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ヤンデレ×ちょろイン=地雷原!?  作者: 木花 赫夜
一章 同級生は病んでいる
29/35

二十六話

2019/11/08

第二十六話を投稿致しました。


設定に違和感を覚えるとのご指摘を頂いたので、一部内容を修正致しました。拙い文章で申し訳ありませんが、ご指摘くださった方、ありがとうございます。


――ピコン。


テーブルの上に置いたままの琴葉のスマートフォンから、メッセージを受信した通知音が鳴った。


「着いてしまったみたいね」

「そんなに残念そうに言うところ?」


諸事情により彼女に背を向けている為、その表情を確認することは出来ない。しかし、声音からでも感情が読み取ることが出来るくらいに分かりやすかった。


「当然じゃない。叶うならずっとこのままでいたいくらいだもの」


当然と言い切る琴葉だったが、直後に耳元でくぅ、という音が鳴った。


「……琴葉?」

「な、何かしら。あなたは何も聞こえていないはずよね。お願いだからそうだと言って」


「それは無理があるかな。身体は正直みたいだけど、お腹すいたんだよね?」

「……お邪魔したわね。迎えが来てしまったみたいだから名残惜しいけれど帰るわ」


どうやら無かったことにしたいらしい。そうは言っても先程の可愛らしい音が耳に残っている。


「よいしょっと」


このままでは琴葉も身動きが取れないので、身体を起こして隣に腰かける。


「お腹の音くらい気にしなくてもいいのに」


真っ赤な顔とじとっとした視線がそれ以上は言うなと物語っている。女の子にとっては恥ずかしいことだったようで、自分のデリカシーの無さを反省する。


「えっと、ごめん。可愛かったよ?」


誠意を持って謝り、取ってつけたようなフォローを口にすると、刺々しい雰囲気が幾らか緩和された。


「徹ったら、そう言っておけば許されると思ってないかしら」


言葉はまだ不機嫌さが残っているが、表情が一致していない。口元がにまにまと笑みの形を作り、目尻はやや下がっている。取ってつけた言葉は思っていたより効果があったようだ。


「なんだか気分が良いから今日は許してあげるけれど、次はないわよ」


きっと次も同じ手段が通じるだろう。膝枕を堪能したこととは別に、上機嫌な彼女の様子を見てそんなことを思った。


「分かった。次から気をつけるよ」

「分かればよろしい」


どちらからともなく立ち上がると、琴葉は真っ白いワンピースに出来てしまった皺を手で軽く伸ばし、玄関へと向かった。


「下まで送るよ」

「ええ、ありがとう」


今日一日でデリカシーが欠落している事が分かったので、せめてこういったところだけでも紳士的にしておこう。玄関の扉を開けて彼女を先に外へ出し、エレベーターに乗る。一階に着くと入口の方に、だいぶ見慣れた車とは少し違った車が停まっていた。


「あれ、お父さんじゃないの?」

「そういえば、徹は初めて見るわね。父の仕事柄、朝の通勤時間以外はあまり時間が合わないのよ。前に歩いて帰ろうとした時に事故に遭ってから、父が迎えにこれない時は代わりのために代わりの人を雇っているの」


「そうだったんだ……無事だったみたいで良かったよ」

「ええ、()()()()()


そんな話をしながら車に向かうと、こちらに気がついたのか運転席の扉が開いた。出てきたのは俺と同じくらいの背丈で白髪頭の男の人だった。


「琴葉さん、お迎えに上がりました」

「ありがとうございます。藤堂さん」


「そちらが例の方ですか?」

「ええ、彼が一 徹くんです。同じクラスになりました」


「そいつは目出度い。私は琴葉さんのお父上にお世話になっている藤堂と言います。今後とも琴葉さんをお願いしますね」

「あ、はい。こちらこそ琴葉さんには助けられております。よろしくお願いします」


藤堂と名乗った男性は壮年の男性で、目つきは鋭くどちらかと言うと強面ではあったが、物腰が柔らかく優しそうな人という印象だ。藤堂さんはスーツを着てはいるが体を鍛えてるらしく、肩幅や腕周りが少しきつそうだった。


「では、琴葉さん」

「はい。徹、また明日」


「うん、また明日」


後部座席が閉まると、スモークガラスがゆっくりと下りる。隙間から顔をのぞかせた琴葉が名残惜しそうに手を振っていた。


「では、私もこれで」

「はい、お気をつけて」


藤堂さんが運転席に座った時、ふと違和感を感じた。ドライバーがするような白い手袋の、小指の部分だけがまるで()()()()()ように潰れている。事故によるものなのか、それとも……。


そういえば琴葉の父の車は黒塗りの高級車で、この車も違うタイプの高級車だ。琴葉自身も話し方や振る舞いから随分と育ちが良いのだろう。俺は彼女の父がなんの仕事をしているのかを知らない。色々な可能性が頭をよぎったが、俺はそれ以上考えるのをやめた。


発進した車が見えなくなるまで手を振って見送り、一息ついてから部屋へと戻る。さっきまで琴葉がいたリビングがやけに広く感じて、少し寂しい気持ちになってしまった。


転入以降、たった数日のはずが知らぬ間に濃い日常を過しているおかげで、バスケが出来ない喪失感は紛れていた。少し積極的過ぎる女の子には困ったものだけど、新しい友人もできた事だし、今までとは違う環境での楽しみは見つけられそうだ。


明日も部活があるらしいので、あの小さい先輩との話の種に出来るようにと進めてもらった動画を見ながら一人の夜を過ごした。



翌日、朝はいつも通り琴葉が迎えに来たので一緒に登校する。学校へ着くと、友人たちと挨拶を交わして席に着いた。


「――おはようございます、徹くん」

「ああ、おはよう委員じゃなくて、恵」


「まだ慣れないですか?」

「そうだね、あんまり女子を名前で呼ぶことも無かったし、委員長って呼んでた時の癖が出そうだよ」


「徹くんは他の人と違うんですから、気をつけてくださいね?」

「違うって、それどういう――」


言いかけた言葉は教室に入ってきた見知らぬ人物に目を奪われたことで遮られた。他のクラスの子だろうか。何人かは知り合いみたいで挨拶を交わしている。その女子は坂本さんを見つけると早々に声をかけた。


「優菜おはよう。さっき知ったんだけどね。なんか藤子が家の事情で学校辞めちゃうらしいよ」

「え……なんで」


呟いたのは坂本さんだ。記憶が確かなら、峰藤さんは確かバスケ部の見学に行った時に話しかけてくれた女の子だったはず。あの時はそんな様子はなかったので、親の都合あたりだろうか。


「そんな……でも先週は体調不良って言ってたよね?」

「昨日休んでる間の宿題とか届けに行った子が、藤子の家誰もいなかったって言ってたんだよね」


坂本さんは顔色を蒼白に染めて、受け入れ難いといった様子だ。


「徹くん、知っている人ですか?」

「うん。女子バスケ部の子で、見学に行った時にちょっと話しただけだけどね」


後ろの方の席で恵と声を抑えて話す。坂本さんの他にバスケ部で繋がりのある彰や宗次郎が近くで話に加わっている。


「ごめんね。まだ噂話くらいで本人から聞いた訳じゃないの。もしかしたら優菜が何か知っているかもと思って」


確か琴葉も一応面識があったはず、そう思って少し離れた席の彼女に視線を向けると、ちょうど向こうもこちらを見ていたようで目が合った。


琴葉はというと、今の話に全く興味がないのか、それとも峰藤さんのことを覚えていないのか、微笑みながら控えめに手を振ってきた。


「おはようっと、おーい自分の教室戻れよー」


納得出来ない様子の坂本さんだったが、宮崎先生が教室に来たため渋々といった様子で着席した。やはり違うクラスの子だったようで、その女子はあとでまた話そう、と言って自分の教室に戻っていく。


そうか、もう一回くらいは話してみたかったけれどしょうがない。俺自身、中途半端な時期に休学からの転入を経験している。そのせいか、まあそういうこともあるか、くらいの感情しか湧いてこなかった。


俺は薄情な人間かもしれない。そんな考えを見透かしたように、タイミング良く恵が励ましてくれた。


「大丈夫ですよ。私なんて会ったことも無いので悲しんでる人には悪いですけど、なんとも思っていませんから」


「だから、徹くんが気にするほどのことじゃありませんよ」


恵のおかげでそういうものかもしれないな、くらいには気持ちを切り替えることが出来た。


「そんなことより、今日は部活行きますよね? ちい先輩がゲーム用意してくれてるそうですよ! 楽しみです!」

「本当? それは楽しみだね。 放課後が待ち遠しくなるよ」


朝から暗めの話題を聞かされていたが、部活のことを考えるともやもやした気分も晴れてくる。先輩が用意したゲームとは一体なんだろうか。


期待感に胸を膨らませているうちにHRが終わっていた。


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