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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
127/151

6-1-2 absolute

 「何故だ、何故援軍の要請が無視される」

 

 PITを介した通信で何度も暗号文を転送しているが、コマンドポストからはなんの返答もない。暗号の解読に時間が掛かることなど、対応した鍵暗号を持っている以上有り得ない話だ。

 だとするならば無視されているか、あるいは。

苛立ちを隠せない男は、デスクに何度も拳を叩きつける。

 

 「既に援軍がいないから、ですよ」

 

 緑を基調とした軍服姿の女性士官、ウー・ヘイフォンが対面のデスクから言う。

 彼女の静かな声は、落ち着いている、というよりは既に事情を把握しての諦観だった。


 「馬鹿な、ここで手を打たねば我が国の電脳部隊は全滅だぞ。無視できる相手ではないのだぞ、司令部は一体何を考えている」

 

 「異動したなどと勘違いされましたか? 全滅したんですよ、既に」


 「総勢数万の部隊が全滅、なんの冗談だ? 俺が仮想に没入していた間に一体何があったというのだ」


 「たかが一国程度の電子戦部隊が、全世界的な規模でしかも最強最悪の勢力と正面からまともにやりあって、勝てるはずがないでしょう。元より、私からは撤退をご案内していたはずです」


 群れることに大した意味はない。

 先日行われた、白の教団筆頭アティド・ハレと黒の旅団の首領マクト・ロートシルトの戦闘の動画は、それを証明するものだった。

 荒々しい戦いの映像は、数十のそれも精鋭の兵達が一瞬で為す術もなく倒れていく姿が克明に撮影されていた。

 

 「俺は、俺達は、一体、何と戦っていたんだ……」


 全滅したというのならば、文字通りの総力戦だったはずだ。それが僅か数時間の間に全ての趨勢が決着するのは、彼の想像の埒外だった。

 理解を越えた現実に呆然とする男は声を紡ぐも、最期はかすれて消えた。

 

 「最初期の時点、数の上では我々が勝っていたのは事実です。ですが、ただそれだけのことでしかなかった。比喩や誇張ではなく、頂点とはそういうものではないのでしょうか」


 データとして彼女の元に転送されてきた、王国連と新城大地との戦い、連戦という形でアティド・ハレと新城大地の戦いも、一年かそこら講習を受けて戦闘訓練を積んだ程度の人間がいくら束になっても無駄だという現実を突きつけるものだった。

 それがプロフェッショナルの人間だったとしても、だ。

 実際、アーサーの部下であったランスロット、トリスタン、ガウェインは、並みの相手と戦闘したとして、一個小隊程度なら殲滅できる程度の腕前を持っていた。

それにも関わらず、あっさりとただの個人に無力化され、最終的にはアーサー自身が駒として扱い、戦力としてなんとか拮抗するという程度だ。


 「同じ場所で同じように戦っているつもりだったのは、こちらだけで相手は最初から戦ってすらいなかった、あれは、戦いなどではなかった、か、はは」


 「事実、我が軍が受けていたのは蹂躙でした。本隊と交戦していた男、マクト・ロートシルトの懐刀だったニクム・ツァラーなど国崩しをするが如くの力でした。実際に崩壊させられてしまうというのは、私の想像を超えていましたが」


 「ウー・ヘイフォン。お前は、私と交戦していた新城明の観察をしていたんだったな。なぜ、あれほどの力を持ちながら、これまで表立った活躍がなかった?」


 「電研の業務は、何らかの形である程度の成果さえ上げていれば自営業のような状態の任務ですからね。大多数の人間にとっての評価されるような仕事を引かなかった、といえばそれまでですね。彼の場合、仮想で行方不明になった仲間探しに注力していたのが主な理由ですよ」


 「あいつと一緒にいた二人、か。確かに注力していたのも頷ける力だ。連携の練度、個人の技能、判断能力、全てにおいて我々を凌駕していた。それだけの時間を割く価値が有る人材だ」


 「事情を知らないあなたから見ればそうなんでしょうけど、使える人材だから助けた訳ではないですよ、彼は。でなければ、元白の教団幹部、黒木智樹とまともにやり合いたいとは思わない」


 黒木智樹に師事し、そして、その後彼を倒したという話は、少し調べれば出てくる内容だ。もっとも、白の教団から追放され、引き取り先である電研からも見捨てられ落ちぶれた黒木を倒した、という程度の事実認識に落ち着いていたが。


 「輝かしい経歴じゃないか、師匠が化物なら弟子もとんだ化物だ。だが、個人でないのならその弱みをつけば、いや、組織が壊滅した後ではどうでもいいはなしか」


 「賢明ですよ。彼の仲間の片割れは、白の教団から死刑宣告されたそうです。でも彼らは何も恐れていない、それどころか苛烈さを増すばかり。下手な脅迫など逆効果でしかないのは明らかです」

 

 「はは、それを思えば、俺は運が良かったのかもな。はははは」


 絶対的な暴力からの恐怖、

事が成ればなんとかなるという打算からの怒り、

頼みとしていたものが音もなく崩れ落ち、そこにあったはずの自我を支える拠り所は消えた。

 焦点のあっていないその目は何も写してはいない。

 しかし、いつか男は気付くだろう。

 自身に起きた幸運に。


だいぶ更新遅れたように見えますが、一応前回は編集という形で更新してるのでまあいいつもどおりかと。

前回の見ていない方は、そちらからどうぞと。

幸か不幸か、クリスマスですねえ。

まあ、仕事なんですけどね。

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