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女友達

「きみ!ちょっと話をしてもいいかな?」


そそくさと退散しようとしていた三人の背中に、いきなり聞き覚えのある声がして、

びっくりした三人は足が止まった。

ほぼ同時に振り向き、同時に驚きの声を上げる。


「あっ!津山泰三!」


「あ、ごめんなさい!失礼しました!

あまりにもびっくりしてしまって。本当にごめんなさい!」


雪見がペコペコと何度も頭を下げて無礼を詫びた。

健人と当麻は、まだ共演などしたこともなかったが、

偉大なる大先輩を目の前にして、直立不動で緊張しまくっていた。


「何も、君たちを驚かせるために声をかけた訳じゃないよ。

そんなにかしこまられたら、こっちの方が困るじゃないか。

いや、素晴らしい歌に、一言お礼が言いたくなってね。

君はどこの事務所の歌手なんだい?名前を聞かせてくれないか。」


健人と当麻には目もくれず、雪見の目を優しく見つめて聞いてきた。


「あの、ごめんなさい!私、歌手なんかじゃないんです。

ただのフリーカメラマンで…。」 申し訳なさそうに小さく答える。


「歌い手さんじゃないのかい!そんなに上手いのに!

わしゃ、てっきり有名な歌手なのかと思って聴いてたよ!

若い人の歌はさっぱり聴かないから、わしだけ知らないのかと思った。

どうだい?歌手としてデビューしたいなら、わしがどこでも紹介してやるんだが。

こんなとこだけで歌ってるのは、もったいないよ。」


健人と当麻は、びっくりして顔を見合わせる。


その時、後ろから「ダメよ!おじいちゃん!」と声がした。

振り向いた健人と当麻が、二人揃って大声を上げる。


「華浦みずきぃ?」


それは先ほどバーカウンターで、津山とワインを飲んでいた若い女性だったのだが、

薄暗い照明の下で、チラッと横目で見ただけでは誰なのか

まったく解らなかった。



華浦みずき、22歳。

今、女子がもっとも憧れる超人気実力派女優。

アカデミー賞新人女優賞を取ってから、活躍の場を世界にも拡げた

今や国際派女優の一人である。

健人と当麻とは、二人がまだ新人だった頃に学園ドラマで共演して以来の、

気が合う数少ない女優でもあった。



「久しぶりだね、健人くんに当麻くん!

あんた達、相変わらず仲良さそうにつるんでるんだね〜!元気だった?」


賞を取ってからみずきは、海外と日本を行ったり来たりの生活で、

しばらくぶりに会った三人である。


「びっくりしたよ!こんなとこで会うなんて。

そっちこそ、忙しそうだけど元気じゃん!いつも当麻と密かに応援してるよ。

今は向こうにいる方が長いんだろ?なのにこっちでも超人気なんだから、

凄い役者になったよなぁ、みずきも。」


健人が感心しながら、大女優に成長した友達を眩しげに見つめた。


「けど、さっき健人くん達がお店に入って来たときは、

私だって気がつかなかったでしょ?私はすぐにわかったのに。

ねぇ!この歌の上手い人、健人くんの彼女でしょ?私にも紹介して!」


みずきが雪見に向かってにっこりと微笑んだその時、

津山が横から口を挟んできた。


「おい、みずき!お前こそ、わしにこの若者達を紹介せんか!

孫が世話になったなら、一言礼ぐらい言わんとな。」


健人と当麻は、またしても緊張で身体がこわばり、顔も引きつっていた。


「やだぁ、二人とも!何そんなに緊張しちゃってんの!

おじいちゃん、この二人は斎藤健人くんと三ッ橋当麻くん。

二人とも、今日本で一番人気の若手俳優さんなのよ!」


「どっちが一番で、どっちが二番なんじゃ?まぁ冗談だが。

わしと一緒に仕事をしたことはあったかな?」


「いや、まだまだご一緒できるほどの実力はありません。

早く一人前になれるよう、これからも努力します!」


直立不動のまま健人が答えた。当麻は隣で黙ってうなずくだけである。


「よし!楽しみにしてるぞ、共演できる日をな。

それより君たち!こちらのお嬢さんをわしらにも紹介してくれんか?

まぁ、こんな所で立ち話もなんだから、この先にあるわし専用の場所に行って、

話の続きをしようじゃないか。

みずき。三人を案内してあげなさい。酒の準備もしといてくれ。

わしはオーナー室に顔を出してから行くから。」


雪見が白い子猫を抱いたままなのに気が付き、津山が笑顔で言った。


「お嬢さん、その猫ちゃんも一緒にどうぞ。

なんだったら、連れて帰ってもかまわんのだが。」


え?もしかして、この人がここのオーナー?




健人たち三人は、みずきの後ろをついて次のトンネルをくぐり、

またその先のトンネルもくぐって、やっと津山専用だと言う

超豪華なVIPルームにたどり着いた。


「スッゲー!なにこの部屋!こんなとこがあったなんて知らなかった。

もしかして、みずきのじいちゃんって、この店のオーナーなの?」


雪見も思ってた疑問を、当麻が質問してくれた。


「あははっ!違う違う!でもさっきの言い方ならそう思っちゃうよね。

お店をオープンした時に、いくらかは出資したらしいけど、オーナーは別の人。

おじいちゃんの同期で、昔からの大親友なの。

そう、健人くんと当麻くんみたいな関係かな?

私にとっては第二のおじいちゃん!

小さい頃から、本当の孫みたいに可愛がってもらってた。

私がアカデミー賞を取った時なんて、うちのおじいちゃんよりも先に

お祝いの電話をくれたんだから。


でもね。今は病気で入院中なんだ。

で、私とおじいちゃんに、見舞いはいいから出来るだけこの店に

いてやって欲しい、って。

お店の事が心配で猫の事が心配で、お見舞いに行った時もそんなことばかり言ってる。

私はこんな生活だから毎日は来れないけど、日本にいる時は

なるべくここにいるようにしてるんだ。

おじいちゃんはほぼ毎日来てるかな。すでに自分ちになってるみたい。」


そう言ってみずきは、少し悲しげに微笑んだ。

きっと口には出さないが、あまり容体は良くないのかも知れない。

健人と当麻もそう感じたらしく、二人はみずきを慰めた。


「きっと良くなるって!

俺たちだって、この店があるから仕事頑張れるんだよなっ!」


「ほんと、こんな凄い店を作ってくれてありがとう!って、お礼が言いたいくらい。

大丈夫だよ。そんなにお店の事が気掛かりなら、

どんなことをしても

病気を克服して帰って来るって!」



みずきは、容体が心配なのと二人の思いやりが嬉しいのとで

一気に感情が溢れ出て、ポロポロと大粒の涙を流して泣いていた。


健人と当麻はおろおろとするばかり。

雪見がそっと背中をさすりながら、「きっと大丈夫と信じよう!」

と小さく耳元でささやいた。



そこへ部屋に津山が入ってきて、みずきの涙を見てびっくり!

みんながみずきを泣かしたと思って勘違いして

三人はいきなり津山に怒られたのだった。


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