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37.生誕祭開催当日



「ちょっとアナタ! 一刻も早くあの娘を追い出してちょうだい! あの娘はライラックには不釣り合いよ。あの娘はダメだわ、アタクシ達王家の中に入れてはいけない女なのよっ!」


 ルマーサの金切り声を、隣の玉座に座るセンダンは顔をしかめながら聞いていたが、大きく溜め息を吐いた。


「はぁ……またその話か。あの娘はよくやっているじゃないか。ワシ達の言うことにハイハイ頷いて逆らわない。『首振り令嬢』とはよく言ったものだ。ライラックと結婚したあとも色々やらせて便利に扱えばいいだろ」

「そういう問題じゃないのよ! あの娘は危険なの! 何かとんでもないことをしでかしそうな――」

「フン、そんなの気にし過ぎだ。あんな小娘一人に何ができるというのだ。もうこの話はやめだ。ワシの生誕祭には、あの娘もワシ達と一緒に同行する。ライラックの婚約者としてな」

「ちょっとアナタ……!」


 面倒になったセンダンはルマーサの言葉に耳を貸さず、さっさと王の間から出ていってしまった。


「――フンッ、何よ! 本当使えない男ね! 早くあの女を追い出さないといけないのに! ライラックまでその気になったら大変だわ。アタクシの可愛い息子とあの女との結婚は絶対に許さないわよ」


 ルマーサは人差し指の爪をガシガシと噛みながら思案し――やがてひとつの結論に辿り着いた。


「……そうよ。追い出すのがダメなら、〝始末〟してしまえばいいのよ。不慮の事故に見せかければいいわ。その役目は……あの子にしましょ。アタクシの言うことなら何でも聞く、とても素直で良い子だから……ウフフッ」



 ルマーサはニヤリとほくそ笑むと、いそいそと王の間を出ていったのだった――




✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼




 ユグドール国王生誕祭、当日。


「アーベリア様、とてもよくお似合いです!」


 サラサ、ナナカ、リラの三人は、支度の終わったアーベリアに元気良く声をかけた。


「ふふっ。今回もありがとうございます、サラサさん、ナナカさん、リラさん。あなた方がいてくださって、本当に良かったですわ」

「そ、そんな……。勿体ないお言葉です」


 三人が顔を赤くして照れているのを見て、アーベリアはクスリと微笑む。

 今回のドレスもカロリナが贈ってくれたものだ。

 白をベースに、アーベリアの瞳の色と同じ翠がアクセントとして散りばめられた、美しいデザインのドレスだ。


「でも……本当に良かったんですか? せっかくの綺麗なドレスなのに……」


 眉尻を下げて尋ねてくるナナカに、アーベリアは安心させるように頷いた。


「えぇ、いいのですよ」

「そろそろ時間だ」

 

 イグニスはアーベリアの護衛として参加するので、彼も正装をしていた。

 眼鏡は、彼の服装にあったレンズの薄いスクエア型のものを装着している。

 彼の切れ長で神秘的な銀の瞳と、凛々しい顔つきによく似合った眼鏡になっていた。


「わかりましたわ。さぁ、それでは参りましょうか。〝決戦〟の場へ」

「あぁ」


 アーベリアとイグニスは頷き合うと、サラサ達に見送られながら王の間に向かったのだった――




✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼




 生誕祭は二日に分けて行われ、初日は王族がフロートに乗って城下町を巡り、その後王族は城のバルコニーに移動し、集まった国民へ王が挨拶を行う。

 二日目は王国の貴族が集い、王城でダンスなどの催し物が開催される構成となっていた。


 フロートには王族しか乗れないので、イグニスはその後ろを騎士達と共に馬で付いていく。

 ライラックとはあれから何度か部屋に誘われたが、アーベリアは言葉巧みに庭でのお茶会に誘導した。

 彼は、アーベリアが今も自分の虜になっていると思っているのだろう。

 彼女のすぐ隣で集まった民衆に手を振るライラックをチラリと見、イグニスは小さく息をついて視線を外した。



 城下町巡りが終わり、王族は城のバルコニーへと移動する。

 その日だけは城の中庭が解放され、国民はそこに集まり静かに王の言葉を待っていた。


 一昨年の生誕祭で、生活に合わない納税額の高さに怒りを感じていた民衆の何人かが、バルコニーにいる王達に直接抗議をし、即座に騎士達に斬られるという事件が起きた。

 死傷者が出たその出来事以降、国民は黙って王の長い演説に耳を傾けるしかなかった。


 周りの異様な沈黙に眉をひそめながら、イグニスはバルコニーに目を移す。

 バルコニーは王族と護衛騎士しか入れないので、彼は民衆から少し離れた場所で待機をしていた。

 その銀色の眼差しは、手すりの向こう側に現れた王達を捉える。


「アーベリア、もう少し僕の方へ来ておくれ。ここからだと民衆の姿がよく見えるよ」

「はい、わかりましたわ」


 ライラックの手招きにアーベリアはにこやかに頷くと、彼の方へと足を向ける。


「ここに立ってごらん。ほら、よく見えるだろう?」

「えぇ、とても高いですわね」

「そうだね、ここから落ちたらひとたまりもないね。あっという間に昇天だ」


 言いながら、ライラックはアーベリアの背後に近寄る。


「……ごめんね、アーベリア。母上の命令なんだ。でも君なら赦してくれるよね?」

「え?」


 アーベリアが振り向こうとした瞬間、トンッと両手で自分の背中を押される。

 アーベリアの身体がグラリと手すりに傾き、寄りかかった刹那――その手すり部分がバキッと音を立てて壊れた。



 支えを失くしたアーベリアの身体は、バルコニーから真っ直ぐ地面に向かって落ちていったのだった――




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