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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
129/151

6-1-4 absolute

 繰り返されていく講義。

 それをこなしていくのは、神代鏡にとって退屈ではあっても苦痛ではなかった。

 相応にレベルが高いことをやっているというのはわからないでもないが、それが彼女に理解できるレベルを超えているものではなかったからだ。

 真面目に勉強している体を取っていれば、教師からも生徒からも干渉されにくいので、下手にサボってツケが貯まるよりはかえって楽に思えた。

 講義を受けていいて、彼女が実感として思ったのは、国が変わっても言語が変わる以外は大きな差異はないということだった。

 講義に対して向き合う姿勢や、ディベートを挟むなど形式的な変化はあった。

 だが、不真面目な者がいないわけではないし、討論にしても基本的なロジックを押さえてしまえば、あとは情報量の勝負だ。考えうる最適解を求めた後は、一種予定調和のようでさえある。

 そして、彼女には自身と相手の答弁の内容を想定問答化することができた。

 自分が勝者となれる側で議論するなら、まず負けることはないし、敗者となりやすい側であるなら論理を破綻させた。

 イレギュラーなケースを全体の意思であるかのように誇張するか、趣旨そのものを変更するのだ。まともにやっても相手のレベル次第で論破することは不可能ではないが、少なくとも同程度の知識を持つ人間であれば、的確に弱点を突かれ、自身が論破されることになる。

 ならば、同じ土俵で戦わなければいい、という話だ。

 奇策の類ではあるが、議論の勝敗のみならばそれで十分だった。別段、彼女は完璧な論理を掘り下げて、新しい理論を打ち出して研究者になりたいわけではないのだから。


 「なぜだ、なぜ勝てない」


 落胆して打ちひしがれるセルゲイの姿も見慣れたものだ。

 リアルタイムに情報を検索して適宜補うことができる神代鏡に対して、まともに学習して事前に準備しただけでは分が悪いのは当然のことなのだが、この当時、僻地と言われるこの国においてPITの浸透率は極めて低かった。

 一部のハイテクマニアや好事家だけが入手していたが、多くの人間には旧来のディスプレイと演算装置のPCで十分だったからだ。


 「私は、リアルタイムに情報を補完しているんだ。このPITで」


 左手にある腕時計を見せながら、鏡が言う。それが真面目に自分に向き合っている相手に対する、せめてもの誠意だと思ったから。


 「なん、だと。そんなことが、可能なの、か」


 怒り、憤り、驚愕、畏れ、様々な感情が渦巻きその度に表情が変わっていく。

目をつむり、深呼吸。

そして、最後にセルゲイが感じたのは敬意だった。


 「そうか、そんな方法もあったのだな。感服した」

 

 「そんなことをされたら勝てる訳がない、とか、不正行為だ、とは言わないのだね」


 「当然だ。別段、討論をしている最中に、ノートパソコンを持ち込んで調べながら会話してはいけないなどとは言われていない。そちらがやっていることと同様のことをできたはずなのに選べなかった。その手段を発想できなかったこちらが悪いのさ」


 実際、事前に用意した資料や関連した書籍を確認しながら話をする人間はいくらでもいた。彼の中では、彼女がやっていたこともその延長線上のことでしかない。

 

 「俺も同じ手段を使い、今度は同様の条件で勝負すればいい。その道を示してくれた貴女に敬意を払いこそすれ、不正だと言って糾弾するなどという馬鹿げたことはしないさ。後ろにいる連中は、そうしようと思っていたかもしれんがね」


 リーダー格のセルゲイにそう言われてしまっては、取り巻き連中は黙るしかなかった。

 

 「これは、私が君に感謝するところなのかな。そうしてもらえると助かるよ」


 「こういう時、君の国の言葉ではこう言うのだったな。首を洗って待っていろ、と」


 「この首をあげるわけにはいかないが、綺麗にはしておくよ。挑戦ならばいくらでも受けて立つ、勝負に勝った者としてね」


 セルゲイの中では彼女の立ち位置は、憧れに近いものだったのかもしれない。

 きっかけは、容姿に惹かれただけなのかもしれない。

 彼女は、異国の価値観を持ち、自分に無条件で追従しなかった。

帝政を形骸化させた議会の人間達のように、皇族である自分のことを道具や傀儡としてしか捉えていない訳でもない。

 皇族として、あえて尊大に振る舞い、優秀な成績を収めていたのは、自分を守るためだった。

 そうしなくては、自分自身など存在しなかった。

 少なくとも、真面目で優秀な学生というアイデンティティすらなければ、彼は国事行為に際して登場するだけのマスコット人形のような存在になっていただろう。

 高い地位のために、同年代の人間たちからは、いたずらに煙たがられ友と呼べるような相手はいなかった。

 年経た人間は、自分のことを利用することしか考えていなかった。

 思えば、神代鏡という少女は、セルゲイ・ロマノフにとって初めて自分自身を一人の人間として向き合ってくれた人間なのだ。


 「負けたとて、これほど心躍ることはない。俺は、何度でも君に挑むだろう。悪いが付き合ってもらうぞ」


 「いいさ、どうせ私も退屈してところでね。次は、同じ条件で戦えるもので競い合おう」


 そして、二人は『GENESIS』に出会うことになる。

 きっかけは、偶然。

 しかし、その偶然は彼らの人生に絶対的な変化を与えてしまう劇薬だった。


ながらくお待たせしました。次は、バトルやりたいですね、久々にバチバチとやりたいところです。

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