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温泉神の試練 〜八十八か国を巡る魔物退治と混浴の旅〜  作者: サンサンマツリ
第四章【結】決戦への旅立ちと、温泉神の真意、永遠の選択

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第五十一話 新たな世界での誓いと永遠の絆


 夜が更けていく。社の鐘が遠くで鳴り続けている。

 規則正しく、時を刻むように。


 俺は拳を握りしめたまま、夜空を見上げていた。

 星が瞬いている。


(元の世界に帰る……)

(それとも……)


 足音が近づいてきた。

 振り向くと、スヴィーナが立っていた。

 月明かりに照らされて、銀髪が淡く光っている。


「眠れないの?」

 彼女が小さく微笑んだ。


「スヴィーナ……」


「私も眠れなくて」

 彼女が俺の隣に座った。温もりが伝わってくる。


 沈黙が落ちた。風が吹き抜ける。木々がざわめいた。


「マックス」

 スヴィーナが静かに言った。

「どんな答えでも……私は受け入れる」


「スヴィーナ……」


「あなたが元の世界に帰りたいなら、それでいい」

 彼女の声が震えている。

「あなたの幸せが、私の幸せだから」


 俺は何も言えなかった。喉が詰まる。


「でもね」

 スヴィーナが続けた。

「一つだけ……聞いてもいい?」


「……ああ」


「あなたは今……幸せ?」


 その問いに、俺は息を呑んだ。


 幸せか……?


 元の世界で、俺は仲間を失った。守れなかった。

 あの時の絶望を、今でも忘れられない。


 でも今は……。

 スヴィーナがいる。パティがいる。クラリスがいる。


 俺は、もう一人じゃない。


「俺は……」

 言葉が出てこない。


 スヴィーナが俺の手を握った。

「無理に答えなくていい」

 彼女が微笑んだ。涙が頬を伝っている。

「ただ……あなたの心に従ってほしい」


 風が強くなった。

 勾玉が胸元で、静かに光り始めた。


 ◇


 朝が来た。

 俺は温泉神の社の前に立っていた。


 スヴィーナ、パティ、クラリスが後ろにいる。


 温泉神が静かに現れた。


「答えは出たか」

 低い声が響いた。


 俺は深く息を吸った。


「ああ」

 拳を握りしめる。

「俺は……」


 スヴィーナが息を呑む音が聞こえた。


「この世界に残ります」


 温泉神が静止した。


「元の世界で、俺は仲間を失った」

 俺は続けた。

「守れなかった。弱かった。だから強くなりたかった」


 勾玉が熱を帯び始めた。


「でも今、俺には新しい仲間がいる」


 振り返ると、スヴィーナが涙を流していた。

 パティが笑顔で頷いている。

 クラリスが静かに微笑んでいる。


「お前たちと共に生きたい」


「マックス!」

 スヴィーナが駆け寄って、俺に抱きついた。

「ありがとう……ありがとう……」


 彼女の肩が震えている。


 パティが跳ねるように走ってきた。

「やった! やったよ!」


 クラリスが歩み寄った。

「あなたの選択を……誇りに思います」


 温泉神が静かに言った。

「よくぞ決断した、マックス」


 光が溢れ始めた。社全体が輝いている。


「お前は真に強くなった」


「温泉神……」


「弱さを認め、仲間を信じる心を得た。それが真の強さだ」


 勾玉が俺の胸元で激しく光った。


「この勾玉に、私の力を完全に宿す」


 光が勾玉に集まっていく。眩しくて目を細めた。


「これでお前は次代の温泉神だ」


「え……」


「この世界の温泉を守り、人々を導け」


 温泉神の姿が薄れ始めた。


「待ってくれ!」

 俺は叫んだ。

「俺はまだ……神なんかじゃない!」


「神とは何か」

 温泉神が微笑んだ。

「人々を想い、世界を愛する心があれば、それで十分だ」


 光が眩しくなった。


「ありがとう……マックス」


「温泉神!」


「お前に出会えて……よかった」


 温泉神の姿が完全に消えた。

 光だけが残り、やがてそれも消えていく。


 静寂が落ちた。

 俺は勾玉を握りしめた。温かい。脈打つように光が灯っている。


「ありがとうございました……」

 俺は呟いた。


 その瞬間、世界が震えた。

 地面が揺れる。いや、違う。これは……。


「マックス、見て!」

 パティが空を指差した。


 光の柱が八十八本、世界中に立ち上っていた。

 八十八か国すべての温泉が、一斉に輝いている。


「すごい……」

 スヴィーナが息を呑んだ。


 光が空に昇り、やがて一つに集まった。

 虹色の光が世界を包み込む。温かい。


 風が吹いた。花の香りがする。

 遠くから歓声が聞こえてきた。人々が喜んでいる。


「マックス様!」


 聞き覚えのある声がした。

 振り向くと、ディアナが駆けてきた。


「ディアナ……どうしてここに?」


「皆さんが心配で、王宮を出て追いかけてきたのです。社へ向かう道中で旅人からお話を聞き、ここまで来ました」

 ディアナが微笑んだ。

「間に合ってよかったです。マックス様、おめでとうございます」


 彼女が深く頭を下げた。

「新たな温泉神様」


「俺は神じゃない」

 俺は首を振った。

「ただの旅人だ」


「でも」

 ディアナが顔を上げた。

「あなたは世界を救ってくださった」


「俺一人の力じゃない」

 俺はスヴィーナたちを見た。

「みんながいたから、ここまで来られた」


 スヴィーナが頬を赤らめた。

 パティが照れくさそうに笑っている。

 クラリスが静かに微笑んでいる。


「さあ」

 俺は言った。

「温泉に入ろう」


「え?」

 スヴィーナが目を丸くした。

「今から?」


「ああ」

 俺は笑った。

「この旅は、温泉から始まった。だから温泉で終わりたい」


 ◇


 社の裏手にある温泉に、五人で浸かった。


 湯気が立ち上る。硫黄の香りが鼻をくすぐる。


「気持ちいいにゃ……」

 スヴィーナが目を細めた。


「ほんと、最高!」

 パティが伸びをした。


「ふふ、久しぶりですね」

 クラリスが微笑んだ。


「マックス様」

 ディアナが言った。

「これからどうなさるのですか?」


「どうするって……」

 俺は湯に手を浸した。

「この世界を守る。温泉を守る」


「一人で?」


「いや」

 俺はスヴィーナたちを見た。

「みんなと一緒に」


「当たり前じゃない」

 スヴィーナが笑った。

「私たち、ずっと一緒だよ」


「あたしも!」

 パティが手を挙げた。


「私もご一緒させていただきます」

 クラリスが頷いた。


「ありがとう……」


 俺は空を見上げた。

 雲一つない青空が広がっている。


 風が吹いた。木々がざわめく。鳥のさえずりが聞こえる。


(元の世界には、もう帰らない)


 俺は仲間たちを見た。みんな笑っている。


(俺には、新しい世界がある)

(新しい仲間がいる)


 勾玉が胸元で静かに光った。温かい光だ。


「マックス」

 スヴィーナが俺の手を握った。

「これからもずっと一緒だよ」


「ああ」

 俺は彼女の手を握り返した。

「ずっと一緒だ」

挿絵(By みてみん)

 湯気が立ち上る。温泉の湯が、静かに揺れていた。


 俺たちの旅は終わった。

 でも、新しい物語が始まる。


 この世界で。仲間と共に。


 俺は温泉神の後継者として、この世界を守り続ける。

 それが俺の選んだ道だ。


 風が吹いた。花の香りが漂ってくる。


 俺は目を閉じた。

 温泉の温もりが、体を包み込む。


 幸せだ。

 心からそう思えた。

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