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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
135/151

6-2-5 negotiation

 仮想の戦場での戦いは終わり、廃墟と化した城に雪が降っていた。

 そこには、彼ら以外にはだれも残っていなかった。 


 「しかし、鏡の本気、凄まじいな。いや、魔女の力といった方がいいのか」


 「鮮やかな戦闘だったけど、どちらかというと、その後の詰めの協定の方が魔女と呼ぶにふさわしかった気もするけどね、明」


 「水月もそう思うのか。終わってみれば、最小限の労力で最大限の戦果を得たことになるなる交渉だったな」


 元々相手のトップと交流があったということで、戦闘と交渉を鏡に一任していた。今回の戦闘も明は、現場にはいたがやっていたことは敵を間引く程度のことしかしていない。


 「武力による交渉の部分があったのは間違いないけど、信任がある相手に保守管理を全て任せた上で自由に通行できる権利を手に入れたのは、悪魔的だよね」


 「そこで発生する利益の部分は相手に渡す、というのは温情のようにも見えるが、支配権の方は回収しているから、いつでも根こそぎ奪える状態なのは変わりないしな」


 「事実上の植民地だよね。何も失っていない体裁なのは、相手の顔をつぶさないための餌で、実際にはただの維持管理費で消える部分だと思う」


 「これだけの規模のエリアを追加で管理する人も資源も、電研にはないからな」


 実際には現時点では、管理できる人間、資金も電研には潤沢にある。

 だが、これは今後何度も繰り返されていくであろう光景なのだ。

 そのたびにリソースを消費し続ければ、どこかで必ず限界が来るのは明白だった。

  

 「何にせよ、無事に先に進むことができたわけだね」


 「そうだな、これで奴の首に一歩近づいた」


 『白の教団』の統率者、アティド・ハレ。

 近づけば近づくほど、彼が天井人だということがわかる。

 近づいているはずなのに、むしろ、遠くなっているような気さえする。

 何故、彼が水月を狙うのかは、わからない。

 新城大地が、殺されたのは単なる戦いの結果だとは思う。

 元々、因縁がないわけでもないのだろう。

 それに関しては、アハリ・カフリについて調べていけば、関連性が見えてくる。

 仮想の創造主、アハリ・カフリ。

 管理用の人工知能を作成した、シロエ。

 共通言語部分を作成した、黒木智樹。

 衛星まで打ち上げた世界規模の計画の内情を把握するためにエリザベスの手駒として送り込まれた諜報員、アーサー。

 生物学者のシャーロット。

 他にもあらゆる分野のエキスパートが集まったプロジェクトをアハリ博士が主導したのだった。

 そして、研究チーム内において、仮想における初代テストプレイヤーとして選ばれた、新城大地と『刀神』こと辰巳鉄心、アティド・ハレ、マクト・ロートシルト。彼らについては、身体能力の高さから比較対象として選別された側面が強かった。

 頭脳がないわけではない、しかし、明確な身体能力の差が仮想においてどのように影響するかを検証するためには必要な人選だった。

 開発初期の仮想において模倣された肉体でも、その動きは現実の延長となるというような結果に至る。そもそもが、現実の人間の動きに近づけるというのがコンセプトなのだから当たり前の結果ともいえる。

 その開発中の息抜きと称して使われていたゲームが『GENESIS』であり、天才アハリ・カフリが何を考えてそれを実行したのかは不明だが、第二の現実たる仮想空間において適用し、武器のない楽園は戦場へと姿を変えた。

 開発チームに参加していた人間は各国に散らばり、各国において現在の仮想における主要な位置に存在している人間が多い。明達が先に進むうちに、必然的に入ってくる情報も多かった。


 「私には、彼が分からなかった」

 

 共感で彼の心を探っても、実際に会ったときに自身の目で見たときも彼の、アティド・ハレの内面はわからなかった。あったのは殺意と何かを成さねばならないという強い意志だけだった。

 ただ、なぜそこに至るために天宮水月の死が必要なのかはわからなかった。


 「この先に進み調べていけば、目的もわかるかもしれない。うまく手打ちにする方法があればそれが最上かもしれない。だが、どのみち奴の首こそが俺の戦う理由だ」


 父を殺された。

 深い愛情を感じていた訳ではなかった。

 だが、近しい人を殺されて黙っていられるほど愛していなかった訳でもない。

 例えそれが、どれだけ強大な敵であったとしても、だ。


 「彼のせいで、こんな形で世界を旅するのは想像していなかったな。でも、そう考えると少し救われるかも」


 情報収集、領土の拡大。効率的に先に進むためには必要なこととはいえ、殺し殺されることを繰り返し黒い怨嗟をまき散らしながら、世界中を旅をする。

 今の彼らは、正しく『黒の旅団』だった。

 内部から見れば、効率的に動いているだけのそれは、塵一つ残さない虐殺のように映っているのかもしれない。そもそも不正なことなどしていないのだ。

 明達の視点で内部を分析していくと、突出した戦力が集中しているために、一方的に勝ち過ぎるがために悪評が広がりすぎた、というのが現状だった。逆にそれを威嚇力として利用する部分がなくもないが、それはむしろ不要な戦闘を避けるためだ。

 ただの快楽殺人者の集団なら、マクト・ロートシルトというバックボーンがあろうがなかろうが、とっくに滅んでいただろう。

 

 「旅か、そうだな。そう思えば、戦場跡の殺風景も侘び寂を感じなくもない」


 「世界を黒く染め上げて、各地を渡り歩く集団って思えば、そんなに悪くないのかもね」


 「前向きなんだな」


 「前向きじゃないと、倒れちゃいそうだから」


 「倒れそうになったら、前に一歩踏み出せばいいさ」


 「今はただ、前に進み続けるしかないのかな」

 

 「進み続けている間は、後ろは見ないで済むからな。後悔はすべてが終わった後にすればいい」


 「あとは野となれ山となれ、だね」


 降り積もる雪に染まっていく城をみて、二人は微かに笑うのだった。

あけましておめでとうございます。

身内のことで色々あったり、年末年始で多忙だったりなどと色々ありまして非常に遅れました。

えたる予定はいまのところないので、そこだけはご安心を。

と、間隔があきまくってしまったので取り急ぎ更新します。

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