5‐3‐3 Game
「本題に入ろうか、神国皇族連。そして、平治」
「話が早くて助かります。新城明」
名前を覚えた上であえて、普段はとぼけるというかなり悪質な冗談をかましつつ、御堂風雅が答える。
「平治が来るのは分からないでもないが、他の三人は電子部門とはいえ仮にも皇室の親衛隊だ。いきなり休暇取ります、といって何とかなる訳ないだろう」
「いつから気付いていた、新城明」
「最初からだ。たとえ過去に交友関係はあったとしても、昨日の友が今日の敵なんてことは、この業界じゃ日常茶飯事だろう?」
「まあ、隠すようなことでもありませんし。いいですね、縁様」
御堂兄弟の後ろに立つ、和服姿の縁が静かにうなずく。
「『刀神』様より、貴方様方と戦ってくるように申し付かりましてね。因縁のようなものもありますし、結果がどうあれ成長の糧になるだろうと」
「国内最強と言われるあの『刀神』に指導してもらっているのか」
「はい、そうなります。近接戦闘でならば世界でも有数というお方です」
「こちらよりいい環境じゃないか」
「師匠は、新城大地には勝った気がしないと嘆いていましたけどね。ユニークウェポンの刀も預けてあるといっていましたしね」
「総合力では、刀神が負けると分かった上で、あえて得意な近接戦闘で挑まれ、その得意な近接戦闘でも最終的に新城大地側からの自発的な切り上げでの降参では、勝ったとはいえないとの事でした」
扇で口元を隠すように縁がつぶやく。
「親父、そんなに強かったのか。正直、謎のエージェントくらいにしか思っていなかったぞ」
「ほとんど生きる伝説ですよ、あの人は。そして、その息子である新城明。貴方は、貴方自身が思う以上に注目されています。ですから、今回は訓練と調査、ついでに休暇も兼ねているのでしょう」
「休暇と仕事が同時に消化されるって、恐ろしい程ブラックだな」
「案外そうでもありませんよ。いざとなればローテーションで休めますし。とはいえ、今回はそういった事情もあって見破られてしまったのかもしれませんが」
「ちなみに、我々の中で最強は平治様ですわ。刀神さまは、我々以上に平治様を気に入られたご様子で自分のすべてを叩き込んだと豪語されていました」
「今の俺なら、お前にも勝てると思っている。それくらいには、強くなった」
明の目を見て、平治が言う。かつては自分の力のなさを嘆いていたからこそ、手に入れた力に対して自信を持って言える彼の言葉。
「胸を借りる、とは言わないぞ、平治」
「それでいい。少なくとも、お前は同年代では間違いなく最強であったはずだから」
ある、ではなく、あったと言う平治の言葉には好戦的な意図が見て取れる。修行や任務をこなしていくうちに、彼の中でも何かしらの心境の変化があったのだろう。
「それでは、我々はビジターとして二人の戦いを観戦させていただきましょう。よろしいですね、鏡様と水月様」
「私は別にそれで構わない。水月は、どうだい?」
「いいと思うよ。なんだかんだで、それが一区切りになると思うし」
「フィールドは、『神の社』。巨大な鳥居位しかないが、邪魔が入らなくていいだろう。純粋な力を比べるには」
「異論はない、平治。勝負だ」
***
石畳と巨大なAAよりもさらに巨大な鳥居に挟まれたフィールドで機械の妖精と機械の兵士が向き合う。
「改めて、お前と戦うのは学生以来だな。明」
「少し、わくわくしているよ。強くなった、お前を見せてくれ」
開戦の合図は、終わっている。
しかし、二人は動かない。
否、動けないでいた。
「殺気で相手をコントロールする。達人の域に踏み込んだのか、平治」
「看破されていれば、世話はないよ。一体どんな修羅場をくぐったら、そこまで強くなれるっていうんだ」
結局二人が選んだ初動は、最速の一撃。
クイックドローだった。
正確にコアユニットを打ち抜く軌道の攻撃は、空中で正面からぶつかり合い。開戦の合図となった。
「この戦い、俺は試練だと思っている。刀神から託されたんだ、この国の未来を」
「俺程度の相手で国の運命を左右するのはどうかと思うがな」
「『教皇』を相手に戦い生き延び、『魔王』の教えを受けた『プロフェッサー』の息子であり、国内で若手最強と言われている新城明。十分すぎると思うぞ」
「そうか、最近俺よりも強いやつを見過ぎていて自分自身の矮小さを思い知っていたところだったんだが。そういう見方もできるんだな」
爆発の瞬間に合わせ透過迷彩で姿を消した、ソルジャー。巨大な社よりもさらに大きな竹林が涼しげな影を落とすこのフィールドでは、闇に溶けたソルジャーを見つけることは不可能だった。
だから、明は三本の剣を以って、彼の動きを読む。
中段への薙ぎ払いは、前傾した走りで回避される。右手側から回り込み、背後へのサバイバルナイフでの一撃は、体を傾けて回避。
必中の距離での回避は、炎の剣の効果でわずかに見誤った距離の違い。
「捉えたぞ、平治」
攻撃する瞬間だけは、相手に接近しなくてはならない。銃火器での遠距離攻撃では致命傷を与えられないのであれば、必然生まれる攻撃のモーション。
奇襲以外でも、近接戦闘においては圧倒的なアドバンテージを発揮する透過迷彩あるが実態が消えてなくなるわけではない。むしろ混乱した相手の滅茶苦茶な攻撃で予期せぬダメージを受けることもある。
しかし、明は確信を持って攻撃を開始した。
後ろ足で蹴り上げ、宙に浮いたソルジャーに斬りつける。初撃をサバイバルナイフ、二撃目を小太刀、三撃目は空を切った。受け方から相手の体勢、感触から武器を推測しつつ攻撃を重ねる。
座標さえ把握できていれば、少なくとも攻勢に転じている間は、相手は攻撃を受けるしかないのだから。
「完全な奇襲のつもりだったんだが。お前には、透過迷彩すら意味がないか」
あえて姿をさらし、鳥居の柱に足を掛け平治は明に対峙する。現実であれば、神前でなんと無礼なことをと反省するところだが、そもそもこの場には信仰を受ける神などいない。全ては、遊戯の産物だった。
「不確定要素にはなるかもしれんな。プラスに働くかマイナスに働くかはわからないが」
柱越しに何度跳躍を繰り返し、斬り合っただろうか。
「決着といこう。全力でこい」
「刀神より賜りし技、ここで見せよう」
祈るような一瞬の静寂、そして、引き出された神の如き力がシステムによって仮想という世界に顕現する。
人間の限界を超えた連続攻撃が、激しくぶつかり合い。
互いの武器が空中で砕けていく。
破壊不能な性質を持った、ユニークウェポンだけが技を完遂するべく動きを止めないでいる。
互いの攻撃がコアユニットに突き刺さる。
小太刀と長剣。
技術の差ではなかった。
わずかに先の届いたのは明の刃。
機能停止までの時間の差は、コンマ数秒。
ほとんど、相打ちだった。
しかし、それでも勝者は一人。
「負けたのか、俺は」
「どうやら、勝ったのは俺らしい」
リザルト画面を確認して、改めて勝利したことを確認する。お互いに勝利を確信し、同時に負けたと思った、そんな戦いだった。
そして、二人は自らの意識と共に石畳に崩れ落ちていくのだった。
場面が切り替わってます。ミカエルとの戦闘を期待していた方は、すいません。