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三角関係?

「おじいちゃん、違うの!私が勝手に泣いただけ!

みんなは私のこと慰めてくれてたのに、そんなに怒らないでよ!」


みずきが津山の誤解をみんなに詫びた。


「みんな、ごめんね!おじいちゃんの勘違いだから!

何にも悪いことしてないのに怒鳴られるって、ないよね。

でも、おじいちゃんにも悪気は無かったと思うから許してあげてね。

私のこととなると、とにかく熱くなっちゃう人だから…。」


「いやぁー、すまんすまん!どうも年寄りはこれだからいかんなぁ。

まぁ許しておくれ。お詫びにこれをご馳走しよう。」


そう言って差し出したのは、最高級シャンパンのドンペリであった。

五つのグラスに注がれたシャンパンからは、綺麗な気泡が上がり

酒好きな健人たち三人のテンションまでも上げてくれる。


「じゃ、若き三人の役者達と、一人の才能あるお嬢さんの未来に乾杯!」


津山の乾杯の音頭で、思いもしなかった祝宴が始まった。



今日この店に来た時に、こんな展開になるとは誰が想像しただろう。

目の前に、雲の上の人だと思っていた天才役者がいる。

たとえここで見かけたとしても、店のルールに従い

決して自分達から声を掛けるなんてことはしなかった。

ここでは、見て見ぬ振りが鉄則だから。

なのに今、ここで、このメンバーでお酒を酌み交わしていることが

夢の中の出来事なんじゃないかと、健人たちは思っていた。


しかし緊張し過ぎて、せっかくの高級シャンパンの味もわからない。

津山やみずきの話し声さえも、遠くに聞こえる気がした。


「ちょっと、三人!いつまで緊張してれば気が済むの?

せっかく美味しいお酒を飲んでいるのに、それじゃ味がわからなくて

もったいないでしょ!もっと、この出会いを楽しんでよ!」


「みずきぃ!それは無理だって!」 当麻が情けない声を出した。


「どうやら酒が足りないようだな。みずき、三人に注いでやりなさい。」


さっきカラオケに移動するまでは、三人ともいい感じに酔っていた。

だが今は、いくら飲んでも酔える気がしない。

そう思って注がれるままに飲んでいたら、結構酔いが回ってきた。

みずきも津山も、すっかり上機嫌である。



「雪見さん、でしたっけ?

あなたはさっき、歌手ではなくてフリーカメラマンだと言っていたが、

どんな写真を撮ってるんだい?」


「主に野良猫の写真です。日本中を旅して猫の写真を撮ってます!

今は、健人くんの写真集の専属カメラマンなので、

この仕事が終わるまでは、猫を撮す旅はお預けなんですけど…。

でも、いずれは戻るつもりです。

私、このお店に来るようになってから、益々猫が好きになって…。

猫が私に元気をくれて、猫によって生かされてるんだな、って!」


「そのようですな。さっきまでのあなたとは別人のようだ。

猫の話をしている顔が、今までで一番輝いてるよ。」


雪見は照れくさかった。自分でも、それがよくわかったから…。

照れ隠しにいいことを思いついた。


「あ!もし良かったら、これを受け取って頂けますか?

私が撮した猫の写真集なんですけど…。」


そう言って、鞄の中からコタとプリンの写真集の小型サイズ版を二冊取り出し、

みずきと津山に一冊ずつ手渡した。

二人とも大の猫好きとあって、一枚ずつ嬉しそうにページをめくる。

すると最後のページを見たみずきが、「あっ!健人くん!」と驚いた。


「そう!この二匹は健人くんちの飼い猫なんです。可愛いでしょ?」


猫の話ですっかり雪見は、みずきと津山に打ち解けた。


「私、ひとつ大きな夢を持ってるんです!

一生懸命お仕事してお金を貯めて、南の島の小さな無人島を買って、

そこに猫の島を造るのが夢なんです。

保健所に収容されて殺処分を待つだけの猫たちを、

みーんな引き取ってそこに放してやりたい。

で、私はそこで猫のお世話をしながら幸せに暮らす、

島のお母さんになりたいの!」


キラキラと夢見る少女のように話をする雪見を、

みずきと津山は、なんて可愛い人なんだろう、と微笑みながら見ていた。



「いいねぇー、雪見さんの夢!なんだかこの店の始まりと似てない?

ここのオーナーも、雪見さんと同じような夢を持って、この店を開いたんだから!

まぁ、無人島って発想は無かっただろうけどねっ。」


そうみずきが笑って話す。隣で津山もニコニコと話を聞いていた。



「きみは本当に猫が好きなんだね。

それにきみの歌も写真も、とても心を引き付けられるよ。

そして何より魅力的だ!

どうだね、わしの事務所に入らないか?

みずきの後輩として、きみの才能をもっと引き出してみたい!」


突然の津山の誘いに、話を聞いていた当麻と健人も驚いた。


「あの、ダメです!彼女は今朝、うちの事務所と契約して、

俺たちの後輩になったばっかりなんだから!」


当麻が慌てて津山の提案を阻止しようとする。


その慌てっぷりに、みずきは何かを感じ取った。

『この三人って、もしかして三角関係?

でも、雪見さんと健人くんから、そんな空気は漂って来ないけど…。』


みずきは、この三人の関係に俄然興味が湧いてきて、

お酒の勢いもあり、少し意地悪く探りを入れてみることにした。


「ねぇねぇ!健人くんと雪見さんって、いつから付き合ってるの?

遠い親戚だって言ってたっけ?一回りも年上の彼女ってどんな感じ?」


しらふの時なら不躾で聞けない質問も、お酒に酔ってることにすれば

ストレートに聞くことができる。

そして、健人と雪見のやり取りを見る当麻に、みずきは注目していた。


「一回り年上って、今まで意識したことないなぁー。

そりゃ子供の頃の十二歳年上は、とんでもなくお姉さんだなぁと思ったけど、

お互いが大人になっちゃうと、別にそんなに意識はしない。

ゆき姉はどう?俺のこと、十二歳も年下だって意識してる?」


「うーん、全く意識しないわけじゃないけど、十二歳差とは思ってないかな?

健人くんって、高校生の時にこの世界に入って

やっぱりそれなりに苦労してきてるから、同年代に比べると全然大人!

私の方が教えられることもたくさんあるし、結構頼れる彼氏です!」


「へーっ!俺のこと、そんな風に思っててくれたの?めちゃめちゃ嬉しい!

やっぱりゆき姉、だ〜い好きっ!」


そう言いながら酔った健人は、雪見のほっぺたにチュッとキスをした。


「やだぁ、健人くん!みんなの見てる前で!」

はしゃぐ二人のやり取りを、笑顔の消えた当麻が見つめていた。


『ふーん、そういうことね。この三人の関係は…。』

みずきが納得したかのようにうなずいた。




すっかり出来上がった健人の、雪見への愛情表現は可愛らしくて

みずきと津山の目には微笑ましく映ったが、

当の当麻には、何もかもが心を傷つける、真っ赤な薔薇の棘でしかなかった…。


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