誰かと話をしたい~春子と他の訪問者達の場合~
春子、55歳の女性。祖母から譲り受けたマンションで独り暮らしをしている。
日々、マンションの管理費や税金、日常でかかる生活費を稼ぐために毎日働きに出ている。
春子の家族は夫と成人した子供達だ。
夫とは別居、子供達は一人立ちをして忙しくしていてめったに訪ねて来ない。
春子の住むマンションは一階にあり、ベランダが小さな庭と繋がっている。庭は雪が降り積もり辺りがうっすら真っ白に埋め尽くされている。
本日の春子の仕事は休みで、ゆったりした時間を過ごしていた。玄関から外靴を持ってきて何気にベランダから庭に足を踏み入れると、そこは今までいた場所とは違う異空間になっていた。
春子は驚き、辺りを見回したが、そこは全体の色合いが白地にピンクと黄色が入り込んだ空間だった。
木や湖もあったが、それら物体すべてにピンクと黄色があった。
例えるなら、白地の紙に木々や湖を黒のマーカーで描き、それに蛍光ペンのピンクと黄色で雑に塗りまくったイメージだ。寒くはなく暖かい気温だ。でもすごく暑いわけではない。
「ここはどこ…?」
春子は思わず呟いた。
しばらく歩いていくと、自分の手の平より少しこえる程のクリーム色の毛むくじゃらの生き物が沢山の10円玉位の大きさの星形のかけらを籠に入れていた。
「あら…?何してるの??」
春子はしゃがんで毛むくじゃらの生き物に声をかけた。
「ユッチー!」
毛むくじゃらの生き物はそう答えた。
何を言っているかわからないけれど、何だか会話してるみたい。春子は嬉しくなった。
「時々誰かと話をしたいなぁ…」
春子は思わずそう呟いた。
春子の仕事はホテルのベッドメイク。客室清掃員だ。午前10時~午後2時までのパートタイム。4時間なので昼休憩を挟まない。それはそれでさっさと終わって良いのだが、その分、人とあまり話さない。人間関係の煩わしさはあまり無いので楽だ。しかし、それはそれで寂しくなったりもするのだ。
すると、毛むくじゃらの生き物が、
「ユチ!」と、春子に星形のかけらを1つ渡してきた。
「あら、くれるの?ありがとう」
春子はそう答えた。(星形のかけらは触り心地はふにゃふにゃしていて不思議な感じで面白かった。)
その途端、星形のかけらは光りだし、まばゆい光をはなった。
春子は元の自分の庭に戻ってきた。
それからというもの、春子が庭に出ると夏子と秋菜と冬美という同じ位の年頃の女性達が通りかかり話しかけてくれるようになった。
春子は彼女らから、このマンションに住む近所の人だと聞いた。
春子はもう寂しくはない。
しかし、数年経つと、彼女達はひとり、またひとりといなくなってしまった。
理由は、皆、別の場所へ行かなくてはならなくなった、今までありがとうと言う理由だった。春子は引っ越しと解釈していた。
実はその訪問者達は皆成仏していない幽霊達だったのだ。
この夏子、秋菜、冬美はこのマンションで孤独死で亡くなった幽霊達だ。
彼女らもそれぞれ、亡くなった後、不思議な異空間に迷い込み、先ほどの毛むくじゃらの生き物に出会う。そして星形のかけらをそれぞれもらっており、願い事が叶うと教えられると、皆誰かと沢山話をして充分に満足してから成仏したいと願ったのだった。
彼女らは無事に成仏した。願いが叶ったのだ。
しかし、春子の願い事は叶わなくなった。また1人になったのだ。
春子はいつものように庭に出た。季節は秋。
彼女は仕事が休みだったので庭の草刈りをのんびりしていた。
すると、
ガサガサッ
いつかの異空間で出会った毛むくじゃらの生き物が春子の庭にいた。
「あら、あなた!」
春子はひとりじゃなくなった。
毛むくじゃらの小さな生き物はユチオと言う名前のようだった。
ユチオは、春子の寿命まで春子の側にいた。




