5‐2‐4 Next
教会に鐘が鳴り響く。
その音が反響するように、いたるところで重なり合う攻撃と攻撃。
どこか殺陣のようにも映る、そのやりとりは連続攻撃を否定する居なし合い。相手の攻撃を反らし重心をずらし、回転させる動作で切り返す。
互いにこうして手を合わせるのは初めての相手。しかし、大地には、あるいはデータの元となったアティドにも確信めいた予感があった。最奥を目指すのならば、戦闘は避けられないだろうと。
そして、その際には一度でもまともに攻撃を受ければその肉体を破壊し尽くされるだろうと、直感していた。
「感動的な程、強いな。この相手を前に確実に勝利するビジョンを想像することができない」
本来、戦闘とは不確実なもの、そのことを再認識させられた大地。
「ならば、姑息な手段を使わせてもらおう」
壁を蹴り、飛びかかるルシファーの機体。一際強く光が瞬き、一瞬視界を奪う。光の短剣を正面にひと振り放り投げ、自身の周囲から収納した数十の剣を慣性のままにミカエルの機体へと落下させる。
不可視のタイミングで放たれた刃を受けた瞬間に、相手の体がぶれる。次の瞬間、大地の上を除いたあらゆる方向から様々な武器を構えた天使が包囲する。
「落下する剣を避けた? いや、間を縫って攻撃することなど余裕だろう」
罠だろうか?
あえて、退路を作り本体がそこで待ち受けているのか。それとも、何か別の意味が隠されているのか。その行動の真意は、操縦者となっているアーサーさえも理解することができなかった。
解せないと思いつつも、全ての敵対者に光の剣を投げ放つ。鉤爪の一本一本をスローイングダガーの要領で天使たちに投げ放つ。
虚々実々。
受ける動作をするもの、回避するもの、透過するようにすり抜けていくもの。ランダムな行動パターンではあったが、ルシファーを取り囲む、ほとんどの天使が実体を持たない虚像であると判明する。
以前、エンペラーとの戦闘した際は、単純に高速移動での連続攻撃、マクトのビショップとの戦闘した際には、『支配者』と『転送』のコンボによる、複数体同時攻撃、そして、今回は幻影によるフェイクを交えた波状攻撃。
「ならば、本体はどこにいる」
透過させた虚像の影から、本体の斬撃が正面からルシファー左肩を抉る。その攻撃は、コアユニットを一撃で粉砕する軌道だったが、超人的な反応で致命傷を避けた大地。今は幻影の痛みさえも心地よく思える。
AAに表情というものがあるのならば、きっと彼は笑っていただろう。
「一手、私が勝ったようだ」
敵の攻撃の間合いとは、即ち、自身の攻撃の間合いでもある。そして、彼自身が最も得意とするのはカウンター。倉庫を介して、その手の中に握っていたのは長刀。アクション後の硬直時間を逆に利用した信仰の力。
自身のダメージと引き換えの、必中必殺の攻撃。
「音切り」
音が後から聞こえる、納刀しか見えない、音を切っているように感じる、など大地の攻撃の受けた人間の表現は様々だったが、つまるところ、とんでもなく早い斬撃がその正体だった。
完成された技術体型に基づいた、斬撃。
特に名前を付けていた訳ではないのだが、そう呼ばれるようになり、敢えて大地はその名前を呼ぶようになった。
「……お前の本気、見せて貰ったぞ」
一瞬のうちに機体に幾重もの線が刻まれる。この時点で、既に勝敗は決していた。
「お前の決意は、本物だったよ、アーサー」
着地し、落下する全ての武器を『倉庫』の中へと収めいてく。
「結局勝てなかったな。最期に敗因を教えて欲しい」
力を失い、落ちていく御使いの偶像。
「お前は、戦いに自身の感情を乗せなかった。あくまでも合理によって動き選択をしてしまった、自分ではない教皇の力に勝敗を委ねてしまった。それは、最後の最後で自分自身を信じられなかったということだ」
背中越しに語りかける大地。
「決意一つで埋まる力の差ではないと思っていた」
純粋な力では、コピーデータの方が勝っていた。事実、自分達ではまともな攻撃は一度たりとて与えられていなかったのだから。
「俺は、教皇の力の前に恐怖し、死を覚悟し、勝つと決意した。そして、乗り越えた」
しかし、勝者は言う。技術の先にあるのは、精神であると。
「自分自身の力を信じられない人間に、勝利などないか。最期に学ばせてもらったよ」
その肉体が崩れていく、偽りの力とともに。
「直に俺もそちらに行くさ。おそらくは、本物の教皇の手によってな」
「待っているぞ、友よ。そのときは語り明かそう」
戦闘終了を告げるシステムの音が、崩れ落ちる敵とともに大地の脳に響くのであった。
修正。