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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
146/151

6-5-1 line

 光が瞬く。

 否、瞬いたように見えた瞬間に肉薄される。

 白く、黒く、光り打ち消される。

 幻惑するステップ、明滅する光。

 別段、攻撃のモーションに合わせた光の明滅そのものに大きな意味はない。まぶしいといえばまぶしいが、人間の瞼の瞬きに合わせた行動するような武術的な意義はない。

 瞼が存在しないAAには、はっきり言って意味がないはずの行動だ。

 

 (そもそもこちらには『神の眼』がある。相手を見失うことなどありえない。ならば、この戦術にはどのような意味がある?)


 考えさせることそのものが相手の罠なのかもしれない。一瞬の躊躇が死に直結するこの戦いでは、紙一重の差が生命線だ。


 (情報を探せ、目の前の敵は一体何をしようとしている?)


 「思考しているね? どんな意図があり、それをどうすれば破れるか。あるいは、無効化できるのかを」


 三度光が瞬き、相手が踏み込んでくる。

 触れれば必殺の一撃を放ち、暗い闇と共に離れていく。

 

 (あるいは、意図などないのかもしれない。思考せざるを得ない状況に追い込まれている現状こそが罠なのか?)


 三度光が瞬き、光に紛れ放たれる横薙ぎの一線。


 (また、三度目に攻撃が来た。むしろ、それでは、こちらに動きが読めるようになるだけ、なんのために?)

 

 白く白く染まる視界、そして、やはり三度目に攻めてくる相手。

 反射的に身体が反応し、迎撃から最適化された思考回路は、相手の攻撃に対してカウンターの行動を開始する。

 ミスリルソードの刃が、白い鎧の核へと吸い寄せられていく。

 振り降ろされる刃よりも、なお早く。

 水流をまとった儀式槍が、振り降ろされる刃を受け止めるように水月が守りに入る。


 「気付いたかな? だが、もう遅い。君はもう逃げられない」


 「逃げられないのは、お前の方だ」


 そう、開始してしまう。

 情報を探り、相手の行動を分析していたがゆえに。

 相手の行動を予測し、そこに合わせた行動を無意識に選択する。

 核を貫くように刃が触れる。

 振り降ろされる刃を受け止めるように槍が触れる。


 「終わりだ」


 「いや、もう終わっている」

 

 一閃。

 戦場に一筋の雷光が迸る。

 光によって作られた幻影を刃が貫く。


 (複体? 明滅に合わせて入れ替わったのか?)


 実体を伴った攻撃が繰り返されるうちに、次の一手も同じく実体を持った攻撃だと思わされた。カウンターに合わせたカウンター。

 勝利を確信した瞬間こそが、最大の好機。

 極限の状況であったがゆえに、本来ならば最も信用できる自身の肉体こそが裏切り者となる。

 明の背後に顕現する御使い。

 振り降ろされるは、斬首の刃。


 (これが、死)

 

 空白の時間。

 光と影に、白く黒く埋め尽くされる視界。

 

 (俺は、恐れているのか?)

 

 死への恐怖が肉体を硬直させる。

 奮える時間すら与えてはくれない。

 振り降ろされる刃は、稲妻が如く。

 この顛末の決着を告げる。

 

 「今度は、やらせない。そのための『魔女』だから」


 光と共に開ける視界。

 刃と刃が十字を結ぶ。

 『教皇』と『魔女』がぶつかり合い、神の刃が光を走らせる。

 

 「やはり、『神の眼』で見ていたか。光りに合わせて『転送』を開始したんだな、わかりやすい誘いだったろう? 『魔女』ならば、乗ってくると思っていたよ」

 

 そう、彼にとっては『黒の旅団』の現首領の新城明の首にはそれほど価値はないのだ。他の人間にとってのガーディアンを倒して、アビリティを回収する程度の意味しかない。彼と共に戦っている天宮水月を殺せさえすればそれでいい。

 新城明を無視して天宮水月のみを攻め続ければそれで済む話だが、それができない最大の理由が、この場にいない『魔女』だった。

 目の前の二人の予想外の成長をして、無理な攻めをできない程度には強くなっていたことと不確定要素の『魔女』の存在が攻めきれない理由だった。

 

 「そうだね、君ならそうするだろう。私こそが不確定要素だったはずだからね。あえて潜伏していたのも、そう」

 

 「そうだ、この瞬間を待っていた」

 

 三人の行動が確定されたこの一瞬が。

 その一瞬を作り出すための攻防。

 

 (……そっか、『教皇』は、このために。……私のために泣いて、くれるのかな)

 

 (……なら、しょうがないか。ごめんね、明)

 

 「私のことを愛してくれて、ありがとう」

 

 白刃がウィンディーネの胸を貫く。

 

 「戦闘、終了。帰還する」

 

 教皇の周辺の空間が歪んでいく。

 『倉庫』から取り出されたいくつもの盾が彼のコアユニット周辺を埋め尽くす。

 

 「ああああああああああああああああああ」

 

 思考停止、一瞬の空白から抜け出した明が反射的に首を刈り取るべく斬撃を放つ。

 刎ねられた御使いの首が、大地に落ちていく。

 周囲を埋め尽くしていた白い軍勢も、続々と動きを止めて転送を開始する。

 落下するそれが地に落ちるよりも早く、転送の処理が完了し告げられる戦闘終了の合図。

 

 「水月いいいいいいいいいいいいいい」

 

 しかし、それでは意味がない。

 首を落としたところで、相手を殺したことにはならない。

 仮にそれで戦闘に勝てたとしても天宮水月は戻ってこないのだ。

 天宮水月は、『教皇』に統合された。

書いてる側にも結構ダメージありますね、これは。

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