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16.王妃の思惑



「まぁ。それでは、あなたがわたくしのパートナーになってくださるのですね」

「あぁ。調べたら、パートナーは『異性』という以外は特に決まりはないらしい。だから家族でも問題ないそうだ」

「そうなのですね。わたくしとしては嬉しいのですけれど……。あなた、ダンスは得意ではなかったですわよね?」

「…………」


 アーベリアの指摘に、イグニスは口を閉ざす。

 自室で紅茶を嗜んでいたアーベリアは、そんな彼にクスリと微笑んだ。


「大丈夫ですわ。踊らなければいいだけの話ですし。あなたはわたくしの隣にいてくださるだけで十分ですわ」


 優しく笑うアーベリアに、イグニスは頭を下げる。


「すまない……。本ばかり読み耽り、ダンスの練習を逃げていた過去の己を思いきり殴りたい気分だ」

「悔いる必要はまったくありませんわ。あなたが読書家だったおかげで、王国一や二を争う魔法の実力者になったのではないですか。それは誇っていいものですわ」

「……そう言ってくれるとありがたい」


 アーベリアの温かな言葉に、イグニスはふっと表情を和らげる。


「国の魔法士試験を受ければ、あなたの実力ならすぐにこの国の頂点に立つ魔法士になれますのに……。やはり意思は変わらないのですか?」

「あぁ。俺のこの力は、家族と公爵領民のためだけに使いたい」

「魔法士は国所属になりますので、王家の言うことに逆らえなくなりますものね」

「それは心底御免こうむりたい。――あぁ、父上から連絡があってな、パーティーには父上と母上が出席するそうだ。兄上は用事で来られないらしい」


 それを聞き、アーベリアの眉尻がわかりやすく下がった。


「そうなのですね……。ラハンお兄様にもお会いしたかったのに残念ですわ」

「神出鬼没な兄上のことだ、いつでも会える。それと、俺達がパーティーに着る礼服は母上が用意してくれるそうだ。それくらいは甘えてほしいと」

「まぁ……。実は、パーティーのドレスをどうしようか頭を悩ませていたところだったのです。お母様には本当に感謝の気持ちで一杯ですわ」


 嬉しそうに微笑むアーベリアとは対照的に、イグニスは小さく息を吐いた。


「本来は婚約者である王太子がドレスを贈る役目なんだが。あの伯爵令嬢をどうにかしないと、婚約者の座を取られてしまうぞ」

「……えぇ」

「どうする? 諦めるか?」


 イグニスの質問に、アーベリアは凛として答えた。


「いいえ、わたくしは諦めませんわ。諦めるわけにはいきませんもの」

「……そう返してくると思った」



 〝諦め〟という文字がまったく見えない翠色の瞳を見つめ、イグニスは微かに唇の端を持ち上げたのだった。




✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼




「どう? あの娘のダンスは」


 王妃の部屋に呼び出されたダンスの講師は、ドレスの下で足を組んでソファに座るルマーサに恭しく礼をし、口を開いた。


「はい。ジューンメリー様は見事なまでの上達ぶりを見せております。元々才能があったのでしょうね。明日の仕上げで、パーティー当日のダンスは王太子殿下の魅力をますます引き出してくれることでしょう」

「フン。高いお金を出して、王国一のダンスの講師と言われているアナタを雇ったのよ。それくらいしてもらわないと困るわ。明日、その成果をワタクシに見せてちょうだいよ」


 ルマーサの要望に、ダンスの講師は深く頭を下げる。


「大変申し訳ございません。集中力はダンスを早く上達させる手段のひとつですので、レッスンをしている間は見学者を入れないのが私の信条なのです。ご理解いただけますと幸いです」

「まったく……最後のレッスンでもダメなのね。まぁいいわ。一週間でそこまでやってくれたんだし、ちゃんと講習料は払うわよ。感謝しなさい」

「王妃陛下の御慈悲に感謝申し上げます。――そんな慈悲深い我らが王妃陛下に、ひとつ情報を差し上げてもよろしいでしょうか」


 ダンスの講師の言葉に、ルマーサの眉尻がピクリと動く。


「情報? 何よそれ。くだらないものだったら講習料の支払いはナシにするわよ」

「麗しき王妃陛下のお役に立てる情報かと」

「ふぅん……。じゃあ言ってみなさいよ」


 ルマーサに促され、ダンスの講師は微笑むと再び深々と(こうべ)を垂れた。


「それでは申し上げます。アーベリア様のパートナーは、彼女の弟のイグニス・バセロルトが務めるそうです。そして彼は、ダンスが大の苦手とのことです。それはもう酷い有様だと。醜態を晒さないために、パーティー当日、二人は踊らない可能性が高いかと思われます」

「……へぇ」


 講師の情報に、ルマーサの顔にニヤリと嫌な笑みが浮かんだ。


「それは本当の話かしら?」

「誠でございます。王妃陛下に嘘は決して申しません」

「フン、まぁまぁね。講習料を少しだけ上乗せしてあげるわ」

「重ね重ね、慈愛深き王妃陛下に心から感謝申し上げます」


 講師は口の端を大きく持ち上げると、優美に腰を曲げ敬礼をする。

 ルマーサは扇で口元を隠し、唇を三日月形に歪めて笑った。



「ウフフフッ。パーティー当日が楽しみね」




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