22:神聖美幼女再び
敵部族との戦争に勝利し、ひと段落ついた。
また明日から、ハン族の奴らに媚び売って布教に遁走する日々がやってくる。
しかし、一仕事終わった後ぐらい何も考えずに就寝してもいいだろう。
そう思って寝たのだが、直後俺は真っ白な空間にいた。体は動くが声を発することが出来ない。
『よくやった。褒めて遣わす。』
聞き覚えのある声が響いた。
正面にはいつぞやの神聖美幼女。
神の使徒を名乗り思考を読み取るあいつだ。
教会建設完了後も現れなかったし、もう現れないんじゃないかと一縷の希望を抱いていた。
しかしそうは問屋がおろさなかった。
『跪け。我は恐れ多くも神の使徒である。』
相変わらず不遜で傲慢な物言いだ。見た目が美幼女だから我慢できるが、これがおっさんだったら歯の一、二本はへし折っている。
『よくやった。褒めて遣わす。よくぞ異教の豚共を駆逐した。』
口の悪いことだ。
信じられるか?こいつ神の使徒なんだぜ。神様には使いの選別をもっとしっかりやってほしい。これでは品格が疑われる。俺のような敬虔な信徒の心が離れてしまう。
『貴様のような人間を敬虔とは言わない。罰当たりにもほどがある。慎め。』
いらんことを考えてはいけない。そんなことはわかっている。
しかし、駄目と思えば思うほどいらんことを考えてしまうのが人の性だ。
さらに困ったことに、俺は人一倍他人の粗探しが得意だ。
こりゃまいったね。
『悪いと思うなら態度だけでもそれっぽくしたらどうだ?いい加減跪け。』
神聖美幼女の言う通り、俺は未だぼけーっとつっ立っている。
何故ってこいつが命令するばかりで褒美の一つもくれないからだ。感謝の言葉一つじゃ安すぎる。
翻訳の恩寵?それについてはどうもありがとうございました。おかげで布教が捗りました。
しかしそれを差し引いても俺の働きには御釣りが出るだろう。
大体この新天地で俺より優秀な手駒はいないはずだ。この神聖美幼女に人並みの頭脳があれば俺が有能である限り、殺されることはないだろう。へりくだる必要なんてない。
大体神官だって地上では神の代弁者を気取っているのだ。俺たちも神の使徒といえるんじゃないの?この神聖美幼女も特殊な神聖術を扱うだけの同僚じゃないの?
百歩譲っても上司だろう。中間管理職だ。上には唯一神、下には神官。最も自由のない生き物。それが中間管理職。
上司の処罰を恐れてそう簡単に部下を罰することなどできまい。そもそも、神聖美幼女にも神より下された使命があるはずだ。有能な部下である俺の反感を買うのは得策ではないはず。ましてや害するなど使命に差し障るだけだろう。
そこんとこどうなんですかね?態度を改めるなら今のうちじゃないんですかね?
『ふん。重ね重ね罰当たりな奴だ。しかし我は寛大だ。結果を出した者を罰したりはしない。』
そうだろう。そうだろう。
この神の使徒とかいう不思議生命体にも人間様と同様のモラルがあるようで何よりだ。
『結果に執着し拘泥しろ。それが神の僕のあるべき姿だ。信仰の証明だ。』
言うことがいちいち極端で過激だ。本当に愛と平和の創造神の使徒だろうか。
『お前は信仰を示した。褒美をやる。』
今までの思考を放棄し、俺は跪いた。
褒美!前回は翻訳の加護だった。実に有用だったが、今回はもっと布教に有用なものが欲しい。具体的には洗脳とか傀儡とか隷属とか。次点で死霊術だな。人手が増えるなら何でもいいが。
そうゆうことはもっと早く言ってくれよ。わかってたら最初から変な反抗なんてしなかったんだ。
『そんな能力を付与する権能はない。翻訳の加護だけだ。翻訳の加護にバリエーションを与えよう。』
俺は黙って立ち上がった。
跪いて損した。
期待外れだ。端的に言ってしょぼい。
『お前が泣いて喜ぶタイミングでくれてやるからその時は這いつくばって靴を舐めろ』
一貫して不機嫌そうな無表情の神聖美幼女だったが、ことさらに不服の意が読み取れる表情だ。具体的には眉間のしわがより深まった。
褒美は結局先延ばしだ。
神聖美幼女の足に視線をやる。ふにふにのあんよがそこにある。
褒美とやらが喜ばしいことならば、誰が見ているわけでもなし、靴を舐めるのもやぶさかではない。
しかし靴を舐めろと仰せだが、舐める靴をそもそも履いてない。
足を舐めるか?
まあ、神の使徒を自称していて足にばい菌がついていることもないだろう。清浄なはずだ。足を舐めることになっても問題ない。
『ハン族とかいう異教徒共は貴様の働きに免じて見逃そう。愚かな不信人どもを啓蒙し、教化しろ。未開の猿共に神の偉大さを知らしめよ。』
その言葉を最後に俺の意識は薄れていった。
美幼女は4話「俺だって下等生物相手なら優しく出来るわ」で登場しています。
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