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温泉神の試練 〜八十八か国を巡る魔物退治と混浴の旅〜  作者: サンサンマツリ
第四章【結】決戦への旅立ちと、温泉神の真意、永遠の選択

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第四十話 クラリスの予感と最後の国への道


 洞窟の外では、氷雪国の民たちが集まっていた。温泉が復活したことを知り、歓声を上げている。


「本当に……温泉が戻った!」


「ありがとうございます、旅の方々!」


 口々に感謝の言葉が飛んでくる。俺は照れくさくて、頭を掻いた。


「いや、俺たちは……」


「マックス、素直に受け取ってあげるにゃ」

 スヴィーナが俺の腕を引いた。猫耳を揺らして、にっこり微笑む。

「みんな、本当に喜んでるんだから」


「そうだよ! あたしたち、すごいことしたんだから!」

 パティが尻尾を振って、俺の背中を叩いた。


(……そうだな)

 俺は頷いた。素直に、受け取ろう。この感謝を。


 でも、クラリスだけが。

 少し離れた場所で、北の空を見上げたままだった。

 金髪が風に揺れる。その横顔には、複雑な感情が浮かんでいる。


(クラリス……?)

 声をかけようとしたが、民たちに囲まれて近づけなかった。


 ◇


 氷雪国を出て、九日が経った。街道沿いの宿場町に到着したのは、夕刻のことだった。


 町の入口で、俺たちの姿を見た町人たちがざわめき始める。


「あれは……!」


「温泉を解放する、伝説の旅人だ!」


「本当に来てくれたのか!」


 あっという間に人だかりができた。俺は驚いて、剣の柄に手を伸ばしかける。


「落ち着いてください。俺たちは……」


「ようこそ! 我が町へ!」

 町長らしき初老の男が前に出た。白い髭を蓄え、温厚そうな顔で俺たちに頭を下げる。


「噂は聞いております。八十八か国の温泉を解放する、勇者たちだと」


「勇者だなんて……」

 俺は首を振った。

「俺たちは、ただ……」


「謙遜なさらず。どうか、我が町の宿と食事を受け取ってください。無償で」


「無償?」

 パティが目を丸くした。

「本当にいいの?」


「ええ。あなた方がしてくださったことを思えば、これくらい当然です」

 町長が微笑んだ。


 俺は戸惑って、スヴィーナを見る。彼女は猫耳を立てて、小さく頷いた。

「受け取ってあげるのも、優しさにゃ」


「……分かった」

 俺は町長に頭を下げた。

「ありがとうございます。ありがたく、受け取らせていただきます」


 町人たちから、歓声が上がった。


 俺たちは宿に案内され、温かい出迎えを受ける。部屋は広く、清潔で、窓からは夕焼けが見えた。


「すごいにゃ! こんな立派な部屋、初めてにゃ!」

 スヴィーナがベッドに飛び込んだ。猫耳を揺らして、嬉しそうに笑う。


「あたしも! ふかふかだ!」

 パティも続いた。犬耳と尻尾を振って、はしゃいでいる。


 でも、クラリスだけが。

 窓際に立って、外を見つめたままだった。

 その横顔は、どこか遠くを見ている。まるで、ここにいないような。そんな表情だった。


 ◇


 夕食後、俺たちは宿の温泉に入った。湯気が立ち上る中、スヴィーナとパティが旅の思い出を語り合っている。


「あの時の魔物、すっごく強かったよね!」


「でも、マックスが倒してくれたにゃ」


「うん! マックスはすごいんだから!」


 二人の笑い声が、湯の中に響く。


 俺は湯に浸かりながら、仲間たちを見渡した。

 スヴィーナの銀髪が湯気に濡れて、肌に張り付いている。パティの犬耳が湯の熱で赤くなっていた。


 そして、クラリスは……。

 湯の表面を、指先でなぞっている。緑の瞳が、どこか虚ろだった。


「……クラリス?」

 俺が声をかけると、彼女は顔を上げた。


「はい?」


「大丈夫か? なんだか、ぼんやりしてるけど」


「ああ……すみません。少し、考え事をしていました」

 クラリスが微笑んだ。でも、その笑顔は。いつもより、少し寂しげに見えた。


「残りの温泉も」

 俺は湯の中で拳を握った。

「みんなで解放しよう。絶対に」


「うん!」

 パティが頷いた。

「あたしたち、ずっと一緒だもんね!」


「そうにゃ! みんなで最後まで!」

 スヴィーナも笑った。


 でも、クラリスは。

 視線を逸らして、湯の表面を見つめたまま。何も、言わなかった。


 ◇


 深夜。物音で目が覚めた。

 部屋を見回すと、クラリスの寝床が空だった。


(どこに……?)


 俺は服を着て、宿の外に出る。

 月明かりの中、屋上に人影が見えた。金髪が風に揺れている。

 クラリスだ。


 俺は宿に戻り、屋上へと向かった。


 彼女は北の空を見上げていた。温泉神の社がある方角。


「クラリス」

 俺が声をかけると、彼女は振り返った。

挿絵(By みてみん)


 月光に照らされた横顔が、どこか儚げに見える。


「マックス……起こしてしまいましたか」


「いや。それより、どうした? こんな夜中に」


「少し……眠れなくて」

 クラリスが再び北の空を見上げた。星が、無数に瞬いている。


「もうすぐ、すべてが明らかになる」


「え?」


「あなたはもうすぐ、本当の試練に直面します」

 クラリスが静かに言った。その声は、いつもより低く。重く。まるで、何かを覚悟しているような。


「どういう意味だ?」

 俺は一歩、前に出た。

「本当の試練って……」


「いずれ、話します」

 クラリスが俺を見た。緑の瞳に、星明かりが映っている。


「でも、今はまだ……」


「クラリス、お前……」


「大丈夫です。心配しないでください」

 彼女が微笑んだ。でも、その笑顔は。悲しみを、隠しているように見えた。


 俺は拳を握った。何か、言わなければ。でも、言葉が出てこない。ただ、クラリスの横顔を見つめることしかできなかった。


 夜風が吹いて、彼女の金髪を揺らす。


 夜の静寂の中、俺の胸に。

 不安が、広がっていった。

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