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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
131/151

6-2-1 negotiation

 実際に目にしたマクトは強かった。

 少なくとも自分では全く通用しない領域にいるプレイヤーなのだと理解させられる戦闘だったのは確かだ。

 自分よりも、セルゲイ・ロマノフよりも個人での戦闘力で勝る相手によって構成された部隊を屠ったウィザードの攻撃を苦も無く防ぎきったことからもそこまでは理解できた。

 では、その相手を完全に拘束し、生殺与奪の権利までも手に入れた神代はいったい何者だというのか。

 剣を突き付けられたのはマクトのビショップ。

 

 「驚いたよ、初手から百手以上のこちらの行動を全て完璧に読んでいなければできない芸当だ。だが君のそれは『共感』による読心術とも違う。先制攻撃から動作がスタートしている以上その可能性はありえないはずだ」


 そう、先が読めているなら初撃でカウンターを取り葬り去ればいい。交渉が目的なら、武装解除として死なない程度に破壊すればいいはずだった。

 それ以外の方法で正面から出し抜かれ、敗北をあえて突き付けられた。


 「意外と冷静なのね、私の機嫌次第で全身が刃に貫かれるというのに」


 「死とは常に隣り合わせでね、それを以って判断を狂わせたりはしないさ。どうにもならないという諦めも少し混じってはいるけどね」


 「援軍を呼んではいるのでしょう? いかに戦闘中とはいえ、それくらいのマルチタスクは造作もないでしょう」


 「ギルドの指導者であり、最高戦力の一角でもあるこの僕があっさりと倒される相手に援軍など無意味さ」


 「それは嘘でしょう? 醜態をさらせば、指導力の低下を招くからではないの?」


 「痛いところを突いてくるね。まあ、今動かせる手駒のドローンを一気に展開しても多対一を前提としたその戦い方には無意味だろうしね」


「冗談よ。ギルド内で最強ではない貴方が最高の地位にいる。それは、貴方自身が強さとは別の物でその地位を確固たるものにしてるということ。援軍によって借りができることを思えば喜ばれこそすれ、マイナスという評価にはならないはず」


 「驚いたな。これは、純粋な興味だ。なぜ君という人間は、僕という人間を僕以上に理解している?」


 「未来から来た、そう言ったら信じるかしら?」


 「感情は否定しているが、理性では否定できる情報がないね」


 「貴方が現実と仮想に張り巡らせた情報網を潜り抜け、そのうえで自分以上の実力を獲得することができる条件を探れば、選択肢は限定されていく。それこそありえないこと、こそが正解であるかのようになる、とでもいったところかしら」


 「外部から情報屋を介して得られる情報を組み合わせて推理することで、ある程度の推論は立てられるだろう。僕はマネーロンダリングの装置であり、現実の世界における窓口でしかない」


 しかし、それは支配者が持つ権能であり、同時にそれを以て全てを牛耳っているはずだと結論付けるのが、全うな思考だ。

 現実にも権力を持ったものが、仮想においてもその力を十全に発揮している。ただそれだけのようにも映る。広い仮想において、仮に彼が最強ではないにしてもそれに近い力を個人としても持っているのだから。

 利益で結びついた犯罪者まがいの凶悪な人間を押さえつけられるだけの力が、彼にあるからこそ、この集団は成り立っている。

 それは一定の事実であり、間違ってはいないのだ。


 「それで、君はその荒唐無稽な話を信じられるような状態を作り出して、僕に何をして欲しいというんだい? 援軍が来るまでにそれほど時間はないよ」


 「必要に応じて、こちらの要請に応えて欲しい。無論、相応の報酬は用意する。それから内部の情報をある程度定期的に私の本体である、神代鏡に与えて欲しい。これは、もらして構わない程度のあたりさわりのないものでいい」


 「それくらいなら、情報屋を経由すれば黒の旅団に依頼することはできるだろう? 別に僕との直接のやり取りをする意味はないはずだが」


 「不必要なリスクだとでも? 直接やり取りした方が手っ取り早いのは確かでしょう?」


 「それは、ただの国会議員じゃ話にならないから首相を出せと言ってるように聞こえるんだが」


 「ありえない選択だからと否定するのは常識に縛られすぎているから。可能であればどんな選択だってするべきなんだよ、本来は」


 「僕が単独行動が多いのは事実だが、直接遭遇できる瞬間を把握されたことも、集団を相手取り圧倒する力量も、飛躍してはいても破綻はしていないその理論も、『魔女』と呼ぶのにふさわしいじゃないか」


 「交渉成立ととっていいのかしら? なんにせよこれで私は貴方といつでも交渉ができるということね」


 「君ほどの実力があれば、大概のことは元々出来たろうに。こんな方法で直接コネクションを手に入れるとは、想定の埒外だったよ」


 「あら、通信技術が発達しても人は直接会って交渉するものでしょう。何もおかしいことなんて最初からないのよ」


 「徹底して正論を貫いているのは僕のはずなのに、君が言っている突拍子もないことの方が正しく聞こえてしまうのは、それすらも魔女の術中ということかな」

 

 「魔女が魔法を使うのは当然でしょ」


 おどけるようにいいながら、彼女はセルゲイに帰還の指示を出す。

 援軍らしき姿を確認すると、ウィザードとエンペラーは現実へと帰還するのだった。


更新。

すごく、熱いです。

とける

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