60:道中
クイとポーロの経緯を聞き、俺たちはひとまず、迷宮近くの村に向かうことになった。
遠回りだが、クイとポーロが村を経由しないと迷宮までの道のりがわからないというから仕方ない。
命からがら逃げてきたわけだから、道を覚えている余裕がなかったというのは理解できる話だ。
それに焦って急いでいるのはクイとポーロの二人だけで、俺たちは別に時間に追われているわけではないから構わない。
村は街道を進めば必然的に到着する。
ある程度の算段が付いたからだろうか。気が緩んだようでクイとポーロは少女剣士に話しかけ始めた。
「それにしてもひでえじゃねえか、ヴィクトリア。見捨てようとしやがって。」
「昔お前を馬鹿にしたことを根に持ってんのか?怒るなよ。ガキの頃の話だろ。」
こいつらは馬車の外を並走させている。こいつらのために開けてやる空間などない。ゆえにクイとポーロの声は結構な大声だ。さすが剣士というべきか。ボロボロのわりに体力がある。
「今でもガキじゃん。」
少女剣士はクイとポーロの言葉にぶんむくれながらつぶやく。当然その声は小さすぎて屋外のクイとポーロには届かない。
「ちょっとは強くなったのかよ。今でも剣王になるとか言ってんのか。」
「さすがにもう諦めただろ。女じゃ剣王にはなれない。それよりヴィクトリア!また手合わせしてやってもいいぜ。俺たちは里で稽古を続けてたからな!結構強くなったんだぜ。」
俺相手では萎縮する二人も、ヴィクトリアを相手にするとマウントをとることに余念がなかった。幼少期の印象が今なおそうさせるのだろう。
中途半端に腕っぷしに自信のある奴、マウントとりたがるのなんなんだろうな。
「ぶっ殺す!」
少女剣士もマウントを取られたと認識したようで、いきり立つ。馬車の座席から勢いよく立ち上がり、
「あだっ!」
頭を馬車の天井にぶつけて、また座った。さすがに恥ずかしかったようで顔を赤らめている。
外でクイとポーロがその様子を見て笑っている。
少女剣士はさらに拗ねてハクモを抱きかかえ、ふてくされてしまった。
「おい!悪かったって怒んなよ。」
「謝るって!おい!」
少女剣士に相手にされなくなると途端にうろたえだす二人。
もしかしたら剣士二人に悪気はないのかもしれない。
ただ気になる女子にちょっかいかけてるだけなのかもしれない。
少女剣士も年頃になり、体も丸みを帯びてきた。少女剣士自身にも羞恥心のようなものが芽生えてきている様子がある。顔立ちもなんだかんだ整っているし、思春期男子が粉かけても不思議ではないかもしれない。
明かに逆効果だが、色ボケたクソガキ童貞なんて皆こんなものだろう。他にコミュニケーションの取り方を知らねえんだ。仕方ない。
「拗ねてねえでお前も手伝ってくれよ?師範代にはお前も世話になってただろ。」
「それはそうだけど…。」
「師範代メヒコか。」
俺が師範代メヒコの名に反応すると、耳ざとく聞き取った剣士二人がビクついた。
「ご存じで…。」
今まで涼し気に並走していたクイが汗を垂らしながらどうにか言葉を絞り出した。
「有名人だろ。鉄人メヒコ。3日3晩、神官の援護もなく闇の眷属と戦い続けたとかいうイカレ野郎だ。」
俺も三日三晩戦い続けることは可能だが、それは神聖術による治癒があるからだ。さらに破魔付与や浄化の神聖術で闇の眷属を滅ぼす術を持っているからだ。メヒコは神官の援護がない素の状態で、滅する術のない闇の眷属相手に三日三晩戦い続けたらしい。最終的には聖騎士が駆け付け、滅することに成功したらしいが、とんでもない話だ。三日三晩戦い続ける能力と討滅不可能の敵と戦い続ける精神力には素直に感服する。
「そいつが撤退の判断をしたということはそれなりの戦力が奴らにはあるってことか。」
「そうなんです。なのでぜひお力を拝借したく。」
俺が助勢を渋っているように見えたのか、クイがそんなことを言ってきた。
「お頭、この二人はむかつくけど師範代は助けたいな。」
「俺達の命優先だ。無理して助ける義理はない。」
表情を曇らせる少女剣士。上司として一応気遣いも必要だと少女剣士の気分が上向きそうな言葉をかけてやる。
「やばくなったらこの剣士二人を囮にしよう。師範代メヒコも死出の旅路の道連れは多い方がいいだろ。」
剣士二人はぎょっとした表情をしたが、少女剣士の表情は晴れなかった。
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