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心の樹海

「はい、じゃあ次は『イケメン俳優 vs 美人カメラマン』みたいな感じでお願いします!」


カメラマン阿部の注文に、すかさず二人が反応する。


「えーっ!まさか本当に、そんな恥ずかしいタイトル付くんじゃないですよねぇ?」


私が叫ぶと阿部はスタジオ後方を指差し、「それは編集長に言って。」と笑った。


「俺も恥ずかしいっすよ。親戚中の笑い者になっちゃう。」


「ちょっとぉ!誰が笑い者よ。」


撮影中続く二人の仲良いやり取りを、みんなが微笑ましく笑って見てた。




「ねぇ。うちの母さん、なんて言うかな?

健人くんのおばさんやつぐみちゃんも、グラビア見てビックリだよね。」


「俺は早く見せてやりたいな。

きっと、お似合いだよって言ってくれると思う。」


健人の発言にびっくりした。


「お似合いって、まさか、おばさんに話しちゃったの?」


「話してないよ。でも、前から気づいてると思うけど。」


「うそ。そうなの?しばらく顔を合わせられないや…。」


私はさっきメイク室で思い悩んでた事を思い出し、少し気がふさいだ。

お互いの親が、二人の関係をどう思うのか。

それこそ、一番考えたくない事項であった。



「はい、あと少しだから頑張ってー!

二人とも正面向いて、対抗心むき出し!って顔して。」


阿部の声に我に返り、とにかく今は何も考えず仕事に集中しよう、と思い直した。


「じゃあ今度は、雪見さんがカメラを構えて健人くんを撮してくれる?

いつもやってんのと同じように、自由に動いていいからね。」


「あ、はい!」




雪見が構えるカメラに対して健人は、阿部に見せる表情とはまったく違う顔をする。

撮影の様子を見ていた誰もが、目の前にいる健人は瓜二つの別人ではないか、と思うほどだった。


雪見にしても同じである。

水を得た魚のように実に生き生きと、愛に溢れる瞳で被写体をのぞく。

柔らかに包み込むように。両手を広げて抱きしめるように。


二人のお互いを想う気持ちが、撮影風景を通して伝わってきた。


「あの二人、うまくいくといいね。」


誰からともなく、そんな声が漏れてくる。


「ほんとだね。でも私たちがしっかりとガードしてやらなくちゃ。

これが掲載されてからが、本当の正念場だよ。」


「気を引き締めていこうね。」


プロジェクトのメンバー達が、お互いのミッションを確認し合う。

みんなが二人の幸せを祈ってた。





「はい、終了!お疲れさまでしたぁ!」


阿部の宣言に拍手がおこり、スタジオ後方から吉川、北村両編集長が花束を手にやってきた。


「いやぁ素晴らしかったよ!先にお礼を言っておかなくては。

次の『ヴィーナス』は二人のお陰で大反響間違いなしだ!」


吉川が上機嫌で健人に花束を手渡し、肩をポンと叩いた。

その隣で北村が「おい、早く俺を紹介しろ!」と吉川を急かす。


「おっと、そうだった。『シャロン』編集長の北村君だ。」


「初めまして。北村と言います。

撮影見せてもらいました。とても良かったですよ。」


雪見に薔薇の花束を差し出しながら、にこやかに褒め称えた。


「あ!私、毎月『シャロン』買ってます!

グラビアの背景がいつも凝っていて綺麗で、凄く楽しみにしてるんです。」


「それは嬉しい!あなたみたいな人が、うちの読者だなんて。

しかも、こだわりをちゃんと見てくれるなんて、さすがカメラマンさんは目の付け所が違う!」


北村がたいそう喜んでる。

そして雪見と健人に、『シャロン』にも二人で出てくれないかと聞いてきた。

もちろん、健人の写真集の告知も約束して。


「僕はかまわないですけど…仕事の話はマネージャーにお願いできますか?」


健人が北村に、微笑みながらそう告げる。


「あぁ、失敬!気が急いてしまった。でも是非うちにも出ていただきたい。

特に雪見さん!あなたには、うちの専属モデルになって欲しいくらいだ。

どうでしょう。考えていただけませんか?」


「モデルなんて無理ですよ(笑)。

それに私、健人くんの写真集が終わったら、また猫カメラマンに戻りますから。」



また言ってる…と健人は寂しくなった。


楽しかった撮影から一転。

雪見のいない一人きりの現場を思うだけで気持ちがふさいだ。


どうしたら、ずっと一緒にいられるのだろうか…。





「仕事の依頼は事務所を通すとして、お近づきのしるしに、このあと食事でもどうですか?」


北村が、どうしても縁を紡ぎたくてそう提案したが、私はキッパリと断った。


「せっかくのお誘いですが、ごめんなさい!

このあと、大事な人との約束が入ってるんです。

今日は本当にありがとうございました。また来月も宜しくお願いします。」


そう言って視線を健人に移したが、健人はうつろに下を向いたまま。

私の視線など、気付きもしなかった。



なぜ、そんな寂しげな横顔をしてるの?

なぜ私の声が耳に届かないの?

健人くんの心が読めない…。



自分の心さえも読めなくて、霧の中を手探りしてる。

二人の心は、奥深い樹海の入り口に立ち尽くしたままだった。


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