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ROG(real online game)  作者: 近衛
六章
126/151

6‐1‐1 absolute

新章突入。

 そこは港だった。

 少し前までは。

 倉庫や船着場であった場所は今、戦場跡となっていた。

 

「全てのデータを引き渡せ。そうすれば、今しばらくは生かしておいてやる」

 

 炎の中で見下ろす機械の妖精が、倒れ伏す機械の兵隊に向かって静かに言い放つ。

 

 「何故だ? 何故俺達と敵対する。わかっているのか? 俺達の祖国である共産主義連合国共同体、その後ろにある組織全てが神国と敵対することになるんだぞ?」

 

 「たかが一国程度の戦力で黒の旅団を脅迫しているつもりか? 何か勘違いしているようだが、お前は交渉するテーブルに着いてすらいない。お前にできるのは命乞いして、少しでも長く生き残れるように祈ることだけだ」

 

 ソルジャータイプを操縦している男は、理解する。

 この相手は、国家という組織と敵対することを本当に恐れていない。

 お飾りの首領を倒して、名声を上げるどころの騒ぎではない。こと仮想に置いて、自分は一国以上に厄介な相手に手を出してしまったという事実を認識する。

 仲間が全て殺され、今自分が生きているのは、目の前の相手の気紛れに過ぎないと。


 「わ、わかった、お前が必要としているものはなんでも渡す。だから、その銃を下ろしてくれ」


 「共産主義連合国共同体など、初めから脅威ではない。第三階層程度で根を張り世界をコントロールしているつもりの無能ども」

 

 仮想空間。

 二つ目の世界とでも言うべき、荒廃した世界。

 各国の行政が管理しようとしているのは、第一階層の自国の所属しているエリアだ。

その先にあるエリアが第二階層。

本格的な『GENESIS』の世界の入口とも言える。ガーディアンを倒した者とその新人を標的とする人間が跋扈する。

 第三階層は、下からくるものを阻む壁であり、上層を目指す者達の通過点。深層を目指す人間にとって一度通過した場所は、転送で無視する場所であるからだ。とはいえ、一度は通過しなくてはならないために、こうして一口付近で張り込みをして、通行料をせびっていたのが共産主義連合共同体の末端。


 「ゲートパスも発行するし、マネーデータが欲しいなら渡す。だから、殺さないでくれ」

 

 目の前の男から即座に転送されるデータに選別プログラムを通し、必要な情報を抜き出していく。


 「この期に及んで、ウィルスデータなんかを転送してきたら、即殺すところだったが、運が良かったな。お前は、生かしておいてやろう。祖国にでもなんでもさっさとリターンしろ」


 「お、恩にきるぜ、へへへ。あばよ」


 全身がカタカタと震えていたためか座標の固定が遅れ、しばらくしてからリターンプロセスが開始され、ボロボロのソルジャーがリターンを完了する。


 「良かったのかい、明」


 ウィザードのパイロット、神代鏡が明にいう。


 「生かしておいて、援軍でも連れてくる方が楽に殲滅できるからな。情報が欲しいだけなら自動統合すればいいだけだ」


 「君は、少し変わったな。以前の君なら、本当に相手の命を心配していたように思う」

 

 戦場に散らばったソードビットが収束し、ローブを形作る。


 「かもしれないな。誰の命も平等に尊いもの、とは思えなくなった」


 リニアライフルを『倉庫』の中にしまい、胸の前で十字を切る。明は信心深い訳ではないが人の命を奪うことに何も感じない訳でもなかった。

 

 「近しい者とただの他人など、比べるべくもないさ。全てを平等に扱うなど神にもできないさ」


 「宗教の神様も信者を選んで救っているものね。平等ではないよね」


 海面を割り現れた水月のウィンディーネがフェアリーの隣に寄り添う。


 【THE END】


 ビジュアルエフェクトが表示され、自動統合が開始される。


 「公平であることや公正であることなら、むしろ、仮想のシステムの方が完全な神としての機能を果たしているな」


 「その意味では、仮想は新たなる秩序とも言えるな。現実のつまはじきものを管理する新たな世界としては、ね」


 「犯罪者達の流刑地のように言ってやるな、最後のフロンティアとも楽園とも言われているんだから」


 「鏡の言うことも間違ってないよ。そもそも、そういう側面がなければ『電研』なんて組織が機能しているはずがないんだから」


 「今の我々は、裁く者であり同時に裁かれる者だがな」


 「何も変わっていないさ。行政の業務の一部を民間に委託した、ただそれだけのことだろう。最初から、違法な行為なんて何も行われていないのだから」


 「君も言うようになったな、ふふ。そういった黒い発言は、私の専売特許だったと思うのだが」


「自分の手で救えるものはそれほど多くないから。大切なものだけは、なんとしても守りたいと思うようになった。どんな手を使っても、だ」


 「それでいい。君が君である限り、私は共に戦うよ」


 相手に向き合う姿勢が変わっても、その本質は何も変わっていない。

 少なくとも鏡には、そう思えたのだった。

 編集にて更新。

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