5‐1‐2 Answer
5‐1‐2 Answer
ところ変わって季節は夏、明の自宅にて。
「さて、夏季休暇中の活動について検討しようと思う」
テーブル越しに向き合い、微妙に似合わないアロハシャツを着た明が言う。別段、こういった服装が趣味ではなかったが、毎年父親である新城大地が送ってくるので、着用していた。
好きになれない性格ではあったが、仲違いしているわけではないので着用することにも抵抗はなかった。本人が似合わないと薄々自覚はしていても、人の善意とは避けがたいものである。
「休めばいいだろう、休暇なのだし」
『風見鶏』製のコーヒーを飲みながら、鏡が答える。お洒落な感じにしたかったのか、風通しのよさそうな素材のブラウスにブラウンのストールをつけ、クリーム色の帽子を膝の上においている。
「休暇の目的がくつろぐことであるなら、現状、既に私たちは正しく休暇をとっていると思うよ、明」
同じく『風見鶏』製のシフォンケーキをおいしそうに食べつつ、水月が答える。ちなみに彼女は、何種類か持っているジャージを着用、本日は緑色だ。お洒落をする気などさらさらないようだった。
「というか、また本人を置き去りにして会議が設定された上、内容が既に形骸化しているという現状はどうなんだ?」
本日、昼過ぎより開始された会議という名のお茶会は、召集そのものが隠された目的であったために設定されたテーマは、すでに意味をなしていなかった。手段と目的が逆転し、結局それは集まるための口実でしかなかった。
「なんか、真面目に議論するのも阿保らしくなってきたな。どうせこのメンバーでこの季節じゃ海に行くとか、ありえないことだしな」
「海か、なるほど。だが、この時期だとプライベートビーチでもない限り行きたくない場所ではあるな」
「じゃあ、うちの別荘にでもいく? それとも鏡の持っている別荘にする?」
「日常的に、プライベートビーチと別荘のワードを聞くことになるとは思わなかったな。忘れていたがお前ら金持ちだったんだな」
「本当の金持ちは島ごと買うさ。私など半ば勘当された身だ」
「や、その状況でも別荘が普通にあるってかなり異常な気がするが」
「一般家庭で犬小屋を持っていても誰もうらやましがらないだろう? そういう感覚なんだよ、あの連中にとっては」
「すごすぎて逆にわからない感覚だな」
「君だって、似たようなものだろう。貴族で金持ちのぼんぼんだろう?」
「末席を汚している程度だがな。皇族連の奴らとは違うよ」
「まあ、彼らは実働部隊とは種類が違うからね。金銭はおまけで、権利や地位の方を優先する連中だからね」
「平治君もそんな一員になったんだねえ。婚姻したんだし」
先日、めでたく婿養子となった三島平治は、天正院平治にランクアップしていた。何が変わるという訳でもないが、財閥当主になり得る可能性が出てきたのも確かだ。
「逆玉が実現したな」
「披露宴で脚色した話を語るのは、明に譲ろう。親友だしな」
そそくさと目を伏せながら鏡が言う。口元は吹き出しそうに笑っている。
「逃げやがった」
「まあ、鏡や私が変なこと言うと政治的に問題が生じたりするから仕方ないよね」
彼女たちがクラスメートとして出席することは問題ないが、立場や地位、権力に関する話題を出してしまうと面倒なことが発生してしまう可能性があった。実際、そういう場面になった場合には明が出れば波風が立たない。
「まあいい、仮想の方の作業は割と順調、海賊狩りも同僚に適当に引き継いだしクールダウンするためにバカンスに行くというのはどうだろう?」
「強引に修正したな。異論はないが」
「当然、上司のおごりで」
「収入が変わらない、命令には従わないのにこういうときだけ部下のふりをするのは卑怯だと思うんだ」
「まあ、実際に君より金持ちではあるな二人とも。しかし、こういう時に甲斐性を発揮しないと上司の威厳は保てんぞ」
口調こそ冷静だが、表情は笑いをこらえるのに必死な鏡。
「人はそれをたかりという」
「おごられたいの、明?」
おごってもらえそうだが、実際に費用から施設まですべて提供されてしまうとそれはそれで申し訳ないような、危険な香りがするやらで怖い明だった。
「人は、それを殺し文句という」
こうして、休暇中のバカンスが決定した三人だった。
前話を編集にて更新したので、違和感を覚えた人はそちらから読むことを推奨します。