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エピローグ ~国王と元悪役令嬢~

お待たせいたしました!完結になります!

「セシリー嬢の思っとる通りじゃよ。上王ブレンダンは何人か隣国の民を保護した。その中に、かなり遠いが王族の血を引いてる子供がおったんじゃ。それがエニュラス家の始祖じゃよ」


「そうなんですね、やっぱり」


国王と同じテーブル席に座り、セシリーは紅茶を飲みながら話を聞いた。

国王は茶菓子のオレンジピールをスルメみたいにかじっている。


「エニュラス家はな、もと伯爵家だったんじゃ。ウチの姉ちゃんが嫁ぐ時、王領の一部を持参金に持ってって、公爵家に格上げになったのじゃ。……それが巡り巡ってこうなるとはのー、アレじゃな、世界というもんは、乙女ゲーなんてなくても、何らかの大きな仕掛けの中で動いているのかもしれんの」


しみじみと語った王は、紅茶を啜った。


セシリーはゼシクではなく、アラステアと婚約した。

アラステアは22歳。その年まで婚約者がいなかったのは、王統に連なる家系のため厳選していたのもあるが、本人が面倒臭がったからだという。

そんな彼が、「たまに夢に出てくる、2つ角の兜を被った老紳士と雰囲気が似ている」と言い出し、セシリーといい感じになった。これにはエニュラス公爵夫妻も万々歳だったそうだ。

ちなみに2つ角の兜を旗印にしていたのは、上王ブレンダンであり、マードック家の家紋にも描かれている。


アラステアは、来月には立太子の儀を経て王太子となるが、今は王宮で王太子教育を受けている真っ最中。

もともと公爵家跡取りとしての教育実績があるので、「カディス様の時に比べれば100倍くらい楽」と教育係が涙したという。


「それにしても、口説き文句が『夢に出てくる老人と似てる』というのは、いただけないわね。セシリー嬢はそんな人でいいの?」


シャーリー嬢が顔をしかめて言った。

今日の彼女はお化粧バッチリ・茶会用のドレスもバッチリで、都会の令嬢感が凄い。


「まあまあ、セシリー嬢が納得済みなら、それでいいじゃないか。血筋が呼び会う結婚なんて、ロマンチックだよね」


メリッサ嬢は朗らかに笑う。

薄化粧は彼女の容姿を映えさせ、ゆったりとしてシンプルなドレスがよく似合っている。


「不敬になるかもしれませんが、元王太子が国王にならなくて良かったと思います。アラステア卿なら、セシリー嬢の旦那様としても安心です」


エリシア嬢はお茶のおかわりを注ぎまわりながら言った。王宮メイドのお仕着せを着た彼女は、大変に可愛らしかった。制服系が似合うのだろう。


今日は元王太子に追放されたグループの、慰安お茶会である。

国王と婚約破棄された悪役令嬢は、王族が私的に使う、こじんまりとした離れのティールームで寛いでいた。

このメンツが同じ卓につくのは、1ヶ月ちょっとぶりだった。


なお、コルレット嬢はアダンとの結婚式の用意に忙しいため、欠席だ。「アダン様、強く生きて……」とシャーリー嬢がポツリと言っていたが、彼女はコルレット嬢の暴走現場を間近で目撃しているため、少し思うところがあるらしい。


「ふふ、ありがとう。私も、カディス様との婚約話がなくなってから、1ヶ月でこうなるなんて、夢にも思わなかったわ」


セシリーがほっこり笑った。

幸せそうで何より、とみんなで祝福する。


「私も今、ユイマール伯爵家の三男の方と、婚約話を詰めているところなのよ。6月の夏至祭には発表したいわね」


シャーリー嬢はクッキーを齧りながら言う。彼女の家は代々氷の魔力が高いため、その力を維持すべく、同じく氷の魔力を使える入婿候補を探さねばならない。1人娘は大変だ。


「私は今のところ予定ナシだなあ……学園を卒業したら、留学したいとは思ってるんだ。魔石の研究もしてみたいな」


メリッサ嬢の実家は放任主義だ。長男以外は好きな道を歩んでいいことになっている。いまだにリュカが言い寄ってくることがあるらしいが、一喝すればピャッといなくなるらしい。


「私は仕事あるのみです!まずは弟妹が成人するまでがんばります!」


エリシア嬢がガッツポーズしながら言う。この国の成人は15歳だ。いちばん下の弟が成人する頃には、彼女は適齢期を過ぎてしまうのだが、いいのだろうか。


「ふぉっふぉっふぉっ、若者は未来が明るくて羨ましいのう!……ワシなんか、1年は外遊も禁じられて、王宮に軟禁(カンヅメ)状態じゃけどね」


国王がボソッと呟いた。その目には光がなかった。


「「「 いえ、国王陛下は自業自得ですから 」」」


セシリー以外の令嬢の声がハモった。


「み、みんな容赦ないのう」


情けない声で言っても、誰も同情してくれない。


「仕方ないと思います!」


「監禁事件に巻き込まれた被害者仲間だと思ってたら、実はそいつが黒幕だったというオチで絶望した」


「自作自演のトンズラ狙いなら、無関係な人間は巻き込まないでほしかった」


「囚人用にしてはブランデーとかが上等な品だったなあと思ったら、看守室にいろいろ持ち込んでたと聞いて心底呆れた」


「女性用の囚人服(白ワンピ)は国王様の趣味だったと知ってドン引いた」


「……み、みんな……そんな映画ドットコムの星2.5感想みたいに畳み掛けなくても……」


令嬢たちに口々に責め立てられ、国王はすっかりぴえん&ぱおん状態だった(表現が古い)。


「それでも、国王陛下とマリー嬢のおかげで、婚約者の本性がわかったことには、感謝いたしますわ」


「そうだね。こうして、素晴らしい友と引き合わせてくれたのにも感謝しなきゃ」


シャーリー嬢とメリッサ嬢が、お互いに顔を見合わせて微笑みあった。


それを見て国王が「尊い……」とかホッコリしていたので、こいつ懲りねえなあとエリシア嬢が侮蔑の視線を飛ばしている。


「ところで、マリー嬢の行方はまだわからないのですか?」


セシリーが尋ねた。

国王はうむ、と顔を引き締める。


「元準男爵家や領地、学園都市内、その周辺を捜索したが、見つからなんだ。寮ももぬけの殻でのう。あと、書類上では昨年の4月に入学したことになってるんじゃが、そのあとの記録が白紙なんじゃ。まるで最初からそんな生徒は通っていなかったようにの」


そんな、とセシリーは呟いた。


国王が言うように、本当にヒロインは『データが飛んで』しまったのかもしれない。

飛んだデータはどこに行ってしまうのだろうか?

「おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました」って、今までの苦労はいったいどこへ……?

きっとそれは、誰にも永遠にわからないのだ。


「ヒロインが飛ぶという、斬新なバグだったのかもしれんのう」


うんうん頷きながら国王が呟いていたが、やはり令嬢たちには理解できなかった。


セシリーは何となく、マリー・ゴールド元準男爵令嬢には、二度と会えない気がした。会えたとしても、何を話したものか。

彼女には王太子を惑乱させたという嫌疑がかかっていたが、王宮では、王太子がアホなのをいいことに、取り巻きが好き勝手する材料にされただけ、といった意見もあり、見つからなければそれはそれで……という雰囲気になりつつある。さすがにゴールド家は準男爵の爵位取消とされたが。


「この先はもう、乙女ゲームとは全く関係ない世界になるのじゃな。ワシの先見もどきの記憶が通じるのもこれまでか……メーカーが飛んどるし人気なかったし、続編やらファンディスクもない。ここはアレじゃな、新たな王太子擁立&セシリー嬢との婚約パーティーで、ひとまず大団円ってとこかのう」


国王が遠い目をしながら言った。


「そうよ!立太子の儀のあとの婚約披露パーティー!気合い入れてドレス仕立てなきゃだわ!メリッサ嬢はもう準備してるの?」


シャーリー嬢が瞳をキラキラさせながら言った。


「うちはたぶん侍女が手配してると思うよー、でもメインはアラステア卿とセシリー嬢なんだから、そんなに気合い入れなくても」


「甘い!甘いわ!バッチリ決めて落ち合いましょ!社交界にこの令嬢ありと知らしめるチャンスだわ!」


いや、知らしめる必要あるのかな?とメリッサ嬢が疑問に思っている間に、矛先はエリシア嬢に向かった。


「エリシア嬢!あなたもきちんとおめかしして参加するのよ!」


「えぇ、私ですか?私はその日は給仕係として」


「つべこべ言わない!ドレスを用意する気がないなら、私が一式キメてあげる!前からエリシア嬢は磨けば光る逸材だと思ってたのよ!ああ腕が鳴るわあ!」


「ひぇ」


何だか燃え上がってしまったシャーリー嬢と戸惑うエリシア嬢に、メリッサ嬢とセシリーは苦笑いしてしまう。

国王陛下は、その様子を穏やかに微笑みながら眺めていた。


‡‡‡


「みんながお嫁に行っても、たまにはこうしてワシとお茶してくれると嬉しいのじゃが……ダメかの?」


お茶会が終わってから、国王がおずおずと聞いてきた。

令嬢たちは顔を見合わせて、喜んで!と答えた。

何だかんだと、彼らにはしっかり絆ができてしまっていた。


彼らのお茶会は定期的に行われ、そのうちそれぞれ子供を連れてきたので、賑やかなものになったという。


‡‡‡


「本当は、僕は国王にはあんまりなりたくなかったんだけどね」


立太子の儀のあとに催された盛大な婚約披露パーティーが終わってから、王宮の庭園でセシリーと二人きりになった時、アラステアは言った。


「でも、君が王妃に定められているなら、僕は王様にならなきゃ、て思ったんだ。夢のことや先祖のことより何より、セシリー、君を優先したいと思った」


明るい笑顔でアラステアは言った。

その後ろの花壇では、彼がいちばん好きだというスピードウェルの紫色の花が盛りを迎え、月光に照らされていた。

柔らかな緑色の瞳が自分を見つめていることに、セシリーの胸は高鳴る。


「アラステア様……」


二人はそっと寄り添って、初夏の夜の月を見上げた。


‡‡‡


のちに、このクーデター騒動は脚色され、元の話とはだいぶ違う子供向けの童話(フェアリーテイル)として語り継がれた。


それは空と大地を司るヒゲのオッサンが、5人の姫君たちと協力し、悪い王様を懲らしめるという内容で、


「おい呪いどこ行った。オッサンと国王が分離しとるのじゃが。ていうかワシはどっちに配置されとるの?王様?オッサン?」


……と誰かが激しく突っ込んでいたが、12月末の新年を迎える祭りで、定番の演目になったという。


以上で全て終了いたしました!

宣言通りに更新できなくて申し訳ございません!

実を言うと「呪われた国王(オッサン)がシチューとカレーと肉じゃが作る」という思い付きだけで始めたので、あとは全部後付けでした…。

次は最後まで書いてからアップしていくとか、いろいろ対策してみたいと思います…。

伏線拾い忘れとかあったらすいません。

最後までお付き合いいただきまして誠にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったけど最後まで登場人物覚えられなかったです/(^o^)\オバカ [気になる点] 学園シーンがないので王子ちょっとかわいそうだなぁ、位とオッサンのハゲはあったのか [一言] 一日の半…
[良い点] 面白かったです [気になる点] セシリーとおっさんが結ばれることを期待してました [一言] 肉じゃがに糸こんにゃく入れちゃうので使い回しができない(´;ω;`)
[良い点] 完結お疲れ様です。
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