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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
137/151

6-3-2 genocide

 「以前見たときからあんたとはやり合いたいと思っていた」


 「目の前に黒の旅団首領、マクトという極上の獲物がいたのに、別の獲物を品定めしていたのか? 呆れた戦闘狂だな」


 火花を散らし重なり合う剣と斧。


 「いや、今ではお前が黒の旅団首領だ。俺の目は間違っていなかった」


 打ち鳴らされる剣戟。


 「だが、この瞬間を楽しいと思ってしまう俺も同類か」


 妖精の手に携えるは、装飾剣。

 迎え撃つ魔術師が構えるは、密集させたビットで作り上げた巨大な斧。

 超重武器のようでいて、推進剤も兼ねたその武器に取り回しの悪さはなかった。

 瓦礫を弾き飛ばしなら、ぶつかり合う両者はさながらハリケーンのようでもある。


 「生存を無視した攻めをしたのはいつ以来だ。お前に会えたことを感謝するぞ、新城明」


 「複合型武装か。分離と集合による拘束まで考えるなら、鎧がそのまま武器になったようでもある」


 伸縮自在の間合い、まともに当たれば即死。

 半端な攻撃は全て防御される。

 一対一でのまともな近接戦闘でこれを破るのは至難。


 「『黒の旅団』前首領マクト・ロートシルト。彼の考案したこの戦闘スタイルは、素晴らしいというほかない。一対一であれば、まず負けることはなく、対多数であっても中距離までは完全に制圧し、遠距離からの包囲攻撃ならば受け流し撤退することが可能だ」


 巨大な斧は形を変えていく。

 卵の殻のように半身を覆ったそれは、生き物のようにうごめいていた。


 「個としては完成の域にあっただろうな。だが、それでもアティド・ハレには勝てなかった」


 地表すれすれを跳ぶように加速した機械の妖精が全身でスイングするように炎の剣を薙ぎ払う。

 殻が割れるように見えた直後に、それは食虫植物のように顎を閉じるも威力を殺し切れなかった本体ごと弾き飛ばされる。


 「病を押しての戦闘だったからか? あの戦いの渦中にあった俺から見ても、それは違うと思えたよ。少なくとも俺をあしらった時とはまるで異なる、凄まじい気迫だった」


 ひび割れた殻からひな鳥がのぞくように、魔術師の目は敵を見定める。

 強烈な打撃を受けた卵が震え、獣が咆哮するかのように刃が振動する。


 「アティドにあって、マクトが持っていなかった要素は何だったのかはわからない。たかが一回の戦いの結果であり、ただの運だったといえばそうなのかもしれない」


 横の回転を縦の回転に切り替え、ハンマー投げのように円運動を続け、切り上げる動作から後方へ宙返りするフェアリー。下がりざまにサブアームで構えたライフルで武器の隙間を狙い撃つ。


 「両手が落とされたか。だが、その程度でこの俺を制圧したとは言わせぬぞ」


 鎧と化した武器を貫けないなら、それを構える手を破壊する。

 単純化された図式は、あたかも機械のような思考。

 可能な限り早く、目の前の脅威を排除するべく肉体を動かしていく。

 

 「だろうな」


 しかし、手などなくても武器と腕を一体化させるなり、護衛のように武器をまとうこともできるあのスタイルならば、それこそコアユニット以外のすべての部位が破壊されるまでは戦闘を継続できるだろう。

 着地した瞬間には、態勢を立て直しランスと大楯を構えた魔術師がそこにいた。

 

 「防御すら攻撃力に上乗せしたこの動きをどう対処する」


 全身をまとう鎧は相手を押しつぶす槌のようでもあり、相手を串刺しにする槍は敵対する全てを拘束する鎖だ。

 変幻自在な戦術こそがウィザードの真骨頂。


 「ちょうどいい、それが全てというなら。それを打ち破れば俺の勝利だ」


 だがそれは、サタンの持つ完全な変化とは違う。


 「抜かせ」


 ビショップ程自由に武器を作り出すこともない。


 「いいだろう。お前を貫いて、これで終わりにしてやる」

 

 ゆるりとした空気の壁を抜ける感覚に、 自身の機体の速度が一瞬で音速を超えたことを知覚する。 視界に映るのは、 武器を構え迫りくる魔術師。 耳に届くのは、 瓦礫の中に仕込まれたビットが自身を串刺しにせんと後方から弾ける音。 おそらく、勝利の確信を以てこの状況は作られた。

 あえて劣勢に見せるように攻撃を受け続けたのも、手を打ち落とされたのも、突き進むように後押しさせる布石。

 見た目ほどにはダメージを負ってはいない。魔術師は、今この瞬間を全力で迎え撃つためにすべての行動をデザインしてきた。


 「行動すべてが罠。だが、その程度の戦術を正面から力でねじ伏せられなくては、この先を生き抜くことはできない」


 破損した部位に蓄積したダメージを『磁界領域』で強引に継ぎ接ぎした機体は、『虚無』で崩れ去り、刃はやすやすと相手の盾を貫くだろう。


 「つまらないプライドか? 『虚無』を使わぬのならそれも結構。君は勝機を逃した」


 互いに腰に構えた刃と刃が重なり合う。

 その瞬間にわずかに刃を傾ける。

 妖精は螺旋を描くように旋回しながら更に加速する。

 前後左右のあらゆる方向から迫る刃を、すりぬけるのように回避していく。

 斬りつけるタイミングまで完全に演出された魔術師の予想を超える加速に収束が追いつかず空を切る。

 すれ違いざまにわずかに伸ばした腕で切っ先を操り、魔術師の首を刎ねる妖精は、鬼神が如く。

  

 「敗北を認めよう」


 すべての武装の機能を停止させ、操り人形の糸が落ちるように、魔術師は崩れ落ちる。

 

 「メインカメラが落とされただけだ、とは言わないんだな」


 「自分で吐いた言葉が全てだ。全力でぶつかって手加減までされた上、敗北を認めないのでは、自分がみじめになるだけさ」


 戦場に散らばる瓦礫を見下ろし、剣を掲げる妖精。

 合理ではない行動は、しかし、結果的に合理的な判断だった。

 この戦いは、相手を殺す戦いではなく。 

 相手に負けを認めさせるものだからだ。

 勝利を讃える者はなく、

 ただ静かに戦闘は幕を下ろした。

月末に間に合わせるつもりが間に合いませんでした。すいません

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