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愛される不安

グラビア撮影は、最後に衣装チェンジしてもうワンシーン行われた。


「はい!じゃあまた、一番最初に撮したのと同じ立ち位置でお願いします。

今度は笑顔で!」


カメラマン阿部の指示で、健人と私はセットの中へと再び入る。




最後の衣装は、実際にお互いが仕事場へ着ていく服に近いものが用意された。


健人は、黒の細身なパンツに黒のエンジニアブーツ。

上は白のロングTシャツに、黒とグレーの大きなチェックのサテン地のジレ。

首には生成色のストールを緩く巻いてる。


一方私は、明るいモスグリーンのカーゴパンツに、ベージュ色のワークブーツ。

上は、グリーンと茶のチェックのボタンダウンシャツを、腕まくりして着てる。

髪はいつも撮影に出かける時と同じ、高い位置で無造作にまとめたアップスタイルに。


「ほんとこんな感じです、いつもの仕事着。

スタイリストさんって凄いですね。少しの情報から、その人にぴったりの服を選んでくれる。

ヘアメイクさんだって、一瞬でその人に合うメイクや髪形を決めちゃうんだから。

まったく私には無理な職業。進藤さんと牧田さんを尊敬します。」


ヘアメイク室の鏡の前で、アップにした髪から手際よく自然なおくれ毛を作る進藤に話しかけた。


「雪見さんだって凄いじゃないの。野良猫を追って、一人であっちこっち撮影に行くんでしょ?

友達となら行けるかもしれないけど、一人でなんて無理!

私こそ雪見さんを尊敬しちゃう。」


「とんでもない!私なんて、独り身だから勝手気ままに行動できるだけで…。

進藤さんも牧田さんも、お子さんがいての仕事でしょ?

時間も不規則そうだし、家庭との両立って大変じゃないですか?」


「うーん、大変と言えば大変かもしれないけど…。

でも、そもそも『大変』って基準は、人それぞれの価値観から来てると思うのね。

その人が今まで体験してきたことを基準にして、その人の感じる大変さ加減が決まると言うか…。


私、下積み時代にもっと大変な思い、いっぱいしてきたから。

今は可愛い子供がいて大好きなダンナがいて、そのうえ好きな仕事が出来てる。

たとえ時間のやり繰りとかが大変だったとしても、私の中ではちっとも大変な部類に入らない。


だから『大変な思いをする』って、すっごく大事だと思うんだ。

今日以上の大変さを明日体験すると、今日の大変は、もう大変じゃなくなる。

人生その積み重ねで、人は強くたくましくなって行くんだなぁって。」


「素敵なお話。やっぱり、母は強し!ですね。

私も早く、たくましいお母さんになりたいなぁー。」


「雪見さん、33歳だっけ?子供を産むにはちょうどいい年頃ね。

人生経験がしっかりあると、多少のことには動じない母になれるよ。

誰か相手はいないの?お父さんになってくれる人。」


進藤は、わざと意地悪な質問をしてみた。



実はこのプロジェクトメンバー四人は、すでに吉川から聞かされてた。

健人と雪見は恋人同士であるということを。


不測の事態にも対応するため、プロジェクトの人選もそこを考慮して行われた。

『ヴィーナス』編集部には多くの二十代女性が働いていて、世間と同じく健人の人気は抜群。

多くの立候補があったが、あえて二十代は外し、全員三十代以上の既婚者で揃えた。

その方が何かと二人にアドバイスもできるだろう、という判断で。


当の本人たちは、二人の関係を知ってるのは吉川だけと思い込んでる。

もちろん今野だって知らない、と。



「えーっ!結婚相手ですか?いませんよ、そんな人。

もしいたら、いつまでも放浪の旅はしてませんって(笑)。」


「雪見さんだったら、男の人がほっとかないでしょ?

こんなに可愛い人が彼女だったら、毎日一緒に居たいと絶対思うよ。

でもそんな彼氏がいたら、健人くんが焼きもち妬いちゃうかなぁ?」


ドキッとした。

なんて答えようか、迷った。


「うーん、どうだろ?

健人くんはあんなに人気者だし、彼女だってきっと選り取りみどりでしょ?

私なんて、年の離れたお姉ちゃんみたいなもんだもの。

焼きもちなんて妬きませんって。」



声に出して言って、自分で『あぁ、そうだよね。』と思う。


健人は、選り取りみどりの中から、なぜ私を選んだのだろう…。

今まで浮かれていて、そんなこと深くは考えてもみなかった。



健人くんの彼女は、本当に私でいいの?


もっと私なんかよりふさわしい人が、この世にはいくらでもいるんじゃないの?


私と一緒にいて、健人くんは幸せになれるの?




頭の片隅に出かかってる答えを、今は無視しなければならない。

まだ撮影は続いてるのだから…。


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