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仕掛けられた罠

「健人くん、待って!」 

一番先を歩く健人を、雪見が大声で呼び止める。

その後ろのスタッフたちも何事か!と一斉に振り返った。


「大変よ!到着ロビーは報道陣が詰めかけてるって!私たちの動画が

インターネットに流出したらしいの!」

集まった八人に雪見は、周りの人に聞こえないように伝えた。


「えっ!」 全員が言葉を失う。

だがすぐさま今野が情報収集のため、あちこちに電話を掛け始めた。

「わかりました。そうします。」

そう言って最後の電話を切り、外部からの指示をみんなに伝えた。


「吉川さんがすでに車を三台回してくれたそうだ。一言も口を開かずに

急いで外に出ろ!健人と当麻、雪見さんは一台ずつ分かれて車に乗れ。

あとのメンバーは二人ずつ健人達をガードして車に乗り、別々のコース

を通って編集部集合だ!よろしく頼みます!」

全員黙ってうなずいた。


「じゃ、俺から出るよ!」

健人はぐいっと帽子のつばを引き下げ、サングラスをかけ直す。

健人の前後を今野とカメラマンの阿部が、がっちりとガードした。

続いて当麻を、マネージャーの豊田と編集部の藤原が、

雪見の周りをスタイリストの牧田とヘアメイクの進藤が囲む。

九人はそのまま足早に、到着ロビーへと出て行った。


想像以上の人と報道陣の多さ、たかれるフラッシュの数に一瞬雪見の

足がすくんで止まった。が、すぐに進藤が腕を引っ張り、当麻たちの

後ろに付いて人混みをかき分けた。


歩く速度に合わせて両側から、何本ものマイクが差し出される。

「斎藤さん!竹富島の休日はいかがでしたか?三人でのんびりされました?親戚である浅香さんとの交際は本当ですか?」

「三ツ橋さん!浅香さんを巡っての三角関係と報じられてますが、事実

ですか?答えて下さい!」

「浅香さーん!斎藤さんと三ツ橋さん、年が一回り以上違いますが、

お付き合いしてて年の差を感じる事ってありますかぁ?」


どの質問も、すでに交際中を前提にした質問であった。

健人たちは言われた通り、一切を無視して無言のまま外に出て、三台の

車に分かれ、やっとの思いで乗り込んだ。

バタン!とスモークガラスの入ったドアが閉められ、すーっと車は動き出す。


「ふぅぅっ。」雪見が深く息を吐き出した。膝は心なしか震えている。

「大丈夫?」雪見の両脇に座る進藤と牧田が、心配そうに声を掛けた。

「うん、大丈夫。」本当はちっとも大丈夫ではなかったが、二人に

これ以上迷惑は掛けたくなかったので、少しだけ微笑んでそう言った。


健人も当麻も、それぞれの車内で事の重大さを感じていた。

楽しい旅行から戻り、明日からまた仕事を頑張るぞと意気込んだのも

つかの間、一転して大変な問題に直面してしまった健人たち。

皆がそれぞれの思いを巡らし考え込んで、車内は無言のまま編集部の

あるビル前に到着する。


最初に着いたのは当麻が乗った車であった。

外に報道陣がいないことを確かめ、素早く車を降りてビル内に駆け込む

当麻とマネージャー、それと藤原。

あとの二台も程なく到着し、全員が『ヴィーナス』編集部の会議室に

集合する。

すでに待ちかまえていた吉川の表情は硬い。

重苦しい空気の中、健人が真っ先に吉川に頭を下げた。


「申し訳ありませんでしたっ!僕らがうかつでした。写真集の仕事を

してるんだと言う意識があったから、あまり周りを気にしなかった。」

健人の言葉を当麻が引き継ぐ。

「せっかく吉川さんに頂いた仕事だったのに、こんな事になってしまい

本当に申し訳ありません!責任はすべて僕らにあります。」

当麻も深々と頭を下げた。

雪見も詫びを入れようと立ち上がった時、残りの人達がパタパタと全員

立ち上がる。

そして口々に、私にも責任があります!いや僕にも責任が!俺がもっと

しっかりガードしておけば…などと、皆が自分の責任を主張した。


「いい!もうわかった!今回は全員の不注意という事にしておこう。

今は、責任の在りかをはっきりさせるために集まっているのではない!

済んでしまったことは仕方ないんだ!重要なのは、この先事態はどう

進んでいくか、どのように対処すべきか見極める事だ。まぁ、座れ。」


吉川は運ばれてきたお茶を一口、ずずっとすする。

それからいつも通り冷静に手元のノートパソコンを開き、問題となった

動画を再生してみんなで食い入るように見た。

吉川によると、何者かが竹富島に健人たち三人がいる事をツィッターで

流し、動画を投稿してくれるよう依頼したと言うのだ。

パソコン上に健人達三人の姿が映し出される。

場面は三つあるのだが、どれも三人が楽しそうにじゃれ合い笑ってる、

正真正銘本人たちの動画であった。


「だけど、これって別におかしな場面じゃないよね。いつもの三人って

こんな感じでしょ?こんなの、私たちならしょっちゅう見てるもん。」

牧田が想像してたものとは全く違ったらしい。

進藤に至っては「なーんだ!心配して損した!」と拍子抜けした様子。

健人たち三人も一様にホッと胸をなで下ろした。


「まて!まだ安心するのは早すぎる。問題はこのあとの画像だ!」


再びみんなで頭を突き合わせ、パソコンを覗く。

するとそこに、お揃いのTシャツを着て布団の上に寝ころぶ三人の姿が

いきなり飛び込んできた。


「な、なによ、これっ!民宿の部屋の中じゃない!」雪見が絶叫する。


「部屋にカメラが仕掛けられてる!誰がこんな事を…。」

そう言いながら健人の頭には、民宿のおじさんの顔が描かれた。

当麻も一瞬同じ人が頭に浮かんだが、すぐに自分を否定する。

「いや、あのおじさんはそんなことが出来る人じゃない!

これはきっと、誰かが仕掛けた罠だっ!」


健人も雪見も、出来ることならそう思いたかった。

だが、他に一体誰がそんな物を仕掛けられるだろう…。


「ねぇ!この画像をよく見て!カメラの周りに写ってるのって、何かの

お花じゃない?赤い南国系の。この中にカメラが仕掛けられてる!」

食い入るように見ていた牧田が言った。


「そう言えば、部屋の棚の上にお花が飾ってあった!普段おじさんは

お花なんて飾ってるの見たことなかったから、あれっ?って思ったのを

思い出した!そこから辿ると何かがわかるかも知れない!」

雪見は直ぐさま竹富島の民宿に電話をした。


「あ、おじさん?雪見です。お世話になりました!あのね、ちょっと

聞きたい事があって電話したんだけど…。」



受話器の向こう側から聞こえた返事は、ある事実を伝えていた。


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