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ROG(real online game)  作者: 近衛
五章
115/151

5‐3‐5  Game


 (ねえ、あの子に勝てると思う?)


 白い天井を見上げる頭の中で声が聞こえる。

 別段、天啓などではないのだろう。聞こえる声はいつも同じだ、神の意志で世界を変えるとかそういったものではないのだから。


 (分からないわよ。そんなこと)


 だから、彼女はこの声を自分自身の意識の中にいるもう一人の人格と仮定することにしている。といっても、ただの多重人格とは違うのは分かっている。この人格は、自身にできないことをやってのけ、自身が望むように結果を引き出し、未来を提示する。


 (客観的に見るとホントにつまらない性格しているわね、鏡って)


 (そういう、クロエも本当にいい性格しているわね)


 クロエは、まるで心の内を映し出す鏡のようだ。

彼女自身が望んでいること、いないことを的確に見抜いて言葉がかけられる。

 鏡の中に映る自分ではない自分と話すような、奇妙な感覚。


 (皮肉屋でクールなつもりでも、実際は臆病なだけ。強く聞こえる言葉は、他人を寄せ付けないため)


 (そんなこと、分かっているわよ。他の誰よりも私が)


 自分自身の事だ、他の誰かに言われるまでもない。

 未来のことだから分からないと、言っているのだってそうだ。

 分からないことにして、起こり得る結果から目を反らしているだけ。


 (分かってないよ、貴女は。違うか、分かった上で目を反らし続けている。余計に質が悪いと思わない?)


 (そんなに簡単に変われるなら、悩まないわよ)


 (じゃあ、どうすれば変われるの? きっかけがあれば? それとも、誰かに変えてもらうのを待っている?)


 分かっているのだ。

 そんなことは、絶対にありえないということも。

 結局のところ、自分を変えていけるのは最終的には、どうあがいても自分自身でしかありえないのだから。

 ならば、変わっていくしかないのだろう、少しずつでも自分自身が。


 (変わるよ。私は、負けたくないから。自分自身にも、自分の中にいるクロエという虚像にも、私なんかのことをライバルと認めてくれた彼女にも)


 (でも、それはきっと辛い道だと思うよ。だって、貴女には才能がない。もっと言えば、彼女と争うには能力が何もかも足りていない)


 自己との問の中ですら矛盾しているのは、分かっていた。

 認められてはいても、それは何かの力ではない。

 天宮水月に、恋敵として、公正に受けて立つと言われただけのことでしかないのだ。


 (並び立つ、そういう道もあるかもしれない。ただし、これは試験管がいるテストじゃない)


 (戦いではなく、恋愛だってことに今頃、気付いたってことね)


 クロエの声は、どこか呆れているように聞こえた。

 でも、仕方のないことだと思う。

 今まで生きてきた世界では、それが全てで絶対的な基準だった。数字一つ、勝敗一つで一喜一憂して。優秀であると思って、同時に劣っていると思っていた。しかし、人間の心も営みもそれだけではできていないのだ。

 一つの敗北が勝利以上に意味のあることになったり、ほんの些細な仕草一つに心奪われたりする。負けたからってそれで終わりではないし、諦めないでもいいのだ。負けているという事実を受け入れた上で、最終的に勝てるように動けばいい。

 極論、勝たなくてもいいのだ。

 負けなければ、それは勝利と同義なのだから。


 (優れていた方がいいに決まっている、でもそれは必要な条件じゃあない)


 (そういう事、さらに言うなら、相手は天宮水月じゃなくて新城明の方)


 こんな簡単で当たり前のことに、今頃、しかも一番指摘されたくない相手に指摘されて気付いたことが嫌になる。そして、自分自身の視野の狭さに呆れたくなる。


 (正攻法は、成功したことがない。なら、何かいいアイデアはないの? 自称姉)


 (抱え込まないという意味では成長したけど、行動は退化しているわよね、それ)


 (あるものを全て使わなきゃ勝てないんだから、無い知恵絞るのも二人分の方が幾分ましでしょう?)


 (経験談でいいなら、なし崩しで落とせばいいと思うわよ)


 (場の流れとか偶然に期待するというのなら、現状維持をしていた最初の私と同じ結論なんだけど。実は真面目に相談受ける気がないでしょう、クロエ)


 (経験談と言ったでしょう。私がなにかした時よりも、せざるを得なくなった時の方が結果的に望んでいたものが手に入ったというだけのことよ)


 (そのアドバイスを聞いてしまうと堂々巡りになってしまうのだけど)


 両手と両足を天井に向けて伸ばす。

 その手も足もなにも掴まずに高級そうなベッドに波紋が広がる。


 (聞かないで突き進んで後悔してみるのも一つの正解かも知れないわよ)


 (本当にいい性格しているわね、自称姉)


 (貴女よりも少し先に色々経験しているってだけよ)


 (ま、結局選ぶのは私ってことか)


 (困ったときは、私が背中を押してあげるわよ)


 (ありがとう)


 (その時立っているのが崖の淵でも容赦なく押すから、安心しなさい)


 (でも、やっぱり貴女は好きになれない)


 それは、彼女が一番嫌いな人に似過ぎているからでもあり。

 まるで、それは自分自身を映し出す鏡のようだから。

 願望の投影でもあり、見たくないものまで虚像として見せつける存在。

 二重人格であってくれるならそれも良かった。

 鏡は薄々と気付き始めていた、彼女の正体に。

 

 


回想回です。

これくらいのペースで投稿したのはだいぶ久しぶりですね。さらに珍しく予約投稿とか言うのも使ってみました。今後は手が空いた時に貯めて、ドーンと連続とかやりたいですね。まあ、できればですけど。

では、失礼。

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