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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
145/151

6-4-5 enemy

 「神に挑むための準備はできているようだな。ならばこれは、世界の創造主と戦うための前哨戦だ」


 「お前を殺すために積み上げてきた。これまでのすべてを見せよう」


 不遜とも傲慢とも取れる言葉。

 そこに存在するあらゆる情報を見通す『神の眼』を通して俯瞰する戦場に、予想外の状況など存在しない。

 光による幻視を見ることもなく、ただ目の前の敵を追い続ける。

 斬り、討ち合い、結び、放つ。

 二人で、一人。

 重なり合った魂が叫んでいる。


 「反撃の隙が無いな。素晴らしいよ、彼自身の動きを完全に追従するプログロムとしての天宮水月。君達の連携に比べれば、十二使徒の連携など子供の遊びでしかない」


 見て合わせる、ではなく合わせた動きを最初から実行しているのだ。それは、あたかも演武の再現のように流麗だ。

 そして、武装に破壊不能な性質を与える『神の手』が、武器損壊のリスクを無視した力強い攻め方を可能にする。


 「この程度ではないのだろう? 貴方の底を見せてみろ」


 限界を超えて加速を続ける三体の機体。

 出力をどれだけあげても自壊しなくなる『神の身体』、AAのコアユニットの出力上限を取り払う『神の心臓』、ジャミングされない通信手段としての『神の言葉』。

 最低限の備えとしての、『神』シリーズのアビリティ。

 あらゆるアビリティの効果を無効化する『虚無』。

 それに加えて、AIによるデータ干渉を防ぐ『破戒』。

 これらを入手して始めて、創造主と戦う資格を手に入れたといえる。


「神に挑むためには、自分自身も神になるしかないのだ。そうなって初めて、戦いと呼べるものとなる。いいだろう、お前を俺の敵として認めよう」


 思えば『黒の旅団』は、神に挑むための組織だった。

 元開発チームの誰もが、この仮想という世界の全権を掌握するための手段として、最深部を目指してきた。積極的な世界征服を望んでいるもの、あるいはそうさせないために自信が権利を手に入れるため動くもの。考え方はそれぞれだが、目的は同じだ。

 マクト・ロートシルトが生み出した『破戒』は、世界の秩序を壊すためのものではなかった。創造主の束縛から逸脱することができて初めて、正常化するのだ。そうでなくては、永遠に創造主の掌の上から抜け出すことすらできない。

 シロエが最後にアップデートしたプログラムで実装された、『神』シリーズのアビリティもそうだ。


 「この世界の創造主たるアハリ・カフリに挑むつもりはないが、元開発チームのお前と戦うのも似たようなものだろう? この世界の頂点たる教皇」


 全ては、神たるアハリ・カフリが生み出したこの世界に挑むためのもの。


 「彼と私を同程度に評価してくれるのかい。それは、神と人を同一視する愚行だよ」


 「どちらも等しく天上人さ、だが、神ではない」


 (明、気を付けて。彼の思考が読めない、いえ、そもそも何も考えていない?)


 ミカエルの姿が消える。

 不可視になったわけではない、ただただ早いのだ。

 早く、奔り、空を駆ける。

 一撃、二撃と重さを増していく。

 ただ一振りの剣が、何十もの打撃となって襲い来る。

 猛烈な斬撃を交わしても、肉薄した瞬間に拳打を加えられ、蹴撃へとつなげられる。単一の剣術、槍術などであれば隙になってしまう動作すら、『倉庫』による格納と出現で埋め尽くされていく。


 「ここまでしてなお、同じ土俵に立っただけか」


 絶望的なまでの、戦闘経験の差。

 拳打一つ、蹴撃一つにさえ、十数年、あるいは一生を捧げる人間がいる。

 重ねた年月、積みあげてきた技は、神経回路を枝葉のように張り巡らせ動作の一つ一つが最適化されていく。

 研ぎ澄まされた技が冴える度に、命が削れるような感覚がある。 


 「プロフェッサー以外に俺をここまで追い詰める人間がいたとはね。その領域に来るのはニクム・ツァラー、あるいはアハリ・カフリその人だけだと思っていたよ」


 周回した回数がそのまま積み重ねた年月。

 若くして多くの道を極めた達人が如き存在を生み出していた。


 「達人の技なら何度も見た、そして、学んできた。ならばこれは、命を懸けた学習だ。学べぬのなら死ぬ。それだけだろう」


 多くのデータベースから、達人の技を学んできた明。単一では存在しない教皇の技だが、それらを組み合わせれば、なるほど術理が見えてくる。

 天宮水月の助力で底上げされたとはいえ、即席の戦術で生き永らえている最大の要因はそこにある。


 「ならば、すべての技を以て君を倒そう。それが最大の礼だろう」


 武器を倉庫に格納し、拳を構えるミカエル。

 しかし、それは戦力の低下を意味しない。

 百の剣が、千の槍が、万の弓が自身に向けられているかのようにさえ思える。

 明達の前には、金城鉄壁の要塞がそびえてるようだ。


 「死を賭して、お前に死を与えよう」


 我らは一振りの剣。

 二人で一人。

 敵同士の重なり合う視線。

 ぶつかり合う刃。

 絶望を超えるために、絶望に挑む。

 そうこれは、死線だった。

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