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ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険  作者: 守 秀斗
第十一章 うら若きは疲れた二十六歳悄然とする乙女/魔法禁止令編
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第七十二話:釈然としないあたし

2020/10/26 誤字訂正

 トイレを出て、一旦、安全企画室の扉を開けて、パオロさんと官報整理をしているミーナさんに声をかける。

「ちょっと、官房長官室に行ってくるけど、話がいつ終わるか分からないから、勤務時間が終わったら帰っていいです。あと、チョコの箱の封を開けて食べていいですよ」

「わかりました」とまた大人しく穏やかに微笑むミーナさん。

 さっきのアデリーナさんとの大喧嘩はなんだったのか。

 もしかして、リーダーからあたしが身を引かなかったら、毎日、この部屋でミーナさんと大喧嘩していたのだろうか。

 二人で首の絞め合いをやって、殺し合いになっていたんじゃね。

 想像して、恐怖で震えるあたし。



 あたしはフランコのおっさんの部屋に行った。

 官房長官室のソファに、フランコ長官とクラウディアさんが並んで座っている。

 ソファテーブルの上には百年前の官報が置いてあった。


「さて、何用でしょうか」

「キングゴブリン塔って知ってるか。そこに行ってもらう」

「確か、北方にある廃墟ですよね」

「百年前、キングゴブリンというゴブリンの親玉がいて、北方地域を支配していたが、冒険者たちによって退治されたようだ」

「それを題材にしたつまらない小説を読んだ事がありますよ」

「キングゴブリンの支配地域に大きい集会場があって、そこにゴブリンたちをおびき寄せて、爆破して全滅させたようだ。ただ、そのすぐ近くにあるキングゴブリン塔は、ものすごい頑丈なので、壊せなかったらしい。また、支配していた地域は、頑丈な外壁で囲まれている。その地域は当時の政府が取得したらしい。その事は、この官報に記載されている。しかし、結局、そのままほったらかしにされて、廃墟となった」

「えーと、その廃墟がどうかしたんですか」

「実は、そこに冒険者の連中が集まっているんだ」

「何人くらいなんですか」


 クラウディアさんが、

「情報省の調査によると、千人くらいと推測されています。その人たちが反乱の準備をしているという情報が入っております」と相変わらずニコニコしながら言った。


 おいおい、千人の冒険者とあたし一人で対決しろって言うんかい、四角い顔のおっさんと天然女神は!

 もう、たまらなくなって、思わず口に出してしまった。

「千人の冒険者なんかと戦えませんよ! 私は逃げますよ!」


 すると、

「いいぞ、逃げて」とフランコのおっさんが言った。

「へ? 逃げていいんですか」

「そもそも戦えなんて、言ってないぞ」

「じゃあ、何しに行くんですか」

「調査と説得だな」

「どういうことですか」

「政府の代表が行ったのだが、入れてくれなかったんだよ。反乱の気配があるか調べて、出来ればリーダーを説得してこい。あと、この官報を持って、この遺跡は政府のものだと説明してくること」

「冒険者たちのリーダーとはどんな人物ですか」

「イヴァーノ・アルベリーニという魔法使いだ。かなり周りの冒険者たちから尊敬されているらしい」

 イヴァーノ・アルベリーニ。

 この前、デモしてた人だ。


「イヴァーノ・アルベリーニは王宮前の大通りでデモをやってましたよ」

「ああ、知っている」

「危険じゃないですか」

「デモで攻撃魔法とか使っていたか」

「いいえ。けど、卵とか石とか投げつけてはいましたけど」

「じゃあ、大丈夫じゃないか。紳士的だな」

 なにが大丈夫で紳士的なんだよ、暴動状態だったぞ、おっさん!

 

「実は、私はイヴァーノ・アルベリーニを十年前にニエンテ村で見たことがあるんですが」

「そりゃ、良かった。仲良いのか」

「見ただけで、一言も喋ってないですよ。向こうは私の事なんて、覚えていないと思います。あと、なんて説得すればいいんですか」

「冒険者たちは仕事が無くなって困っているわけだが、モンスターがいなくなって、今まで人が入れなかった危険地帯が少なくなり、土地がかなり余っている。そこで、農業をやればいい、簡単なことだ」

 また、簡単なことだって言いやがったな、おっさん。

 このおっさんには全て簡単に思えるのだろうか。


「農業ですか。冒険者のプライドが傷つきそうですけど」

「農業のどこがいけないんだ。立派で大切な仕事じゃないか、地味ではあるが」

「まあ、そうですけど」

 うーん、確かに農業も立派で大切な仕事ではあるけど、冒険者なんて、地味な仕事が嫌でなった人が多いのに。

 特に魔法使いなんて、プライド高そうだなあとあたしは思った。


「けど、政府の代表者が行ってもだめだったのに、何で私が入れるんですか」

「今回は文化庁の職員と行ってもらうんだよ」

「文化庁? そんな省庁あったんですか」

「国の文化遺産の保護や芸術活動の支援を行っている組織だ。キングゴブリン塔は国の貴重な遺跡という認定がされたんだよ。そこで、遺跡の調査という目的で打診したら、入ってかまわないという回答は得ているんだ。だから、お前も私はドラゴンキラーだと堂々としてろ」

 ドラゴンなんて倒してないから堂々となんてできねーよ、おっさん!


「もう、いっそ軍隊が突撃したらどうですか」

「そんなことして、冒険者の連中と戦争になったら、大勢死傷者が出るだろう。そんな事はしたくないんだよ」

 ふーん、カクヨーム王国との件と言い、フランコのおっさんは顔に似合わず平和主義者なのかな。出来れば、あたしに対しても平和主義にしてほしいなあ。怒鳴られてばかりで、最近、耳の鼓膜が痛いぞ。


「もし説得に応じなかったらどうするんですか。イヴァーノ・アルベリーニが怒ったら」

「なるべく話をおだやかにもっていくことだな。それに、もしそうなっても、お前はドラゴンキラーだから大丈夫だろ」

 おい、おっさん! 結局、また、ドラゴンキラーで済ますつもりかよ。

 ドラゴンキラーは最強魔法の呪文じゃねーよ!


 と言うわけで、あたしは文化庁の調査員と一緒に、キングゴブリン塔に行くことになった。

 やれやれ。

 フランコのおっさんと話していると、疲れるよ。

 安全企画室に戻って、チョコの箱の封を開けて食べる。


 しかし、どうも釈然としないなあ。

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