。

 

  ――《Purge》――

 

  自分自身の技、その完成形。

  過去の未来の自分が辿り着いた、その極致。

  輝く光さえ置き去りにして、斬撃を重ねていく。


  「貴方を倒す、今、ここで」


  自分以外の全ては、自らの魂に宿っている。 

  動きも思考もどこまでも透き通り、あたかもそれは勝利をもたらすためだけに存在する機械のようでもある。

  反逆者が生み出した偶像が、創造主を駆逐していく。

  ばらばらに切り刻み、コアユニットに剣を突き立てる。

  終わりのない戦いに、終わりを告げる音が響く。

  

  【THE END】

終わりにしようと思ってたけど、普段より長めに書いてもなお終わらないのでちょい続きます。

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