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グラビアデビュー!

雪見は朝から落ち着かない。

なぜなら今日はファッション誌『ヴィーナス』の発売日だから。

いよいよ、健人と二人で初めて撮したグラビアが、日本中の書店に並ぶのだ。

「どうしよう!ちゃんと健人くんとつり合って写ってるかなぁ?」

めめを相手に独り言が多い。にゃーん、と一声鳴いてめめが返事する。

雪見はそれを、大丈夫だよ!と聞こえた事にした。


朝八時。健人から届いたいつものメール「もう少しで着く」を合図に、

雪見はカメラバッグと荷物を持ち、一階まで降りる。

外に出ると、程なくして今野運転の車がマンション前に横付けされた。

「おはようございます!」どんな時でも朝の挨拶は元気よく!

するとつられるように健人と今野も元気よく「おはよう!」と返した。


「ねぇ、今日『ヴィーナス』の発売日だね。」「うん。」

「十時には本屋さんに並ぶのかなぁ。」「そうだね。」

「なんか、猫の写真集を初めて出した時より緊張する!」「そう?」

朝に弱い健人とは、まだまったく会話が弾まない。

今野がその隙を狙って今日一日のスケジュール確認をする。


「まず九時から新しいドラマの顔合わせと本読み、午後一時から場所を

移動してスチール写真撮りと取材、五時からは当麻のラジオ番組にゲスト出演だ。」


「それで終わり?当麻のラジオで今日の仕事は終わりなの?」

健人がいきなり目を輝かせて嬉しそうに今野に聞いた。


「あぁ、今日はな。また遊ぶことばっかり考えてんだろ!しょうがない奴だ。」


「当麻とご飯に行けるかなぁーと思って。あ、でも当麻がラジオの後に

仕事が入ってたらアウトだけど。ゆき姉も一緒に行く?」


「ううん、今日はやめとく。ラッキーが早く懐くように、少しは一緒に

いてやらないと。」

雪見がそう言うと、健人は「そうだ!ラッキーがいたんだ!」と膝を

ポンと叩いたので、雪見はなんだか嫌な予感がした。

「もしかして、今日もうちに来る気してる?」 「えへへっ!」



午前中の新ドラマの顔合わせと本読みは、部外者立ち入り禁止なので

雪見はお昼頃までどこかで時間を潰すことにした。

久しぶりの一人きりの時間。なんだかウキウキする。

断っておくが、決して健人と一緒にいるのが窮屈な訳ではない。

一緒にいると楽しいし嬉しいし、ドキドキもする。

だが十代二十代の頃のように、朝から晩まで一緒にいてベタベタしたい

とは、もう思わなくなっていた。

自分一人の時間も欲しいし、女友達だけで飲みにも行きたい。

そうやって、彼氏との時間と自分だけの時間の両方が欲しくなるのが

三十代の恋なのだろうか。

いつでもどこでも雪見と一緒にいたいと思う、まだ21歳の健人とは、

やはり温度差が出てきてしまうのは致し方ないだろう。


雪見は書店が開くのを待っていた。

開店と同時に店内に駆け込み、雑誌コーナーで本日発売の札が付いた

たくさんの雑誌の中から『ヴィーナス』を探し出す。

「あった!」思わず声に出してしまい、首をすくめた。

まだ誰も買ってない本の山から中ほどの一冊を引き抜き、パラパラと

めくりたくなる衝動を抑え、レジへと足早に向かう。

それを持って、その通りにあった大好きなドーナツショップに入り、

いつものカフェオレとオールドファッションを受け取って席に着く。


まずはドキドキを沈めるためにカフェオレを一口。

コーヒーの香ばしい香りは、いつだってざわついた心を静めてくれる。

よし!と心を決めて、今の自分には無縁だった二十代のファッション誌

『ヴィーナス』を、一ページずつ注意深くめくった。

すると、予想に反して何枚目かで、いきなり大写しの健人と雪見が目に

飛び込んできた!

「うそぉ!こんなに?」見開きになったページの右側に雪見、左側に

健人がポーズを決めて立っているではないか。

まさかこんな大写しで掲載されるとは夢にも思わなかったので、驚きと

同時にこんなポーズ取ってたっけ?と恥ずかしさに襲われて、パタンと

一度本を閉じた。またカフェオレを一口、心を静める。


今度は少し冷静な目でそれを眺めることができた。

六ページにも及ぶ、特別グラビアと冠された健人と雪見のページは

ファッション誌らしく、とてもスタイリッシュに構成されている。

あの時、無我夢中で撮されていた時には完成図は想像つかなかったが、

改めて落ち着いて見てみると、雪見はスタイリスト牧田とヘアメイク

進藤、カメラマン阿部によって、はるかに実年齢より若々しく見えた。

「うん!これなら健人くんと結構つり合ってるんじゃないの?」

またしても言ってしまった大きな独り言に、今度は隣のテーブルの親子が

チラッとこっちを見た。恥ずかしくて顔が赤らむのがわかった。


と、その時ケータイのメールが着信する。誰かと思ったら当麻だった。


     ゆき姉おはよう!

     『ヴィーナス』見たよ!

     めちゃめちゃ二人とも

     お洒落でかっこよくて、

     うらやましくなるような

     グラビアでした。

     きっとね、ゆき姉ファン

     がこの後増えると思う。

     俺も益々ファンになりま

     した。大好きです!


        by TOUMA



ドキッとした。なに?最後の「大好きです!」って…。

どういうつもりでこんなメールを送信してきたのか、理解に苦しんだ。

ファンとして?親友の彼女として?本当の姉のような存在として?

あれこれ思いあぐねているうちに、あちらこちらからメールの嵐に!

真由子に香織、実家の母に健人の妹つぐみからもお祝いメールが届く。

つぐみに至っては、「こんな綺麗で可愛い人が私の義姉だったらなぁ。

お兄ちゃんと早くゴールインしちゃえば?」とか書いてある。

なに言ってんだろ、つぐみちゃん!と恥ずかしくなった。

返信になんて書こうか随分と悩んだ。

で、結局「ばーか!でも、ありがとう!しっかり者で可愛い妹よ。」

とだけ返事する。


当麻には、なんて返せばいいのだろう。

きっと当麻も雪見の返事を待っている。ケータイを握り締めたまま…。


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