5‐1‐1 Answer
「この機体では、こんなものか」
つぶやいた言葉は、風に消えその姿もまた消えるのであった。
5‐1‐1 Answer
「返答やいかに?」
武器を突き付け包囲するのは機械の兵隊。数十にも及ぶ軍隊が、たった一体のAAを包囲していた。彼らがいる場所は、『摩天楼』のフィールド。ビル群が林立する市街地であるため遮蔽物は多い。
「愚問だな。そして、俺を殺すつもりか?」
包囲された側の人間が返答する。まっすぐに相手の刃を見つめ、堂々と答えるその声には怯えや恐怖は一切ない。
「新城大地、貴方の時代はここで終わる」
アーマードと呼ばれるAAが雄々しく宣言する。部隊を構成するのは、ソルジャータイプが数十と機種が異なるアーマードが指揮官か。
「勝てると思うのか? かつて最強と呼ばれたこの俺に」
雲に覆いつくされた空を見上げ、挑発するように語りかける。
「その言葉、そのままお返しいたします。勝てるつもりなのですか、我々に?」
個人対部隊。数的優位は暴力であり、一番シンプルな戦術でもある。最もシンプルであり王道であるが故に、簡単には覆らない。指揮官と思われる男性の声は、現在の状況に対する自信の裏返しでもある。
「勝たねば死ぬのだろう? ならば、選ぶべき道は一つだろう」
「個の力には限界がある。そして、多少の犠牲を払おうとも、貴方の首にはそれだけの価値がある」
「やれやれ、人気者は辛いな。遊んでやるから、掛かってこい」
「王国連の力を思い知るがいい!」
個対群の戦いが始まる。
しかしそれは、戦いというよりも蹂躙と呼んだ方が正しい。
「射撃はあまり得意でなくてな、こいつだけでやらせてもらおう」
黒を基調とし関節部などを赤くカラーリングしたサムライのような姿の機体、モノノフこと新城大地は『倉庫』から一振りの長刀を引き出す。姿勢を低く、速やかに腰を落とし、目の前の敵へと加速していく。
「この状況で近接武器だと、血迷ったか? 所詮はロートル、攻撃を開始する。奴を近づかせるな」
上空、左右、前後からの射線が自身へと重なり砲撃が開始される直前に、モノノフが姿を消し去る。虚を突いての高速移動は、獲物と狩人の立場を逆転される行動だった。そして、攻撃に際して一瞬のためらいが生まれる。
「取り乱すな、座標は変わらん。そこに向かって、集中砲火だ」
再度の号令までのタイムラグ、正面にいた一体を居合で仕留める。踏み込んだ勢いをそのままに跳躍し屋上にいた一体へ刃を突き立て仕留める。直後に嵐のような射撃が開始されるが、高速で移動で撹乱し次なる獲物へと接敵する。
「射撃の腕はなかなかだ」
ビルの屋上にいた三体目のソルジャーを撃破しつつ、納刀し前面の敵へと降下。中空で、敵正面で壁を蹴りわずかに加速。タイミングを外された射撃は再度空を切り、隊列を組んだ先頭の一体の頭部を踏み台に背後へ回り込み、すれ違いざまに一体、振り向きざまに一体、起き上がる敵を撃破し、三体を即時撃破。
「もう撃ってきていいぞ、後ろにいるスナイパー。前面の敵は制圧した」
視認できる距離にいない敵を視線だけで威嚇する。狙撃手のソルジャーは、射すくめられたかのように身動きが取れなかった。
「化け物め。交戦開始から一分と持たずに六体が撃破されただと」
「正確には大破だ、駆動系を破壊しただけで殺してはいない」
リアクターを破壊する以上に困難な機能停止に六体を瞬時に追い込んだ大地を前に指揮官の男は苦々しい声で判断を下す。そして、取り出された武装が刀だけということ、その意味を理解した。
「近接武器のみで十分、そういう事ですか。もういい、お前たちは下がれ。私が直接相手をする」
包囲を解き、一体だけ種類の違う騎士然としたAAが歩み寄る。全身を大型の鎧で固めたアーマードと呼ばれる近接戦闘特化型の機体。両手剣を手に携えマントをたなびかせながら指揮官と思われる男がモノノフへと向かう。
「なかなかいい判断だ。君の名前は、確かランスロットといったかな? アーサーの奴、部隊の形から入るのはいいが中身が伴っていないな」
腰を落とし、抜刀するべく自然体になる大地。
「我が隊、そして、隊長への侮辱は、我が剣で晴らすとしよう」
「願望を口にしても現実にはならんぞ」
透過迷彩ではない、しかし、一瞬その姿が消え両者は交錯する。
火花が散り、両手剣の先端がビル壁へと突き刺さる。
踏み込む動作から舞うように敵の懐へと入り込み、柄を腹部へねじ込む。相手の勢いを利用して体を入れ、足を払いつつ左腕で頭部をつかみ地面へと押し倒す。
「見事だ、しかし、ここで負けては示しがつかないのでな」
自爆気味に鎧に仕込んだ爆弾を起爆させる。至近距離での自爆、だが、装甲の厚さの異なる二体で同じ攻撃を受ければどちらのダメージが大きくなるのかは明白だった。
「残念だが、はずれだ」
至近距離の決死の一撃すら余裕をもって回避する大地は、悠々と間合いを取り直し、再度刀を鞘に納める。
「冗談のような強さだな。まさか、こうもやすやすと負けることになるとは」
静かな納刀と同時に、強固な鎧が剥がれ崩れ落ちていく。
「この程度の芸当は、アーサーにもできる。命までは奪うつもりはないから、帰ったら教えてもらうといい」
「殺しに来た相手に情けをかけるつもりですか」
「奴が本気なら本人がくるはずだからな。巻き込んで殺すのは本意ではない」
「最初から最後まで完全に遊ばれていたわけですね。わかりました、恥も情けも屈辱も甘んじて受けましょう。全軍帰還する」
リターンプロセスを見送り、大地は仮想の空を見上げる。
「この機体では、こんなものか」
つぶやいた言葉は、風に消えその姿もまた消えるのであった。
再開しました。いや、別に休載していたわけではないですけど。新章突入ですね。