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ROG(real online game)  作者: 近衛
五章
107/151

5‐2‐2  Next


 「さらばだ、プロフェッサー」


 その言葉に、一切の恐怖はなかった。軍人とはいえ、狂気染みたその言葉に畏怖を感じ取りとっさに飛びすさる大地。特に何か考えての行動ではなかった。しかし、自身の胴体があった場所に過ぎる風切り音。

 それは防戦一方だった、アーサーの乾坤一擲の一撃ではなかった。


 「これが、お前の切り札ということか」


 「いや、彼のコピーデータだよ。彼に対する不干渉と引き換えに提供してもらった」


 光を纏い、宙に浮かぶその姿は光輝が如く美しい。そして、おそらくここにいる誰もが一番敵に回したくない相手、アティド・ハレの操るミカエルだった。


 「隊長は、こんな切り札を隠し持っていたのか」


自身の手助けが間に合わなかった、そう確信した瞬間に現れたその存在を前に剣を落とすランスロットの機体。


 「現最強と過去の最強、夢の戦いだろう」

 

 頭を垂れて見上げる王、中空より見下ろすのは御使いたる白き天使。そして、その両者を前に一歩も怯まぬは、司祭。

 

 「そして、お前は漁夫の利を取るか。確かに、それは賢い選択だよ」

 

 「賢者にはなれたとしても、王者にはなれぬとわかっているさ。元より、この身は女王陛下に捧げられている」


 「いいだろう。全力を以て、お前を殺す」


 倒すではなく、殺すと言い放つ大地。隊長を倒せば、詰みまで持っていけると思っていた自身の甘さを掻き消す言葉であり、決意の表明でもある。


 「君の有言実行の信条は、今回限りで破らせていただくよ。私には、友よりも重いものがあるのだから」


 不退転の敵として、かつての友が立ちはだかる。その背に背負うのは、国家への忠誠か、あるいはそれ以外の何かなのだろうか。


 「ならば、仕切り直しとしよう」


 数十の剣を宙へと放り投げ、ビショップの機体がその姿を変えていく。


 「再構築? いや、擬態しているのかルシファーに」


 「逆だよ、これこそが本来の姿。当然、知っているだろうが、この姿で俺は勝ったことしかない」


 機体の周囲では、雨のように降り注ぐ剣が倉庫へと消えていく。その中央には、自身への戒めから解き放たれた魔王が君臨する。


 「できれば、君が傲慢であるうちに片を付けたかったんだがね」


 大地の言葉は傲慢そのもの、しかし、その意味は単なる事実の裏付けでしかない。


 「本気で来るといい、でなければ死ぬ」


 黒い機体が緑色の燐光を放つ武装を展開する。だらりと垂らした両手には鈎爪、背面には幾重にも重なり合った光の翼。


 「ならば、こちらも人道などとは言っていられんな。支配者として命ずる、我が呼びかけに応えろ、ラウンズ」


 こと切れたように俯き、直後に機敏な動作を取り戻す三体のAA。呼びかける動作は必要な手順ではないが、最低限の配慮のつもりだろう。


 「道理で教育が行き届いていないわけだ」


 支配者のアビリティでアーサーが遠隔で操作するのであれば、個人に対しての教育などそもそも必要ない。最初から、そのための手駒として彼らはそこにいた。


 「火急の措置だ、君を殺すための」


人間を傀儡として扱う事への罪悪感など、微塵も感じさせずにアーサーは言う。


 「では、始めるとしようか。破壊の創造を」


 「そうだな、今だけは純粋にこの戦いを楽しむとしよう」


 静かに流れるように、それでいて圧倒的に速度で両者はぶつかり合う。側面からは、自立思考するミカエルが迫る。パラディンとの戦闘の動作の中で、払う、突く、いなす動作に交え光の刃を周囲にまき散らすルシファー。

完全に自立思考するミカエルとは別に動き回る、アーサーたちを牽制する。周囲からの狙撃、ガウェインによる防御の支援、ランスロットに退路を阻まれ、ミカエルの鍔迫り合いからの薙ぎ払いをあえて、腕の刃で受けることで、後方へと飛ぶ大地の機体。


 「四人分のアーサーとミカエルの相手は、さすがに骨が折れるな」


 個別に撃破する方向に戦闘プランを変更、退路に待ち受けるランスロットが標的に選ばれる。罠ではあるが、正面から突破する以外に道はない。


 「アーマードの『硬化(ハーデン)防御(アーマー)』の効果もかなりのものか、しかし、やり様はある」


 累進加速と同系統のアビリティ、機動力、威力、装甲のパラメータの上限を戦闘継続時間に応じて上昇させる。製作者が引き分けではなく確実な勝敗を決定させるために用意したといわれる三種のアビリティ。

 そして、信仰のシステムを併用した機体は、あらゆるものを防ぐ盾となる。正面へと向き直り眼前に迫るアーマード。階上には狙い澄ますもう一体のアーマード、右手から迫ってくるのはウィザードに護衛されたパラディン。邪魔にならぬように付かず離れずの距離を保ちつつ戦闘をするミカエル。


 「状況は把握した、悪いが死んでもらうぞ」


 すれ違いざまの一瞬。確かに盾は、刃を防いだ。鈎爪の刃を反らし、切断から免れるべく位置をずらし、切るという行為を無効化した。


 「ランスロットが死んだ、だと」


 加速した衝撃、そして、アーマード自身の重さを利用した掌底。ルシファーは、相手が受けるという行為を逆手に取り、内部からのコアユニットの破壊を実行した。力の伝え方の冴えは、達人のそれだ。

 自身へのダメージのフィードバック、操縦不能の通知、マーカーの消失。伝わってくる事実に、アーサーは嘆き、そして、笑う。


 「そうだ、これが戦いだ。この痛みも、苦しみも、イレギュラーでさえも俺を奮い立たせ昂揚させてくれる」


 壁を背にするルシファーは、追い詰められてなどいないとアーサーは理解している。純粋な技量では、大地には勝てない。では、知略でならばどうだろうか。戦士対軍師、この戦いはおそらくそこに集約される。


 「武装の一部を解除、倉庫から武器を転送」


 運動エネルギーの集約、跳躍というよりも飛翔に近い動きで、正面から迫るアーサーを踏み台に、飛び越える。急所を狙う、正確過ぎる射撃はバレルロールで回避する。


 「これで、二人目だ」


 モノノフの刀の武装をその手に、圧倒的な速度の連続攻撃。四肢の関節部分を切断し、コアユニットを破壊せんと納刀し、構えた瞬間に機体が爆発する。


 「俺に、同じ手は通用せんよ」


 アーマードの自爆からの、ウィザードの包囲攻撃。追撃にはパラディンとミカエルが待機する。この程度で死んだとは思えない、しかし、一切の無傷ではないだろう。戦局は読めない、だが、この不可思議な時間が終わって欲しいとは思わないアーサーだった。




 暑い日が続きますね。次回あたりで戦闘の決着が付くと思います。以降は、新世代こと若い連中の話になるかと。アーサーとか親父が地味にカッコイイので主役が誰だか書いていてよくわからなくなりつつあります。

 過去話関連の伏線の回収は、まだ先になりそうですね。ああ、完結への道はまだ遠い。それと、新たにお気に入り登録してくれた方、ありがとうございます。では、しつれい。

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