その6
彼女は頷き
「わかりました」
と二人を応接室へと連れて行き幾つかの質問に答えた。
一颯は彼女を見て
「それで先程エレベータで言いかけたのは?」
と小声で聞いた。
瞬間にピーが羽ばたくと百合子の頭の上に乗った。
彼女は「ひゃ」と声を上げると慌てて手を上にあげた。
一颯は困ったように
「日頃は大人しいのに」
ったく
「ピー」
と顎を動かした。
ピーは一颯の頭に乗ると
「ダイジー」
と喋った。
百合子はドキドキしながら
「良くしゃべるインコですね」
と困ったように笑いつつ
「実は…今日…終業後に勝野課長に頼まれたことがあって」
少し不安で
と言い
「本当はUSBを社外に持ちだすことは禁止されているんですけどUSBを配達するように言われて」
と告げた。
一颯は「なるほど」と言い、取材を交えた話を録音し会社を後にした。
一颯は車に戻って近くの駐車場に移動すると友晴を見た。
「俺は百合子が会社を出たら後を追うが、お前はここに残って他の特許課の社員を掴まえて話を聞いてくれ」
友晴は「…かしこまりました」と答えた。
一颯は彼の言葉の間に
「展開が上手すぎるだろ?」
俺の性分でこういう上手く行きすぎる話しには裏があると思っちまうんだよな
「ピーを連れてきて正解だったぜ」
とニヤリと笑った。
友晴は少し悩みつつも
「…そうなのですね」
私はここで聞き込みを
と答えた。
一颯は百合子が他の写真に混じって帰宅するのに後を付けた。
友晴は車から出ると会社の門の方で待機し、他の特許課の社員を掴まえると話を聞いた。
百合子はUSBを持って三清精密機器の近くの駅から列車に乗り、名古屋駅で降りるとホテルの下のレストランに入った。
一颯も少し離れた場所に座り相手を待った。
5分ほどすると体格の良いスーツを着たサラリーマン風の男性が現れ彼女の前に座った。
一颯はその二人の様子を写真に撮り唇の動きを見た。
読唇術である。
彼女は言っていた通りにUSBを渡し隠れるように去って行ったのである。
話の内容は彼女の言っていた通りにUSBの受け渡しのようであった。
『まさか本当に来られるとは』
『課長の命令ですので』
『勝野課長も中々』
そう言う会話であった。
一颯は百合子が立ち去ると
「ピー」
と告げて、ピーが飛んでいくのを確認すると男性に声をかけた。
「すみません、実は先ほどの話を聞いていたのですが」
言って名古屋Nowtimeの名刺を見せた。
「お名前をお聞きしても?」
それに男性は名刺を出して
「NSB精器の山野と言います」
と言い
「誤解のないように言っておきますが」
突然向こうから電話があったのでこちらから持ちかけた訳では
と告げた。
一颯は頷き
「それは勝野課長…男性の方でした?」
と聞いた。
山野作蔵は息を吐き出し
「ああ、確かに三清精密機器の勝野と名乗ってました」
男性でしたね
と告げた。
「USBの中を精査して100万の価値があれば支払うということで今日データを貰ったんですよ」
一颯は「なるほど」と答えた。
つまり、彼女の言っていたことは本当だったということになる。
一颯は不意に
「少し確認したいことが」
と告げた。
山野は嫌な奴に捕まったと溜息を零して携帯を触り、一颯の質問に答えた。
一颯はその内容をメモに取ると
「勿論、記事にはいたしません」
その名刺は偽物ですから
と言うと立ち去った。
山野は驚いて
「はぁ!?」
と去っていく一颯を見送った。
一颯は友晴から着信があると
「今終わったから事務所に戻る」
お前も終わったらそのまま事務所に戻ってくれ
と言い通話を切った。
二人はそれぞれおこめ探偵事務所に戻り話を突き合わせた。
友晴は他の社員から聞いた話を告げた。
「勝野課長に関してはかなりきっちりとした厳しい人のようですね」
まあ特許申請の課なのできっとそうなのでしょう
そう言い
「でも下からの信頼は厚いようで厳しいとかきっちりしているとかはありましたが信頼はしていると応えていますね」
グループの中では会社をアトラス機器に合併させて事実上身売りをさせようとしている動きがある中で
「勝野課長は反対派のようです」
社員のリストラが目に見えているということで推進派の人たちをやり合っているようです
と告げた。
一颯は聞きながら
「その推進派の人間の話は?」
と聞いた。
友晴は少し考え
「それが…グループ側の遠田常務と中川常務ですね」
反対派がグループの会長の三清修蔵と辰巳常務です
と告げた。
一颯は少し考え
「今回依頼してきた畦倉は入っていないのか」
と呟いた。
友晴は頷いて
「名前は出ていませんでした」
と答えた。
「もしかして、今回の依頼を疑っているのですか?」
一颯は頷くと
「ああ、あの坂巻百合子の行動が気になってな」
と答えた。
「まるで俺達の目的を知っているように情報提供してきただろ?」
友晴は「確かに」と答えた。




