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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
144/151

6-4-4 enemy

 この仮想という世界で最も神に近いとされる『教皇』に挑む。

 彼の敵となることは、自殺となんら変わらない。

 彼が殺すといった敵の全ては、死に絶えた。

 彼の言葉が予言と言われるのは、全ての行動が有言実行だからでもある。


 「お前の敵になって初めて、お前と同じ場所に立った気がするよ」


 「「愚かな。お前如きが教皇の敵を名乗るなど、おこがましい」」


 複数の言語で放たれた言葉は同時に同じ意味へと収束し、その人間が発したであろう音声として再構築される。

 十二使徒。

 教団内でそう呼ばれる幹部が十二人。

 個人であっても、ガーディアンを屠る猛者が並び立つ。

 その自分達を差し置いて、頂点に君臨するアティドに殺すといったことが、彼らの逆鱗に触れた。

 装飾が施されたユニークウェポンを携え、ミカエルの周囲を囲んでいた天使達が一斉に明と水月に殺到する。


【open file】


 明の視界にヴィジュアルエフェクトが表示され、データの解凍が始まる。新城大地が、マクト・ロートシルトが明に託した。

 教皇と対峙した際に自動で解凍されるように指定したファイル群。

 『破戒』、『神の眼』、『神の手』、『神の身体』、『神の心臓』、『神の言葉』、そして、

 

 (俺は、こいつらを知っている。そして、この手にあるのは最高の武器)


 「愚者と罵るならば、それでもいい。我が父より与えられしこの力で、迎え撃とう」


 新城大地の死に際に転送されていた、装飾の施された刀のユニークウェポンが明の手の中にあった。

 重複するプログラムは上書きされ、同時につけることのできないアビリティは『倉庫』内に格納される。

 思考は、

 この上なく研ぎ澄まされている。

 身体は、

 導かれた答えを表現している。

 静止状態からの超加速。

 最短最速行動の実践。

 全方位視点で知覚する人間であれば知り得ぬ像。

 共感で完全につながった、水月との意識。

 二つの肉体が、完全に補完し合うかのような一体感は一種の官能すら覚える。

 

 (私は貴方の腕、貴方の足、貴方の耳)


 水月としての意識は薄れていき、二つの意識は溶け合い混ざり合った。

 背中合わせという感覚は既にない。

 戦闘の度に意識が別人のようになっている部分があった彼女だが、その本質は他人を補うための存在だ。

 水月は完全な人間の意識の模倣ではない、シロエから抽出された断片の集積。しかし、それ故に人間を補助するアシストプログラムとしては、最高の感覚器となり得た。

 新城大地がコピーデータと行った戦闘の再現。

 アティド・ハレには、そう見えた。

 確かに新城明ならば、あの戦闘のデータを見ているだろう。

 しかし、一度見ただけで十二人の強者を同時に相手取る力が身につくわけもない。


 (人間という感覚器では不完全、思考による模倣だけでも足りない、存在しない器官は補えばいい)


 人ならざるAAという戦闘単位。

 人を模倣したその姿は、強大な力を秘め、腕の一振りで敵を粉々に打ち砕き、剣を持ては鋼の肉体すら両断する。

 しかして、人が持つ武がつかえぬわけではない。

 実際に、武術や格闘技は有効だ。合理的に肉体を破壊することに対し、これ以上の最適解はないし、そういった経験を持つ者の方が上位に位置する戦力となっている。

 神国の『刀神』なども、現実で武術を極めたものが仮想においても結果を出しているという成功例だ。

 だが、その動きは人間を超えない。

 あくまでも人間的にふるまおうとしてしまうのだ。

 人間二人分の思考を同時に処理して、二つの肉体を一つの兵器として動かそうなどとはしない。視野を極限まで拡大した情報を知覚して、並列処理することもしない。そもそも、選択肢として、そういった行動をするということが存在しないのだ。

 そして、新城明のレヴェルはアティド・ハレと戦った時の新城大地と同じ領域にはなかったはずだ。過去の新城大地を超える程度の力は持っていたが、開花した新城大地と比肩するほどの力は持っていなかった。

 否、だった。

 あの時は、新城大地の異常な反応速度とカウンターによって処理されたが、何もしないうちに即座に切り伏せられていた。

 彼らは、まるでそこに何も存在しないかのように、

 斬るというよりは、空間に通すかのように剣が槍がすり抜けた。

 人間という枠を踏み越え、修羅が如き強さで二人は並び立つ。


 「二人がかりとはいえ、これほどとはな」


 つたない連携であれば、彼らはそれを造作なく打ち砕いただろう。

 個人の力では、自分に及ばないにせよ互いが互いの隙を補い合い、局所的かつ数的優位を保ち続けながら相手を制圧することに特化した部隊。

 それが十二使徒と呼ばれる十二人の精鋭だった。

 思考にある程度のむらがあるにせよ、定められた選択肢以外をひらめくことができる本物の方がコピーデータより強いのは事実だが、自我を持つがゆえに先走り、全滅した。

 結果論だが、高度な連携こそが仇になった。

 明は、相手の初撃のみを常人を遥かに超える反応速度で見切り、それ以降は本来ならば見えていないはずの場所に対して仕掛けられる行動に対してカウンターを連続して叩き込むことを繰り返した。

 相手としては、死角に対して仕掛けたはずが逆に致死の刃を通される悪夢。


 「絶え間ない攻撃をするがゆえに、絶え間ない攻撃を即座にされた場合はそのまま全滅した、ということか」


 常に相手に攻撃できる位置に布陣するということは、常に相手の攻撃を受ける位置にいるということの裏返しだ。あたかも、一筆書きの絵を作るかのように、戦闘における正解を選び続け、破滅という結果に収束した。

 二人の機体が武器を引くと同時に崩れ落ちていくエンジェルシリーズ。両断された、それらが静寂をかき乱していく。


 「結局は、こうなる運命か。いいだろう」


 「お前を殺す、愛しい人を救うために」


 「ならば力を示せ、それができるというのなら未来をつかみ取って見せろ」

 

 静かに響く声が二つ。

 力と力がぶつかり合った。

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