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ROG(real online game)  作者: 近衛
五章
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5‐2‐5  Next



  「来たか、本物の教皇」

 

 教会のバトルフィールド、その中央に彼はいた。

 

 「これが一番手っ取り早いからな。コピーデータの存在を消すこと、そして、コピーデータを倒し得る人物との接触には」

 

 白の法衣を纏い、アティドは新庄大地に言い放つ。

 

 「ラスボスの後に隠しボスが出てくる場合は、初見殺しが相場だな。つくづく俺も運が悪い」


 運が悪いといいつつも、その顔はどこか楽しげだ。

 その笑みは、笑うしかない状況への諦めかもしれないが。


 「貴方のことは尊敬している。だが、運命だと思って諦めてくれないか」


 「そう言われて諦められる程、安い人生を生きてきたつもりはないな。それに俺はまだ、息子に超えられていない」


 「そうか、貴方も知らなかったのか。ここが閉鎖的ネットワーク空間であり、そして、外部の空間からは完全に遮断されている場所だと」


 「あははは、未来のテクノロジーが聞いて呆れるな。これまで起きてきた全てが脳の中でのみ完結する話だったのか、とんだお笑い種だ」


 多重に存在する閉鎖的ネットワークの連なりが現在の世界の全てだった。もっとも、世界全てを内包する閉鎖的ネットワークが閉鎖的であると言えるのかは不明だが。


 「ならばわかるだろう? 俺という存在は、あの日貴方が助けられなかった、彼女を助けるために存在しているということも」


 「そうか、お前にとって現状はただの過去でしかないということか」


 「こちらから誘導したとはいえ、驚異的な推理能力だな」

 

 「なるほど、死を前に嬉しい誤算があるとすれば、予想を超えて息子が強くなってくれたことだな。それこそ、かつて最強と呼ばれていた俺を超える程に」


 「そうだな、強くなっている。少なくとも以前の貴方を倒す程度には強い」


 「仮想における神とも呼べるシステムとの対話、なるほど、改めて理解したよ。そして、感謝しよう君の好意に」


 「すまないとは思っている。だが、それでも俺には成さねばならないことがある」


 「お前自身の選択だ、咎めるつもりはない。そもそも、彼女が消えてしまったのは俺のせいでもある。アハリと対立していた彼女を助けられなかったのは俺だ」


 「因果なものだ。だからこそ、俺がこうして存在している。貴方ができなかったことを引き継ぐために」


 「優先順位の違いだ。自分が間違っていたとは思わない。思えば、お前とまともに会話するのはだいぶ久しぶりな気がするよ」


 「そちらからすれば数ヶ月ぶりのはずだが、こちらの体感では何十年か経過している」


 「そういえば、あいつとお前は本質的にはそう変わらないのか」


 「復讐鬼と正義の味方。立場は違うが目的は同じだ」


 「自分のこととはいえ、随分と淡々としているな。あいつが復讐鬼になるようなことをお前はこれからするのだろう?」


 今から新城大地は死ぬのだろう。そのために自分の息子が復讐鬼になるのは仕方のないことなのかも知れない。自分が死ななければ、違う未来があるのかもしれないという希望はあまりにも儚い。

 彼自身の推論では、アティドという男は未来人だ。

 閉鎖的ネットワーク内で過去の時点への情報に戻ってきた存在。現実の世界におけるそういった存在ならは懐疑的であったかもしれないが。限定的な条件内であれば、理解することはできなくても納得することはできた。


 「貴方は死ぬ、俺が殺す。今日、ここで」


 「それは、確定した未来を変更させないためか?」

 

 ステンドグラスを通過する光を背にする男に問いかける大地。


 「そうだ」

 

 審判者はそれが事実であるかのように頷く。


 「アハリの奴は、俺との再戦を望んではいなかったのか?」


 「そうだとも言えるし、そうではないとも言える。彼女と同様に断片化された彼は回収されるのを待っている。再構築され神として君臨する時、前にいるのは新城大地であると思ってはいたようだ」


 あたかも経験してきたようにアティドは話す。しかし、それは逆説的に彼がその後に何かを失敗した人間であることを意味している。体験してきた未来が望むものであるのならば過去を改変する必要などないのだから。


 「そうか。つまり、君は私に勝つことを知識としては知ってはいるが、まだ、経験として勝ってはいないそういうことか」


 あるいは、それは希望なのかもしれない。しかし、それは絶望の未来を目の前の男から引き継ぐだけのことなのかもしれないが。


 「なるほど、アハリ・カフリがライバルとして認めていただけはあるよ」

 

 「奴がゲームマスターとするならば、さしずめ我々は駒でしかないか。さて、そろそろいいだろう、お前とは一度本気で戦いたいと思っていた」

 

 達観するように淡々と大地が言葉を重ねる。

 彼は、言葉ではなく直接相手の思考を読むことで別の解釈をし、そして、結論にたどり着いた。

 

 「共感のアビリティか、ならばわかるだろう。どうあがいても結果が変わらないことが」

 

 「しかし、それと俺が手を抜くかどうかということは必ずしもイコールにはならない。思うところは色々とあるが、行動は言葉以上に雄弁だ」

 

 「では、はじめよう。願わくは、安らかなる死と目覚めがあらんことを」


 「結論は、君達、次の世代に任せるとするよ。男の戦いをしようじゃないか」


 対峙する二人がその姿を変えていく。

 ゼロとイチへと置換されていく、情報の造形。

 人ならざるものへとその形を変え、機人の力は、さながら神のごとく。


 「せめてもの手向けだ、全力で応えよう」


 かつて最強と呼ばれた男、そして、現在の最強と呼ばれる男の戦いが始まった。それは、新しい始まりであり、過去となっていく今の次を決める戦いだった。

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