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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
130/151

6-1-5 absolute

絶対的な力。

彼の前にあったのは、そうとしか思えない現実だった。

彼は畏れた。

自分が死ぬはずだった現実を、ではない。

目の前に存在する破壊の化身を、だ。


「お前は、いったい誰なんだ?」


答えを期待しての質問ではない。

先程から何度も呼びかけているが、返答らしい返答などない。

短い悲鳴のような声を最後に、彼女の声は消えた。


 「『魔女』とでも名乗っておこうか、敵は全て私が殺すから安心してくれていい」


 彼女の声、だがその声を使って放たれた言葉は彼女のものとは思えなかった。

 緑色の光が瞬くたびに、敵が殲滅されていく。

 セルゲイは、ニュービーである自分達が強いとは思っていなかった。

 だが、チームでガーディアンを倒せる程度には実力をつけていた。少し訓練を積んだ程度の相手ならば、負けないくらいには個人技も磨き上げてきた。

 その自分達が、束になっても勝てないような相手が群れをなして現れた。

 PITを手配してくれた職員か、それとも取り巻きのうちの誰か、あるいは仮想内部の第三者が気まぐれに情報をリークしたのかはわからない。ただ、自分を邪魔だと思う相手が秘密裏に葬る手段としては、最適だったのは事実だ。

 PITは可能性であり、力だった。

 奇しくも、最も自分が望んでいたものを思わぬ形で手に入れた彼には、鏡がまさしく女神のように思えていた。

 異国の地から訪れた客人を巻き込んでしまったと後悔さえした。

 それが、自分が愛しいと思った相手ならば尚の事。

 ところが目の前で起きている現実はなんだ、今の今まで自分と切磋琢磨していたハズの相手は鬼神が如き強さで敵を屠っていく。

 天から与えられた才能というものか、それとも別の何かなのかはわからない。

 

 「これが、『黒の旅団』? 最凶最悪のギルドのメンバーだって? 脆すぎるな」

 

 肉体と精神が別々であるかのような、挙動。

 エメラルドグリーンに輝く数十の剣が独立して意思を持っているかのように空を踊り、機械の身体を引き裂いていく。

 あたかも、剣の嵐の中心に魔女が佇んでいるかのようにさえ映る。

 

 「貴方は戦わないの? リーダーなのでしょう?」

 

 黒いビショップのAAに剣を向けて神代鏡らしき操縦者は問う。


 「統括者ではあるけど、君に挑んだのは彼らの自己責任さ。僕がここにいるのは、自称『黒の旅団』の名を騙っての小銭稼ぎを諌めようとしてのこと」


 黒いビショップを操る男、マクト・ロートシルトは言う。


 「別段、内部の不始末をなかったことにしている、という訳でもないのね。下の評判は最悪だけど、上はまともな組織なようね」


 何の感情も込めずに、周囲にいたAAを殲滅しきる。

 後には、瓦礫の山が広がるばかりである。


 「自称、『黒の旅団』がそれなりに横行していてね。AAのカラーリングを黒く染めて適当に悪さをしておけば、罪はこちらのギルドが被ってくれるだろう、という浅はかな連中が多くてね」


 「噂とは違うとでも?」


 「我々は、何も侵していない。目の前にある『The Book』という聖典に法り、システムの許す全てを行うだけだ。それを捻じ曲げる『白の教団』の方が余程間違っているさ」


 マクトは、事実を否定も肯定もしなかった。


 「詭弁ね。財産の簒奪も、殺人も許されざる罪ではないの?」


 「法というのは、あくまでも地球上の一地域内で起きた紛争を解決するための手段でしかない。地球上でない場所で起きたことに対する何かを裁けるものではないし、簒奪も人間の死も結果として起きるものではあるが、因果関係が認められるものではないさ」


 演算装置である衛星サーバーの所在は宇宙だ。地球上に『この世界』で行われる演算結果の是非を問う法はない。


 「徹底した正論、貴方はそういう人間ですか」


 彼以外の全ての敵はエリアから消滅していた。

 散らばっていたソードビットを収束させ、喧騒は静寂へと姿を変えていく。


 「そういう君は誰なんだい? こう見えてそれなりに顔は広い、名の知れた人物なら大概は知っている自信があったんだけどね」


「私は、黒依。神代鏡であり、神代鏡ではないもの」


「謎掛けか何かのつもりかい? まあ、君が誰であろうとどうでもいい。ただ、君は言っていたね、敵はすべて殺すと。その中に、この僕も入っているのかな? 『黒の旅団』首領である、このマクト・ロートシルトも」


 司祭は杖を正面に構え、ローブが音を立ててその形を変えていく。

 強固な鎧は、敵を殲滅する剣へと。

 罪を許す司祭は、断罪する審判者へと。


 「貴方が誰であろうと、私は彼女を守る。たとえそれが、アハリ・カフリであろうと」


 一振りの剣を手に魔術師は、抗う。

 王として君臨する者に。


 「さあ、宴を始めよう」


 「ええ、始めましょう。変わりゆく世界に新たなる時を刻むために」


  ぶつかり合う剣と剣。

 それは、意図したものか意図してないものなのかはわからない。

 この上ない開幕の合図であり、終わってくれるなという願いだったのかもしれない。

 絶対者とルーキーに過ぎないはずのプレイヤーの戦い。

 ただの蹂躙になるはずだったそれは、違う結末を得ることになる。


 「自動防御とでもいったところかい? 剣を連ねたギミックブレードから派生したすべての斬撃が弾かれている。ダンスのステップを絡めた、武術とは違う動きも交えた百以上の攻撃が」


 交錯から、間合いを取り直すまでの数瞬。

 重なり合った刃が火花を散らす。


 「自動防御と思うのならそれでもいいでしょう。私のそれは、そこまで甘いものではないのですが。案外、あっけないものですね」


 刃を受け流され弾かれたソードビット。

黒衣は敵対者を包囲するべく再配置し、次の一手で上回る。


 「防ぐものがないならば、術者を先につぶせばいい。勝利と敗北は近しいものさ」


 「砕けろ」


 突進からの突き、

弾丸を思わせる挙動だったそれに、

彼女が一言呟き、

剣を一閃する。

 吸い込まれるように剣と剣はぶつかり合い、互いの刃が砕け散った。

 

 「いや、ここからがこの武器の真骨頂さ」


 内部から幾重にも重なり合った刃が弾ける。


 「知っている、だから止めた」


 「これは、電磁障壁の応用。初撃で磁化させて、本体の拘束が本当の狙い」


 「これで、チェックメイトね」


 『虚無』でアビリティを無効化しても、その後のビットの対応で一手遅れる。

 無数の刃が絡み合う中、彼女は絶対的な強さでその場を支配したのだった。


遅れてすまん。

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