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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
141/151

6-4-1 enemy


 「明確な敵対宣言だね」


 「おそらくは、俺たちに対しても、な」


 これで今までは中立の姿勢を保ってきた組織も彼らを明確な敵として認めたことだろう。神国電脳技術研究所所長としても黒の旅団の首領としても、既に仇敵として定めていた相手だったが、攻めやすく同時に攻められやすくもなった。


 「だが、これを許すほど帝国は、世界は甘くはないだろう。すぐにでも交戦状態になるはずだ」


 「内側から戦争状態にして、仮想と現実の両側からつぶしに来るだろうな。合法的無法地帯の覇者に成り代わるために」


 だが、その程度の想像をあの教皇ができていないわけがない。

 白の教団内部に諜報員が潜んでいるように、敵対勢力の中にもまた、白の教団側の人間が潜んでいるのだから。

 ならば、仕掛けるタイミングは今この瞬間なのだろう。

 これは、教皇の名のもとに発せられた号令だ。


 「その最初の標的は、帝国あるいは、黒の旅団といったところだろうね」


 「その両者なら、迷わずこちらにくるだろうな」


 盤石な布陣で待ち構える米帝と指導者が入れ替わったばかりの黒の旅団。相手取るのにどちらが簡単かなど言うまでもない話だ。

 明は仮想においては、相応な強さを持っていると自負しているが、仮想での強さが現実の権力や力としては直結しないとも理解していた。

 それを変換することや、他とつなげることが現実における力の証明となることはマクトが証明していた。もっとも、彼の場合は力を持っていた人間がそれをつなぐ手段として仮想を利用していた部分があるので順番が逆ではあるのだが。

 

 「ならば今は、つかの間の安息ということだろう。情報収集は私や情報屋に任せて君と水月は休んでいるといい」


 「そんな訳には、いかな……いや、ゆっくりと休めるのは最後になるかもしれないか。その言葉に甘えさせてもらうよ、鏡」


 うつむいたまま、すがるように明の服の裾をつかむ、水月は震えていた。

 そんな彼女を視線に入れないように、扉の方へと向かう鏡。


 「すぐにでもいい情報をつかんでくるから、君達は安心して待っているといい」


 


 ***




 (せっかくのチャンスを不意にするなんて、我ながら損な性格ね)


 所長室の扉を閉めて、電子ロックで外側から鍵を掛ける。

 これでしばらくは、邪魔が入らなくなるだろう。


 「でも、ここで動くような私なら、それは私ではない。それでは本当の『魔女』になってしまうものね」


 魔女の知識として手に入れた未来の情報。

 それによれば彼女に残された時間は多くはないのだ。


 「本来知りえないはずの情報はアドバンテージ。でも、この情報は、この情報では意味がない。そもそも目の前に示された道は避けることができるものなのかな」


 未来を知っていたとて、その未来が変更できないのなら何の意味もないのだ。

 ならば、今の自分にできることはいったいなんなのだろうか。

 仮想についての知識を手に入れた今ならば、少しだけ黒木智樹の気持ちが理解できる気がした。

 知り得ぬものを知り、あるはずのないものがそこにある。

 きっとそれは、そこに在りながら足元が崩れ落ちていくかのような恐怖だろう。

 そして、その事実を自分だけが知っているとしたら、それは何もかもが正常である状態をおかしいと糾弾する自分の方が世界にとっては異物となるのだから。

 答えがあるのなら、魔女としての自分もきっと悩んだりはしなかったのだろう。

 そして、残り少ない時間を奪うほど悪に徹することなどできはしなかった。

 彼女はきっとそのことに気付いている。


 「何故、彼女にできて私にはできないのだろう」


 答えはない。

 だが、その疑問こそが問いの答えなのだろう。

 握った十字架にはしずくが伝っていた。

 



 ***



 草原に風が吹き抜ける。

 教会を前にしたこの景色をみるのは何度目だろうか。

 全身を黒ずくめの明と白いゴシック調の服を着た水月は並んで教会の扉をくぐる。


 「怯えているのか、水月」 


 どこか静謐な空気は、あたかも異界との門をくぐったかのように外界を隔てていた。


 「ううん、もう怖くはないよ」


 「落ち着けたなら、何よりだ」


 「ありがとう、明。だから、少し私についての話をするね」


 「急にどうした、自分語りなんてらしくないじゃないか」


 らしくない。そう、明の思う水月ならばきっとそんなことは言わない。


 「私には、語れるものなんて何もなかったからね。誇れるようなものなんて特にないし」


 「自虐なんて、本当にどうしたんだ」


 違和感。

 彼女はどこかずれているような感じさえする。

 そう思っていた考えを放棄する。

 自分は、彼女について一体何を知っていたというのだろうか。


 「今日が死刑宣告の日なんだ。教皇の言葉は、預言だから。私はきっと死ぬと思う」


 冗談だろ、と否定しかけた言葉は飲み込まれた。

 敵対宣言をした教皇が、襲ってこない理由など既にないのだ。

 そして、仮想であれば一瞬で、この場所は包囲され灰になる。

 だが、現実の方にいたとしても、電研を吹き飛ばす程度の軍事行動をとる程度は訳もなくすることができるだろう。


 「心配してくれるんだ、ありがとう」


 「守るさ。そのために俺がいるのだから」


 白々しいとは思う。

 あれから時が経ち強くなったからこそわかる。

 彼の強さに自分が比肩してはいないということを。


 「大丈夫、私には全部解るから。彼も貴方の心の在り様も」


 総てを見透かしたように彼女の瞳が遠くを見つめる。

 『共感』を利用した読心術は鏡も試みたが、水月程の精度を誇るものは再現できなかった。

 与えられる情報量が多すぎて、まともに読解などできないとは、鏡の弁である。

 相手が伝えるという意思を持って相互に連携する分には、まさしく共感するが如くの精度で相互に連携することができるものであるが、不特定多数の無作為な情報から未来を予測するのは限りなく困難だった。

 

 「水月には、嘘は付けないか」


 「私は、ずっと貴方を追いかけていた。だから、貴方のことは誰よりも知っている」


 どんなに困難でも諦めないことも、

 誰よりも強くあろうともがき続けてることも、

 まっすぐで偽りのない心も。

 何もかもが愛おしい。

 そんな彼にだからこそ、言える言葉だ。


 「私は貴方を愛している。この世界の誰よりも」


 「破滅的な結末だとしても、貴方にとって呪いになるとわかっていても。それでも伝えずにはいられない」


 「だって貴方が好きだから。私が私の言葉で貴方に伝えたいから」

ややこしい部分が多くちょっと苦労しました。

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