6-3-1 genocide
「それなりに顔が広い、というのも考え物だな。厄介事に合う頻度も増えてくる」
「以前のわだかまりは捨て、新たな関係を模索していきたいところだ。現に、組織としてはもはや別物であるしな」
古城の内部の一室で男二人が話をしていた。
「首領が変わったとはいえ、前首領とドンパチやった俺が交渉窓口というのは、奇縁というほかあるまい。そうだろう、新城明」
「お飾りではあるがな。それに、統合された組織の前首領と俺の関係性は薄い。たまたま名の知れた傭兵である貴方ならばすぐにヘイフォン経由で連絡が取れる状態にあったというだけのこと」
「風のように自由になりたいものなんだがな」
頭を抱え天井を仰ぎ見る傭兵、ゲイル。
彼は知っている、今の新城明が必要なことであれば、虐殺をも辞さないということを。
好青年のような笑顔を張り付けて、どこまでも残酷で冷徹な判断を下せるということを。新参であること、組織に対して執着してないからこそ、組織そのものを道具として扱えるということが透けて見える。
「別段、貴方の行動を制限するというような話ではない。ただ、我々を何事もなく通してくれればそれでいい」
「それが一番難題なんだがね。一介の傭兵には荷が重い」
「仮想での出来事は国政に関わるようでいて、現実においては、なかったものとして処理される場合が多い。今回の案件もおそろくは、そうなるだろう。我々が一度通過したという事実など、仮想に関わらぬ大衆にとっては何の意味も持たない。そのニュースを電子情報部隊全滅に置き換えたいなら話は別だが」
「それは、脅迫だろうに。もっとも、俺に決定権はない。脅してたきつけたところで、成果には直結しないぞ。新城明」
実際に共産主義連合共同体を滅ぼすことを指示した人間が言う言葉は、彼の意図がどうあれ聞く者にとっては脅迫以外の何物でもなかった。
一つの勢力が壊滅したことによって国勢がどう変わった、という程の影響力はなかったが、連合体の電子部隊は全滅し、各国の電子部隊に対してはこの上ない力の証明となった。
お飾りなどとは、とてもではないが言えない実力だ。
「脅す意味などないことは百も承知だ。脅すならば、軍に対して銃口を向ける方が手っ取り早い。だが、勝てはしても多少の手傷を負うだろう。白の教団にもつけ入る隙を与えたくはないんでね」
「自身の所属する組織の現状に対する分析としては妥当な内容か。まあ、そんな些細なことはどうでもいいんだ」
それが本当にできる立場にあり、実行する実力が伴っているところが掛け値なしに厄介であるのは事実だが、早まる鼓動は止まってくれそうになかった。
これほどの獲物が目の前にいるのだ。
侮辱とも取れる言葉にも、歓喜のあまり笑みさえ浮かべている。
「些細なこと、か。くくく、そうだな、お互い似合わない腹芸はやめるとしようか」
「結論は、先ほどのお前の言葉の中にあるだろう。俺を従わせたければ、力づくで来い。俺以外の命が俺の発言一つで左右されるのはまっぴらなんでな」
自分に関わらない人間の命など知った事ではない。
地球の裏側でこの瞬間に何百人の命が失われていようが気にしないのは、今を生きる人間の大多数だろう。
ただ、それが自分のせいで発生してしまうのであれば流石に気にはなる、しかし、気にはなるがそれだけの話なのだ。この交渉もそうした、ありふれた話でしかない。その影響を受ける人間が比較的近しく、また、人数が多いというだけで。
「むしろ、戦いたいのは貴方でしょうに」
「否定はしないよ、だが、自分の双肩に祖国の命運が掛かっているなどと気には負わないさ。そして、それで負けたのなら脅されたとでもなんとでも言い訳はできる」
「どう転んでもいいように落としどころを持ってくるところは、流石だな」
「戦いは好きだが、死にたがりではないのでな。お互い、死なない程度に殺し合おうじゃないか、あははははは」
「こちらとしては、窓口として扱うそちらを殺せない。そちらのみが一方的に相手を殺せる条件だ。せいぜい飛車角落ちといったところか」
条件を整理し、勝てる算段を付ける。
明にとっては少々不利な条件ではある、しかし、それが今の自分にできないことだとは思っていなかった。
「「戦闘開始だ」」
響き重なり合う声。
背を向けた二人を構成する要素が書き換えられていく。
ばらばらと古城が崩れ落ちていく。
「今の俺の力を貴方にお見せしよう」
崩落していく石の間から妖精の目がその敵として向かいあう魔術師だけを見つめていた。
更新しました。
時たま読み返していると思われる方がアクセス数から辿れるんですが、その方たちにモチベを支えられて更新が続いております。
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