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12.新たな波乱



 侍女長ミモザが捕まり、彼女が盗んでいた侍女達の装飾品は、すべて持ち主のもとへ返された。

 アーベリアに理不尽な要求をしていた重鎮達は、今回の事件を受け(しぼ)んだように大人しくなり、彼女を見た途端目を逸らして離れていくようになった。



 こうして、平穏な日々が訪れた――



 ――と思った矢先、また新たな問題が生まれようとしていたのだった……。




✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼




「先日の事件は災難だったね。犯人が見つかって良かった。僕は君が無罪だと最初から信じていたよ」

「ありがとうございます、殿下。そのお言葉、とても嬉しいですわ」


(何もせず王妃の言いなりになって傍観を決めていた男の言う台詞ではないな)


 ライラックとアーベリアの会話に、少し離れた場所で待機していたイグニスは心の中で横槍を入れる。


 本日は一週間に一度の、庭園で行われる二人のお茶会だ。

 しかしミモザの件があり、ある程度収束するまでお茶会は中止となってしまい、今回二人が会うのは二週間ぶりのことだった。


 紅茶を嗜みながらライラックとアーベリアが談笑していると、向こうからこちらに駆けてくる影が見えた。

 イグニスが即座に反応し、アーベリアの前へ守るように立ち塞がる。


 段々と近付いてくる影の正体は、(あんず)色のプリンセスドレスを着た小柄な女性だった。

 ライラックの護衛はその女性に対し何も反応を見せなかったので、イグニスは敵ではないと判断し、握っていた剣の柄から手を離す。


「ライラックさまぁっ」


 肩まである桃色のふわふわした髪を揺らし、同じ色の瞳を輝かせながら、女性は笑顔でライラックの名を呼び――


 駆けてきた勢いのまま、ライラックに抱きついた。


「おっと」


 ライラックは笑いながら、さも当たり前のように女性を受け止める。

 アーベリアとイグニスは、抱き合う二人の姿に、(しば)しの間身体が硬直してしまった。


「ライラックさま、捜したんですよっ。あたし、ライラックさまに会いたくて仕方なかったんですからっ」

「あぁ、ごめんよ。今日は僕の婚約者のバセロルト公爵令嬢とお茶会があってね。君が今日来るとは聞いてなかったから」

「婚約者? お茶会?」


 そこでようやく、女性はアーベリアの存在に気が付いたようだった。 


「あっ、ごめんなさい! あたし、ライラックさましか見えてなくてっ」


 慌てたように女性はライラックから身体を離すと、勢いよくペコリと頭を下げる。

 そして女性はすぐにライラックに顔を向け話しかけようとしたので、アーベリアはそっと唇を開いた。


「殿下、この御令嬢はどなたでしょうか?」


 アーベリアが微笑みを保ったままライラックに尋ねると、彼も笑みを浮かべたまま説明をはじめた。


「ごめん、君とはなかなか会えなかったから紹介が遅くなったね。彼女はジューンメリー。リアンジュ伯爵家の令嬢だよ。母上が伯爵に泣きつかれてね、彼女は週三回ほど登城して、城の先生から教養を学んでるんだ」

「そうなのですね。――初めまして、ジューンメリー様。わたくしはアーベリア・バセロルトと申します」


 ジューンメリーがライラックの腕に自分の腕を絡ませたまま動かないので、アーベリアは立ち上がり、流れるようにカーテシーをした。


(本来は下位の貴族から先に挨拶をすべきところを……この娘、礼儀がなってないな)


 イグニスが微かに眉根をひそめ、きょとんとしているジューンメリーを見る。

 彼女はハッと気付いたように、再びペコリと頭を下げた。


「アーベリアさま、こんにちは! ジューンメリー・リアンジュですっ」


 そして顔を上げ、アーベリアに向かってニコリと笑う。

 その笑顔は、男にとってはとても可愛らしく、愛らしく映るだろう。


(この娘、愛嬌だけでここまできたんだろう。リアンジュ伯爵が王妃に頭を下げて頼み込んだのも無理はない)


「そうだ。ジューンメリーも同席いいかい? 彼女はまだ城に慣れていないし、色々と教えてやってくれないか? 彼女と仲良くしてやってほしいんだ」

「殿下のお願いならば断る理由がありませんわ」


 アーベリアが口元に笑みを湛えながら頷く。


「ありがとう。ジューンメリー、座っていいよ」

「はぁいっ」


 ジューンメリーは元気良く二つ返事をすると、すぐにライラックの隣の椅子に座った。


「ねぇねぇライラックさまぁっ、聞いてほしいことがあるのっ」

「うん、なんだい?」


 それから彼女はアーベリアに見向きもせず、ずっとライラックの方を向いて彼と楽しく喋っていた。

 あたかもアーベリアの存在など初めからなかったかのように。


 ライラックも、それを咎めもせずジューンメリーとばかり話していて。

 アーベリアは、彼らが二人だけの世界に入っても美しい微笑みを絶やさず、静かに紅茶を嗜んでいる。



 周りにいる護衛達や侍女達は、そんな三人を内心ハラハラしながら見守っていたのだった……。




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