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ROG(real online game)  作者: 近衛
五章
118/151

5‐4‐3 Regret


 月明かりがテラスバルコニーで、二人は隣り合う。


 「二人きりになったのは、久しぶりかも」


 ポツリと呟く水月の声に、もう涙の色はない。感情の発露さえ、演じられた彼女なのかも知れないと思えるが実際はその逆だった。ありのままの自分を受け入れてくれるからこその感情の発露であり、涙だった。


 「そうだな」


 自分が自分であることを無条件に肯定してくれる。二人の関係は、厚く、そして、脆いものだった。

 それは一種、美しく尊いものではあるのかもしれないが、信仰にも似たその関係は責任の放棄でもあり、無制限なアクセルと変わらない意味を持つ。

 明は水月のあらゆるものを許すし、水月は明の全てを受け入れるだろう。

 

 「ねえ、明。覚えている? 教皇に勧誘された日のこと」


 風がドレスを揺らし、髪が流れるようにたなびく。


 「全員でついていけば良かったと思っているのか?」


 そういう未来もあっただろう。そもそも電研に所属するというのは、水月を探す効率的な手段としての選択であり、それを達成した時点で違う未来を選ぶこともできた。


 「ううん、違うの。私はあのとき、彼から殺すと言われた」


 明の思考が凍りつく。

 四葉が死んだ戦闘の後、彼女にしては苛烈な攻め方で教皇に対して攻撃をしていたように思えるのは、こういった要因があったのかもしれない。


 「その時から自分が大事だった。教えていた生徒のある意味では仇を討ってくれた人なのかもしれないけど、ただ憎むことしかできなかった。彼に殺される理由なんてわからないけど、死にたいなんて思えない」


 自身の肩を抱き、声を震わせる水月。


 「なんでそんな大事なことを黙っていたんだ? 何か、いや、逆に何もできないからか」


 現実の方で前触れもなく接触され、仮想の方では最強の名を持つ相手にどう対処すればいいかなど検討もつかない。

 そして、だから、我慢できないという言葉になってくるのか。と、明はだいぶ遅れて理解することができた。


 「なんで私がそんなことを言われたのかは分からないけど。ただ、もしかしたら黒木先生が私のことを『女神』と言っていたことなんかと関係があるのかもしれない」


 白の教団が正義の代行者としての粛清という性質以外に、宗教性を持ち何かを崇拝する性質のものであったとして、女神というのが特定の誰かあるいは仮想を統御するAIを指すのではないのなら、それに連なるものとしての水月が関わってくる可能性はある。単純化して考えるのであれば、何か特定の才能を持った者や一定以上の権力を持つ一族など。

 彼女であれば音楽の才能で一定程度の地位を持っていたし、財界にも影響力を持った一族でもある。


「未来のことは分からない、明確な答えなんて何も出せない」


 情報が少ない、考えることが苦手だから、言い訳はいくらでも出てくるだろう。

それでも、答えがでない問を提示した水月という少女が求めているものはなんなのか。

 だから明は、事実のみを淡々と言う。


 「それでも、俺は天宮水月を守りたい」


 パーティーの熱に浮かされた言葉ではない。

 泣きそうに震える彼女を前に言葉はすっと落ちてきた。

 明は震える肩をそっと抱きしめ、耳元で誓いの言葉を告げた。


 「私は、貴方の側にいたいです」


 泣きはらした笑顔だった。

 幸せだった。

 それでも涙は見せたくなくて、彼のことを強く抱きしめた。

 誓いの言葉は、決意。

 最強の敵を前に立ち向かうという選択を明は選んだ。

 今度の選択は、ほかの誰かが提示したものではなかった。

友と呼べる者を助けるためでも、

任務でもない、

 誰かのための弔いでもない。

 彼自身が選んだ。

 彼に死を賭してなお自分を選んでもらった喜びが、死を強いることの後悔さえも塗りつぶしていく。

 

 「もう、我慢しなくていいんだ。頼りない腕だけど、水月くらいならきっと支えられる」


 押さえつけられていた、隠されていた感情が溢れ出した。

 そこからは、声にならない声が静寂を満たしていく。

 吐息は熱を帯び、鼓動は痛いくらいに高鳴っている。

 離れたくない、

 温もりを感じていたい、

 優しさに包まれていたい。


 (ああ、きっと、これが愛されたいという気持ちなんだ)


 熱にうなされるようなぼんやりとした思考で、水月はそう思った。

 手に入れてしまった感情は、失うときには後悔さえもさせてもらえないのかもしれない。

 それでも、今だけはこの暖かさに満たされていたかった。


 「愛してるよ、明」


 ささやくように紡いだ言葉は夜の闇に溶けていく。

 ほどいた手に夜風が心地よい。


 「愛してる、水月」


 月が照らす女神は、微笑んでいた。

 好きというだけでは足りない、愛という以外にはこの感情を表現する言葉を知らない。

 だから明は、邪魔な言葉をそっと塞いだ。



なんかもう、更新遅れまくってすいません。

キャラクターの生死になんでそんな悩んでんだってくらいに悩みました。ただ、この作品書いてるとよくあることなんですが、結果的により良いものができているようには思います。データ飛んで消えた時なんかも、消える前のものより後のものの方が出来がいいように思いますね。(錯覚かもしれませんが)

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