5‐1‐5 Answer
「ここで、俺はまた繰り返すのか」
白い装束の男、アティドが後ろに立つ少女、黒木愛に話しかける。
「いっそ、自分を超えて欲しいですか? 彼に」
睡蓮の花が咲き誇る泉を眺め、肩を抱く白いドレスの少女。
「それはない。奴がそれをできなかったからこそ、俺は今ここにいて、茶番を演じているんだから」
「でも、期待もしているのでしょう? 少なくとも結果が変えられないと思っていないからこそ、貴方は未来を信じているのだから」
瞬間、木の枝の上に腰掛けた彼女が語る。
「未来がどうなるのかは、わからないさ。それが今になり、過去に変わるまで」
「それを貴方が言ってしまうと、本当に茶番になってしまいますね。ですが、貴方にできるのですか、彼を殺すことが?」
どこから取り出したのか、カップを片手に語る黒木愛。
「やるさ、やらなくてはならない。その為に俺は時を重ねてきた」
「それでも、私は中立です。彼と貴方に平等に不平等なのです」
彼女の手から魔法のようにカップが消える。
「答えないことが答え、か。意趣返しみたいだな」
「敵と味方が魅力的だと、どちらも応援したくなるタイプですから。理想としては、少年誌的に和解して協力し合う展開が熱いですね」
訳知り顔でない胸を張って歩く黒木愛、衣装はなぜが黒のスーツに変化している。
「今度は何に影響されたのやら、いや、説明しなくてもいい。その無駄な決めポーズでなんとなくわかった」
「語りたいんですよ、こういうのは。最後まで説明させてください」
「長いだろ」
「そりゃ長編ですから」
「急に呼ばれたと思ったら、そんな要件だとは」
「皆さんが遊んでいるところにARでひそかに参加していたんですが、インパクトがある人が多すぎて、明さんに気づいてもらえなかったんですよね。ロリ体系でスク水なら需要があると思っていたんですが」
ちなみに、プールでは明以外には映らない仕様で登場していたため、実際に彼の視界に入っていた場合、彼が変人扱いされていたことだろう。
「AR越しに一人、人間が増えていたらほとんどホラーだろ、やめてやれ」
話し掛けようものなら、黄色い救急車のお世話になる可能性すらある。ただでさえPTSDや罪の意識から精神に異常をきたす人間が耐えないので、却ってそれが仇となってしまいかねない状況だ。
「そんな訳でアティドさん。どうですか、私の水着姿?」
おそらくその時着ていたであろう、スクール水着で無い胸を張る黒木愛。
「ここで褒めてしまうと、俺がロリコンでスクール水着が大好きな変態になってしまうと思うんだが」
ため息を一つ。肩をすくめながらアティドは、セクシーポーズを取る黒木を眺める。
「そこは、照れながら遠まわしに褒めてくれるとグッドでした」
パチンと指を鳴らすと、彼女の服装が白いドレスに変わる。
「それで、俺を止めないのか」
正面から向き合う二人の間を風がよぎる。
「私が止めて何かが変わるなら、きっとこんなことにはなっていませんから」
何かを悟ったように黒木愛は言う。
「神ではあっても支配者ではない、か」
「単に崇拝される偶像、でしかありませんし。実際のところ、私はバーチャルアイドル程度の存在でしかありません」
「歌って踊れないけどな」
苦笑交じりにアティドが言う。
「失礼な。盆踊りと、校歌くらいなら歌えますよ」
「最早、自虐とも取れる内容だな」
「自虐的なのは、むしろ、貴方の方ではないのですか?」
「かもしれないな。君の愚痴を聞くはずが、こちらが心配されてしまうなんてね」
「でも、本来は重いものなんですよ。人を殺めるという行為は」
「今となっては、あの魔女の考え方もわからないでもないよ。これは、ゲームだと思う方が精神衛生上はよほど正しい。罪も罰も何もかも全て背負いきるなんて、普通の人間の精神じゃ不可能さ」
「それでも、貴方は背負うのでしょう。その十字架を」
「こいつには、どうも縁があるらしくてね。だから、また、繰り返す」
仮想で再現された自身の十字架を握りしめ、確認するように強く言い放つ。
「私には、嘘をつかないでいいんですよ」
アティドの腰に手を回して、背中から語り掛ける。
「ありがとう。だから、俺は行くよ」
「それが貴方の答えなんですね」
電子の海から消えていく背中を見送り、黒木愛はつぶやいた。
重要人物が消えるって、作者的にも緊張を伴うものですね。ちょっとしたロシアンルーレットやっている気分ですよ。
それと、先日6万PV突破しました。読者の皆様には、こんな駄文に長らく付き合っていただきありがたく思います。さて、やっとバトルが書けそうな位には閑話を書いたので、そろそろバトルパートへと移行すると思います。人数も確保しましたしね。
では、失礼します。