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仮想故に現実では構造や強度的に不可能な建造物が存在する。たとえば、大きさに対してろくな支柱もなしに存在するこの『大聖堂』のフィールドがそうだ。サグラダ・ファミリアをイメージして造られたというこのフィールドは、自動修復する四方の壁、空まで突き抜けるかのような高さの天井が、常に聞こえてくる讃美歌が特徴だ。
「来たか、プロフェッサー」
光り輝くステンドグラスを背景に純白の軍服を着た男ことアーサーが壇上から見下ろし、静かに言う。
「断れんよ、例え罠だったとしても」
階下から白衣を着た男、新城大地が腕を組みアーサーを見上げる。
「精鋭を揃えたつもりだ、そして、奥の手も」
後ろに並ぶ男達を見やり、大きく両手を広げるアーサー。
「ふむ、正面から戦うなど旧時代的だと思っていたのだが、なるほど、これはこれで悪くない」
「ギルドとして大々的に戦闘することも考えたが、お前の相手をできそうなのはこいつらくらいでな」
「ランスロット、トリスタン、ガウェイン、だったか。ふむ、ちょうどいいハンデか」
「隊長の侮辱は許さんぞ」
「ガウェイン。事実だ、彼我の戦力差を認めろ、そして、勝てばいい」
「それで許さないのならどうだというのだ? それにアーサー自身がこれでいい勝負になると思っているからこそ、この布陣なのだろう?」
「さあな? 勝てるかはわからん、だが、負けるとも思わんよ。それに俺は負ける勝負はしたくないタイプでな」
「ならば、こちらも本気で行くとしよう」
「お得意のルシファーか?」
「さてね? 俺はどんな機体であっても問題ない」
その言葉に誇張はない、どんな機体、どんな状況であっても最高の結果を出し続けてきたからこそのプロフェッサーと呼ばれてきたのだから。ルシファーにしても、得意というよりは気に入っているから使用頻度が高いという程度のものだった。
「それでは開戦と行こうか」
大地の体を構築する情報が、人間のそれから機械のそれへと書き換わっていく。
「「Glory on the Kingdom!」」
男達の声が大聖堂に響き渡る。
【OPEN COMBAT】
「ならば、試そう。お前たちが『黒の旅団』を率いる力があるのかどうかを!」
大地の肉体として顕現したのは以前マクトが使用していたのと同じビショップの機体。対する『王国連』の機体は、アーサーの駆るパラディンと呼ばれる、甲冑を纏った人馬が完全に一体化した騎兵タイプ、剣と楯を構えたランスロットのアーマード、同機に身の丈ほどの大弓を構えるのはトリスタン、そして、蒼いウィザードを駆るガウェイン。
「作戦を開始する、プランは打ち合わせ通りだ。変更は随時指示を出す」
アーサーの低い声がオープン回線越しに響くが、裏でどんなブラフがあるのか興味もないので適当に聞き流す大地。長剣を掲げ、壇上から飛び掛かるアーサー。側面には移動しつつ大弓を放つトリスタン。
牽制の攻撃は、わずかに首をそらすだけでかわし、左右に展開したアーマードには本体からショットアンカーを射出して動きを止める。襟巻のような剣の連なり、そのうちの二振りを両手でつかみ、騎乗からのチャージを両手の剣で受け止める。
「お前との戦闘は、チェスでもしているような気分だよ。アーサー」
「ならば、チェックメイトまで見てもらおうか。彼の殺し方は既に私の頭の中に完成している」
「有名過ぎるというのも考え物だな。ならば、本来の俺の力をお見せしよう」
左右に展開したブレードの一端、ガウェインの大剣を絡めとったブレードへと自身の本体を引き寄せつつ、右側へ移動、階上のテラスから射線が重ねるように誘導、連なった剣のチャクラムを真後ろの位置関係にいるランスロットへと投げつけ、一瞬でビショップを包囲したソードビットを両手の剣で切り刻む。
「馬鹿な、これがプロフェッサーの力だというのか。だが、それでも」
主兵装を一瞬で無力化されて、ガウェインの口から言葉が漏れる。アンカーを剣で引きちぎり打ち合う数合、ビットの残骸を磁界領域のアビリティで敵機もろとも引き寄せて大振りの一撃。
挟み撃ちに、制空権は相変わらずトリスタンに握られている現状に逃げ場はない。
「借り物だが、この力に引けを取るほどでもない」
大型チャクラムを引き寄せる動作で、アーサーの意識を防御に向かわせ、自身は滑るように正面のアーマード側面へ移動、腰から逆袈裟に両断するかのような斬撃を飛び込むように剣に手を突き前転することで回避し後方からの弓による援護射撃は、ガウェインの頭部を破壊するに至る。
「奴は後ろに目がついているのか、それとも、ここまで読んでいたとでも」
被弾して悲鳴を上げるガウェインの首を後ろ足で刈取り、勢いのまま振りぬき壁に叩き付ける。しかし、アーサーに対しては完全に背を向けた形となる。
「チェックメイトではないのだろう、プロフェッサー」
「この程度で殺せる『魔王』ではないよ」
視線でだけは敵を捕らえ続け、ゆったりとした動きで一振りの剣を携えるビショップ。そして、接敵する瞬間に合わせ急激にその機体を加速させる。
「とてつもない加速だな。だが、所詮はシステムによる力。想定の範囲内だ」
静止状態からの瞬間移動が如き超加速、そしてそこからの攻撃も左手のランスで受け流しつつ武装を弾くパラディン。アーサーも同様に制止させた右手の剣を限界まで加速させて抜き放つ。
「素晴らしい攻撃だ。だが、まだ終わらんよ」
チャクラムのワイヤーを引き上げ、僅かに相手の剣戟をずらす。胴を抉るはずだった斬撃は胸部装甲を削り取るに終わる。チャクラムとして集合した剣を分離してそのまま攻撃として一気に引き寄せる。パラディンの背後から迫る数十の剣は、ランスによって弾かれ、トリスタンに撃ち落されていく。
しかし、敵の本体に届かないいくつかの剣が武器として大地の足元に突き刺さり、その手に握られる。ゼロに近い間合いで、司祭は踊る。剣は宙を舞い、音もなく空に消え、何処から現れては、また消える。
「これは『倉庫』による波状攻撃、しかし、そんなバカな」
ランスのみを受けに使っていたのは数合、両手と機動力による回避も組み合わせて防御に回っていてアーサーは自身の未来を予見する。
そして、垣間見る、そこにある確実な死を。
「生憎だが、ここから先にお前の見せ場はない。他人の行動の完全なコピー、それを昇華した複合的な運用こそがプロフェッサーの呼び名の所以だ」
「詰んでいたのは、私だったとでもいうのか」
下段からの切り上げ、中段での薙ぎ払い、上段への蹴り、消える剣、巻き戻すという動作を完全に省略した果てしない連続攻撃。移動しながら武器を回収され、増えていく敵の攻撃回数。
ワイヤーアンカーと剣を組み合わせた投擲技との複合的な攻撃も加わり、アーサーの予測を超えた攻撃がその本体へと届く。
「さよならだ、アーサー。我が友よ」
奇しくも、祭壇の前で振り下ろされる剣はあたかも断頭台のようでもあった。
色々変わってますので、正しく更新が反映されるのか未知数ですね。ちなみにこの戦闘はもう少し続きます。そして、脳内会議だと某ヒロインが死亡することがほぼ決定したという。誰とは言いませんが。