58:人間性を疑う人間の人間性を疑うね!
襲ってきたボロボロの二人の剣士を制圧し拘束した。
ソードマンは奮闘したが、ボロボロとはいえ剣士二人を相手にするにはさすがに力不足だった。
とはいえソードマンの実力を実戦で確認することが出来た。
戦力としては剣士一人よりもやや強いといった程度か。
そしてソードマンに手に負えないとわかるや否や、ハクモは白蛇を巨大化させ、二人同時に拘束してしまった。
流れるような早業で、俺達が加勢する隙もなかった。
ハクモの能力の高さを再確認出来て喜ばしいが、少女剣士が戦闘意欲を発散できずにむくれているのが気がかりだ。
だが、それよりもまずは拘束した二人の剣士の処遇を決めなければならない。
とりあえず、剣士の話を聞くだけ聞くか。
こんな怪しげな剣士に話を聞くつもりはなかったが、こいつらと戦闘するという手間をかけたのだ。思わぬ収穫がないか確認するだけしてみよう。
俺達は現在任務目的地周辺と言っていい場所まで来ている。
周辺の情報だけでも入手できれば及第点だ。
話を聞いている途中で脱走され、暴れられる危険もある。
だが、問題ない。その兆候があればすぐに殺す。
捕らえた剣士二人の生殺与奪の権利は我が手中にある。
役に立たなければ悪即斬だ。
剣に手をかけ神官を襲ったのだ。殺されても文句は言えない。俺が世間から文句を言われることもない。
などと考えていた時だった。
「ん?」
剣士の一人が少女剣士に視線を止め、逡巡したのち、何か気づいたように目を見開き叫んだ。
「お前ヴィクトリアか!」
「なに?本当だ!ヴィクトリア!」
「ん?」
剣士の言葉に少女剣士が怪訝な顔をする。
「俺だよ俺!」
「誰?」
「俺だよポーロ!」
「俺もわからないか!?クイだ!里では何度も手合わせしただろ!」
少女剣士は剣士二人の顔を難しい顔で眺めているかと思ったら、すぐに嫌そうな顔をした。
「ああ。ボロボロになっててわからなかったよ。」
剣士二人は少女剣士の表情にも気づかず、表情を希望で綻ばせた。
「よかった!剣士のよしみだ!助けてくれ!」
「知り合いか?」
「うん。まあ。」
「助けたいか?」
「別に。我あまりいい思い出がないよ。大して強くもないのに女であることを馬鹿にされてたし。正直今のこいつらを見て言いざまだと思ってる。もっと苦しめ。」
「お、おう。そうか。」
温度の低い少女剣士の言葉。こいつ偶に残酷なとこあるよな。
とはいえ気持ちはわかる。
そうだよな。嫌いな奴にはできるだけ苦しんでいてほしいよな。
ただ、嫌いな奴が目の前で苦しんでいたとしてもそいつが存在するだけで気分が悪いから喜ぶこともできない。
やはり死こそが唯一の救済なのだろうか。
「なんだと!?」
「同じ剣士だろ!仲間を見捨てるのか!」
少女剣士の反応に捕らえられている現状を忘れたかのように気色ばむ剣士二人。
「慈悲の心はないのか!」
剣士共が口角泡を飛ばし叫んでいる。これも命乞いの一種なのだろう。必死なのはわかるが決定的に方法が間違っている。
「人間性を疑うね!」
「人間性だぁ?」
他人事としてこいつらの会話を聞いていたが、剣士のセリフについ反応してしまった。
「あ、やばい。悪い意味でお頭の琴線に触れちまったよ、あの二人。」
「どうゆうこと?」
部下の言葉に少女剣士が首をかしげる。
「いや、お頭、ああいう人だから、何かにつけて人間性やら人格やらにケチをつけられることが多くて…。」
「え?我それで怒ってるとこ見たことないけど。」
「あれで相手や状況を選ぶ人だから。今回みたいに相手が非アスワン教徒の剣士で自分たちを襲って拘束しているような状況じゃないとなかなかキレても表に出さない。その代わり、表に出す時暴走しがちになる。」
「ふーん。それにしても、お頭が先にキレちゃったから我怒りそびれたんだけど。」
少女剣士と部下の会話を無視して俺は拘束している剣士に近寄る。
俺は首をひねり、下からねめつけるように拘束されている剣士二人を睨む。
「人間性とはなんだ!?言ってみろ!」
「いや、その、人間性を疑うと言ったのはあんたに対してじゃないんだが……グブァ」
口答えする剣士を殴ると、情けないことにぐったりと天を見上げる形で意識を失った。
「ポーロぉぉ!てめえ何しやが…いや、なんでもないです。」
俺に殴られていないクイとかいう剣士を睨みつけると、勝手に日和ってきた。剣士とは思えない軟弱さだ。
「えっと、人間性ってのは今回の文脈で行くと、仲間を大事にするとか慈悲の心とかそういうもののことかと思います。はい。」
クイが俺の眼力に耐えかねて、俺の先の質問に答えた。やたらと腰が低く、もみ手をしている様子が幻視できるほどだ。
だが、そんな態度程度では一度火がついた俺の心を鎮火するには至らない。
「はあ?仲間を大事にすることや慈悲の心が人間的なんですかぁ?獣だって群れの仲間を大事にするし、親は子を慈しみますけどあれは人間的ですかぁ?」
「いやぁ。人間的じゃないかもしれませんね。はい。あはは。」
なにへらへらしてんだ。ぶっ殺すぞ。
「いいか。人間を人間たらしめているのは理性だ!感情だとか本能だとかに流されず自らを律するのが人間だ!それが出来ず、本能に流されるのが獣だろうが!獣にはできず、人間にはできることこそが人間性じゃないのか!?なぁ?」
「はい。そうかもしれません。」
「なら、仲間だとか慈しみだとかは人間性とは関係ないよなぁ?」
「はい。」
何が俺を駆り立てるのか、自分でもわからない。しかし、言葉は脳を経由せず、脊髄反射で口をついて出る。
「大体俺は人間性を疑う人間の人間性を疑うね!人間性を疑うってどうゆうこと?人間にとって大事なものを持ってないんじゃね?ってことか?だったらてめえは持ってんのかよ!?何上から目線で批評してくれちゃってんだぁ?もしかしてその傲慢な姿勢こそが人間性ってやつだったりするんですかぁ?そもそも人間性のある人間は他人の人間性を疑わねえだろうがバァカ!そこんとこどうなんだ!?」
「おっしゃる通りかと。」
「そうか!わかったか!わかったら理性に基づきお前を殺す。わからないようなら感情に基づきお前を殺す!さあ答えろ!」
「うぇぇっ!?」
顔面蒼白にして怯える剣士を無視して腰からメイス「戒め」を取りだす。
「俺は大した知能もないくせに、都合のいい時だけ人間性だとか道徳だとか常識だとか、そんなふわっとした具体性のない素敵な言葉を並べ立てて他人に行動を強要する奴が大嫌いなんだ!」
「うわっ、ちょっとお頭マジっすか。せめて情報収集してからにしましょうよ!」
「我は早くこの世から消えてほしいかな。」
部下と少女剣士の言葉を尻目に俺はメイスを振りかぶる。
「言い遺すことはないか。」
「いやっ、えっ、そのっ、マジ?」
クイは恐怖と展開の速さに脳がついてこず、まともに話すことが出来ていない。
情報もとらずに殺す気はなかったが、なんか興奮してこんな流れになってしまった。
もういっそ流れに身を任せてこいつを亡き者にするか、それとも一度クールダウンすべきか。俺の優秀な灰色の脳細胞がその刹那に思考する。
眼前の剣士を殺すか否か。
途端視界が暗転した。
気づけば一面、白い空間にいる。
実に久しぶりだ。懐かしさすら感じる。
前方には宙に浮いた神聖美幼女。
空中に浮きながら、腕と足を偉そうに組んでいる。
むすっとした表情をしているが、こいつはいつも不機嫌な表情をしている。
神聖美幼女の表情からこいつの要件を推測するのは難しい。
「ちっ、相変わらず失礼な奴だ。神の使徒に対してこいつとは。」
仕方ねーだろ。脳内読み取られている状態なんだから。伝える言葉を選択できたならきちんと敬語を使っていただろう。
「ふん。不愉快だ。貴様と相対している時間がもったいない。よって単刀直入に用件を伝える。」
一呼吸置き、もったいぶってから神聖美幼女は言葉を続けた。
「眼前の不信心者共を殺すな。話を聞け。その先に忌むべき異教徒共がいる。」
不信心者とは剣士のことだろう。
俺が奴らを殺してしまいそうだったから、それを止めるためにこの神聖美幼女は出てきたということか。奴らがヴァジュラマ教徒を追う手がかりになるから。
異教徒が必ずしもヴァジュラマ教徒のことを指すわけでもないが、状況的にヴァジュラマ教徒だよな?今任務中だからそれ以外の異教徒に構ってられないんだが。
異教徒絶対殺すマンの神聖美幼女のことだから、ヴァジュラマ教徒じゃない可能性も十分ある。
そこんとこどうなんすかね。信じていいんすかね。
「知らん。ただその不信心者共は臭う!排すべき異教徒の臭いだ!人間のクソを煮詰めて腐らせたクソみたいな臭いだ!」
クソから出来た生成物だったらそりゃクソみたいな臭いになるだろう。
「用件が済めば不信心者等どうでもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。」
そして神聖美幼女は目をカッと見開き両手を広げ叫んだ。
「異教徒を滅ぼせ!奴らの苦悶の声だけが我が主の無聊を慰める!」
嘘つけ。それが本当なら神様は邪神だろ。
気づけば神聖美幼女の白い空間から現世に意識が戻ってきていた。
俺はメイスを振り上げたまま、怯える惨めな剣士共を見下ろしている。
俺はメイスを下ろし、笑顔を作り友好的な雰囲気を作る。
「まあ、そうな。話だけは聞くか。」
俺の急な態度の変化に戸惑う様子を見せる剣士。
まあ、言い遺すことはないかとか言った直後だからな。ビビるのはわかる。
情緒不安定なイカレ野郎と思われたかもしれない。
だがそれも悪い事じゃない。
情報を聞き出す際には良い方に作用する。
下手な回答をしたら何をされるかわからないという恐怖は人を従順にする。
素直に必要な情報を話してくれることを願う。
「俺の気が変わらないうちに話せ。要点だけ簡潔にな。」
剣士クイは決死の表情で話し始めた。
「頼む!師範代を、皆を助けてくれ!」
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