6-3-5 genocide
「AIの加護のあらんことを」
剣で十字を切る動作と共にAA部隊の最後の一名が崩れ落ちる。
「我々が、一体お前に何をしたというのだ。最後にそれだけ教えて欲しい」
「そちら自身が考えているように何もしていない、では納得しないのだろうな。いいだろう。ならば、求めている答えを与えてやろう。その方が、お前を通じてこの場を覗き見ているものも喜ぶのだろう?」
気付かれている。
だが、彼はそれでもいいと思った。
相手の思惑に乗っている間は、生かされるのだから。
「秩序を標榜する組織の狂乱を白日の下にさらせるなら、それもいいだろう。彼も命を懸けているさ」
ゲイル、彼とはそれなりに長い付き合いだが最後に送るものが、ダイニングメッセージとは皮肉なものだ。
自分達以上に危険に踏み込む彼を諫めて、勧誘したこともあったが結果的には彼の方が正しかったのだから。
「自らを正義だなどと我々は一度たりとて話していない。秩序を実現する手段として暴力を認めてはいるが、虐殺の後に残る虚無を秩序とは思ってはない。だから、これは単なる同胞の復讐さ」
「教団員の意思を組織として実現したとでもいうのか」
「仮想という戦場においては、個人対国家という荒唐無稽な争いを実現できる力が我々にはある。それだけの話だ。この殺戮を見る者よ、知るがいい。我らが貴様らを滅ぼす理由は、常に貴様自身の傍らにある」
つまりこれは、全世界に対する宣戦布告であり、同時に勧誘でもある。
力を望むもの、力を恐れるものは彼らの庇護下に入ればいい。
そして、敵対する理由はどれだけ些細なものでもあっても実行され得る。
現実社会において法を犯したという理由で裁かれた者の伴侶が法を訴えれば、その意思が汲み取られることなどありえない。
法が正義であり、裁かれるものが悪だからだ。
法を犯したからこそ、犯罪者となる。
だが、それが冤罪であったのなら?
冤罪を認めるものが存在せずに、正しいものが裁かれ不実なるものが生かされるとしたらどうだろう?
その法の誤りを糾弾したとて、認められることなどなく、仇を討つことすら悪と断罪されるのなら、いったい何を信じればいいというのか。
ならばこそ、犯罪者は裁かれてしかるべきという、規範にすら教団と敵対する理由になりえるのだ。
「国家転覆すら正義と騙る痴れものか、お前はただのテロリストだよ」
理性が彼を糾弾する、だが、正しいことを正しいと言っているだけだとも感情が叫ぶ。
これは、悪魔の言葉だ。
「テロリストが革命を成し得れば、それは救世主だろう? 失敗した者が悪として裁かれているだけさ。だが、我々は法を犯していないし、民間人に危害を加えてもいない。我らに敵対する全てを滅ぼすだけだ」
「犯罪者どころか狂人の類か、救いようがないな」
「お前が何を信じ、何を考えようがそれは勝手だが、現に私は失敗をしていないし、秩序たり得ている。我らの本懐が成される日は近づいている、その時に世界は知るだろう」
誇大妄想と笑うしかできないような内容、だが、狂気を帯びた言葉は紛れもない事実でもある。
彼らは現に力を手に入れ、我らを滅ぼした。
これまでも、多くの屍を積み上げてきたのだろう。
事実として、彼は、教皇はその予言者染みた言葉で、大局を読み最強の勢力であり続けている。
「国家転覆が通過点? いや、そもそもその点には執着していないとでも」
「想像で白の教団を語るのは結構だが、我々は誰にも敵対していない。ただ、我々に敵対するものがあるだけだ。私は団員を守るし、団員は私の意思を尊重してくれる。愛するものを守りたいというもの、失った悲しみを背負い無念を晴らさんとするものが集った」
恐ろしいことに彼の発言は矛盾していない。
戦闘に介入しその場にいるものを全滅させることはあるが、身内を殺すなどしたものがそれ以上の破壊活動をしようとする場合にそれを強制的に仲裁するために乱入するのだ。
最終的に力ずくではあるために、結果的に自身のエゴを通すために破壊活動をしている場合もあるが、それを目的としてはいないのだ。
「帰順すればよかったとでもいうつもりか、馬鹿げている」
あり得ないことだ。
少なくとも彼の思う常識的思考の範囲内であれば。
「開戦前に降伏を呼び掛けただろう。応じれば、我らの同胞として迎えたさ」
「いきなり宣戦布告をして、降伏を呼び掛け応じるものなどいるわけがない」
「知っているさ。だが、それでも我々は問わずにはいられない。相手を許すか滅ぼしつくさねば戦いの連鎖は終わらないのだから。とはいえ、理由さえあれば破壊が決定している相手にいきなり戦闘を仕掛ける場合もあるがね」
敵対する理由さえあれば、どのような相手でも倒す。
ならば、理由を持つものが恭順の意を示したとき彼はどうするのだろうか。
王の言葉ではあるが、これは暴君の言葉だ。
「改めて問おう、教皇よ。何故お前たちは我々を滅ぼした」
裁かれる罪人である我らは、処刑人に再度自身の罪を問う。
「我らに敵対したからだ。それ以上に理由はなく、それ以上の理由もないだろう」
それだけが唯一の真実とでも言わんばかりに、彼は話す。
「全てを敵に回して、それでもなお、その正義を貫けるのか」
彼自身が正義の実行者なのだろう。
その行為に是非もなく、行為そのものが正義なのだ。
「全てが敵なら、全てを断罪するだけだ」
処刑人は、音もなく首を刎ねた。
可能な限り早く第三章の修正に取り掛かろうと思います。